第三章 涼州からの風

第76話 斬新な提案

はいこんにちわ。美少女無職の董青ちゃん13才です。


涼州大反乱の討伐軍の根拠地である長安チョウアン城。

その中の董卓トウタク屋敷に私はいます。



皇子をさらってきたと報告したら、董卓パパがぶっ倒れてしまわれました。

まさかパパが倒れると思わなかったので急いで駆け寄って抱き起し……抱き……重っ?!無理ぃ……


「わはははははは」


気が付くと董卓パパはぱっちり目を見開いて、大声で笑っています。大丈夫でしょうか、頭でも打ったのかな。


「あはは、こんなところに皇子殿下だと?面白い冗談だ。みんな笑え」


……心配そうに見つめる部下たちは豪胆にも笑い飛ばす董卓パパを見て安心したのか、ちらほらと笑い始めます。


「……はは」

「ははははは」


冗談ではないんですけど……。

そう思ったのを見て取ったのか、董卓パパが私の袖をつかんで言います。


「それはそうと、青とは久しぶりに父娘で話すことがあるから部屋に来なさい。そちらの若君は丁重に扱うように」


げ、逃げられない。

うう、怒られますよね……やっぱり?


 ― ― ― ― ―



董卓パパの部屋に入りました、父娘水入らずです。



「説明」

董卓パパがべっどに腰かけて言い放ちました。ちょっと不機嫌ですかね……?


ここはマジメに回答しないといけないので、私はちょこんとまっとの上に座るとまっすぐにパパの顔を見て言いました。


「一族を族滅みなごろしの危機から救うためです」

「……いや、皇子を拉致した時点ですでに族滅の危機にあるんじゃが?」


ですよね。


えっと、皇帝が悪いから拉致って再教育します。だとパパ怒りますよね。皇帝への忠誠心はあるみたいなんで……えっとパパが理解しやすいのは……。


「宦官は諸悪の根源ですね?」

「もちろんだ」


董卓パパが即答します。

よし、この方針で行きましょう。あくまでも宦官を倒す!


「そして皇子殿下は英明のお方で、宦官を告発する上奏文を奉り盧植ロショク尚書ひしょかんを感激のあまり泣かせたほどの人物です」

「なんと……」


董卓パパは意表を突かれたようです。そこまではご存じなかったようで。


「しかし、陛下の左右は宦官ががっちり固めており、皇子殿下の赤心まごころからの訴えも通じなかったのです。皇子はそれで精神に大きな打撃を受けただけでなく、宦官から脅迫まがいのことをされており、このまま禁中きゅうでんにおられては危険だと考えました」

「むぅ……」


よし、たたみかけましょう。


「なので、私は一命を賭して殿下をお救いしたのです。たしかに見た目は危険な行為ですが、英明の皇子を宦官の魔手から守りぬくこと、これが漢朝を乱世から救い、英明の君をいただいて天下をやすらげる唯一の道なのです!」


はぁはぁ……もともと思っていたとはいえ、よくここまで喋れましたね私。

この方針で弁くんを宦官の洗脳から解き、名君に仕立て上げるのが三国志らんせを防ぐのには最適でしょう。そのために政治の腐敗で一番痛めつけられてきた涼州の実態を見て学んでもらうのです。


董卓パパが真剣にこちらを見ています。


「それも予言の一つか?」

「……そこは申し上げられません」


「分かった、確かに皇子は宦官から守らねばならん。よくやった」

「ありがとうございます!」


お辞儀する私。


「しかし、宦官の追手はどうする気だ」

「あ、一応、皇子は嵩山の道士と修行中ということになっています。嵩山の道士は口が堅いので絶対に秘密を守ると約束してくれていますので」

「……それなら宦官から守るのに長安に連れてくる意味あったか?」

「何を仰いますか、洛陽なんて宦官の手の内ですよ」


そうか、と分かったような分からないような回答をして董卓パパが会話を切り上げました。


ええ、長安に連れてきたのは完全に私の都合で拉致らちっただけですからね、そこを突かれるとまずかったので助かりました。


董卓パパがぼそりとつぶやきました。

「うむ、しかしこれで我らも外戚こうていのしんせきか」



……んーーー??なんか不穏な発言を聞いた気がしますよー?!



 ― ― ― ― ―



お部屋に弁皇子に来てもらいました。

さっそく董卓パパが平伏します。


私もあわてて頭を下げます。


「皇子殿下、汚いところで申し訳ございません。都合があり殿下を皇子としてのお迎えが十分にできないこと万死に値します」

「えっと……中郎将の董卓だっけ、ありがとう。董青にはとてもお世話になってる。ぜひいろいろ勉強したいんだけど」

「ははっ、有り難いお言葉。わしにできることでしたらなんでも致します」


弁くんの言葉にあらためて深くお辞儀をする董卓パパ。



「さて、今回はお忍びということで、正体は隠していただかねばなりませぬ」

「そうなの?」


弁くんが私を見て聞いてくる。


「はい、そうしないとすぐに宦官に禁中きゅうでんに連れ戻されちゃいます」

「それは困るなぁ」


よし、私と弁くんとのやり取りで宦官から悲運の皇子を守る私という状況が完成しました。



董卓パパはそれを見て一つうなづくと話を続けます。


「というわけで、仮初かりそめの身分として、青を見初めていただいた地方皇族の小爺わかさまということで、いかがでしょうか?それならば董家の客となっていただくのに問題はないかと」

「うん、いいね。ありがとう」


「いやいや?!なんですかそれ?!」

「青はわきまえなさい、これ以外ない」


ぐっ……たしかに自然、自然ですけど娘の貞操はどうなるんですかー?!


「わ、分かりましたけど……そ、その……私はまだ年少わかいですし」

寡人ぼくもそうだよ?」


……前もそのやり取りしましたよね?だ、大丈夫。弁くんは二人っきりでもそういうこと考えない子だから。たぶん、いける。襲われないはず……。


なんでパパはニヤニヤしてるんですか!


董卓パパを睨みつけると、董卓パパが話題を替えます。


「では、申し訳ございませんが、今後は劉君と呼ばせていただきます」

「いいよ、こっちも董将軍と呼ぶね?」

「勿体ないお言葉、さて、実は祝い事がありますので、宴会の準備をしていたのです。ぜひ劉君にも参加いただきたい」



「あれ?私の到着祝いです?そんな気を使わなくても」

「違うわ。皇甫嵩コウホスウの解任祝いじゃ」


……ああ、それは嬉しいですね!



 ― ― ― ― ―


皇甫嵩さんは予算不足で反乱軍討伐任務が進まず。宦官の讒言わるぐちもあって、この度めでたく解任となりました。


そして新しい総司令官として司空法務大臣の張温を車騎将軍げんすいに、また董卓パパは中郎将しょうしょうから昇進して破虜将軍ちゅうじょうになりました。


三公首相級の経験者が総司令官になるということで、予算も増額、総兵力も10万に増員され、ついに朝廷は本腰を入れて涼州を平定することにしたようです。



まって?……予算つけるなら皇甫嵩さんクビにする必要あった??朝廷が予算集めに手間取って皇甫嵩さんも董卓パパも攻めれなかったのに、黒山軍が片付いて、宮殿も修復できそうだから予算が浮いただけだよね??

今まで討伐が進んでなかった責任を取らされただけですよね皇甫嵩さん。こういう政治をしてるからあの皇帝おっさんはダメなんですよ……

ちょっとだけ可哀そうです。


あの性格だから大丈夫だと思いますが。



 ― ― ― ― ―


ということで宴会で久しぶりに会う人々や、新入りの皆さんとのご挨拶も済み、ゆっくりしようとしたところで董卓パパからご命令が。



「うむ、青よ。また補給を担当してくれ」


なんか大人扱いなのか、小青青ちゃんとは呼んでもらえないみたいです。

まぁ、それは予定どおりでしたのでさっそく官服に着替えて、業務に取り掛かります。


弁くんに見学してもらいつつ、公明くんと子龍さんと一緒に書類を整理……。


弁くんが驚いたような顔をして言います。

「青って男だったんだ?」

「……今だけですよ?!なんで「やっぱり?」みたいな顔してるんですか!」


なんで劉豹くんと同じような反応するんですか!普段そんなに女らしくないですかね?


……なんか公明くんが悲しそうな顔をしてるけど何でしょうね。



そこに牛輔義兄さまがふらっと現れました。


「おお、ちょうどいいところに。青、面倒な客が居るから会ってくれ」

「はい?」



 ― ― ― ― ―



そこには若白髪の痩せたおじさんが座っていました。肌は若く見えるのに髪のせいでお爺ちゃんにも見える変な雰囲気の人です。


涼州リョウシュウ武威ブイ賈詡カク、字を文和ブンカと申します。このたびは涼州軍の使者としてまいりました」

「はぁ」


……三国志では曹操の軍師で有名な賈詡だー!?今は涼州反乱軍に参加してるんだ……出身地からして自然なのかな?で、何を言いに来たの?降伏してくれるなら楽なんだけど。


「実は我らは董将軍に降伏したいのです」

「それはありがとうございます」


やっぱり。いつもの作戦でいけそうですね。じゃあ官位を申請して。


「ええ、そして大英傑たる董将軍に涼州軍を指揮いただき、ともに洛陽に攻め上がり宦官どもを処刑しましょう」


んんんん?????


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