【Session46】2016年05月27日(Fri)

 今日は朝から広島市は物々しい空気が張り詰めていた。それは昨日、三重県の志摩で行われた伊勢志摩サミット2016(G7)に出席していたアメリカのオバマ大統領が広島市に訪れるからだ。

 学は朝起きテレビのニュースを観ていた。安倍首相とオバマ大統領は広島市にある原爆ドームに訪れ、平和記念公園の「原爆死没者慰霊碑」に献花の花束を供えオバマ大統領はこう言ったのだ。


オバマ大統領:「広島と長崎が教えてくれたのです」


 こう切り出し、オバマ大統領のスピーチが始まった。その内容とは以下のような内容であった。


- 中略 –


 わたし達は、あの悲惨な戦争がそれ以前に起きた戦争が、それ以後に起きた戦争が進展していく中で殺されたすべての罪なき人々を追悼します。言葉だけではこうした苦しみを言葉に表すことはできません。しかし、わたし達は 歴史を直視する為に共同責任を負います。そしてこうした苦しみを二度と繰り返さない為に、どうやってやり方を変えなければならないのかを自らに問わなければなりません。

 いつの日か、証言する被爆者の声がわたし達の元に届かなくなるでしょう。しかし1945年8月6日の朝の記憶を決して薄れさせてはなりません。その記憶があれば、わたし達は現状肯定と戦えるのです。その記憶があれば、わたし達の道徳的な想像力をかき立てるのです。その記憶があれば、変化できるのです。

 あの運命の日以来、わたし達は自らに希望をもたらす選択をして来ました。アメリカと日本は同盟関係だけでなく、友好関係を構築しました。それはわたし達人間が戦争を通じて獲得しうるものよりもはるかに多くのものを勝ち取ったのです。

 ヨーロッパ各国は、戦場を交易と民主主義の結びつきを深める場に置き換える連合を構築しました。抑圧された人々と国々は解放を勝ち取りました。国際社会は戦争を防ぎ核兵器の存在を制限し縮小し、究極的には廃絶する為に機能する組織と条約をつくりました。

 それでもなお、世界中で目にするあらゆる国家間の侵略行為、あらゆるテロ、そして腐敗と残虐行為、そして抑圧はわたし達のやることに終わりがないことを示しています。

 わたし達は、人間が邪悪な行いをする能力を根絶することはできないかもしれません。だから国家やわたし達が構築した同盟は、自らを守る手段を持たなければなりません。しかし、わたしの国のように核を保有する国々は勇気を持って恐怖の論理から逃れ、核兵器なき世界を追求しなければなりません。

 それでもなお、世界中で目にするあらゆる国家間の侵略行為、あらゆるテロ、そして腐敗と残虐行為、そして抑圧はわたし達のやることに終わりがないことを示しています。

 わたし達は、人間が邪悪な行いをする能力を根絶することはできないかもしれません。だから国家やわたし達が構築した同盟は、自らを守る手段を持たなければなりません。

 しかし、わたしの国のように核を保有する国々は、勇気を持って恐怖の論理から逃れ、核兵器なき世界を追求しなければなりません。わたしが生きている間にこの目的は達成できないかもしれません。しかし、その可能性を追い求めていきたいと思います。このような破壊をもたらすような核兵器の保有を減らし、この『死の道具』が狂信的な者たちに渡らないようにしなくてはなりません。

 それだけでは十分ではありません。世界では原始的な道具であっても、非常に大きな破壊をもたらすことがあります。わたし達の心を変えなくてはなりません。戦争に対する考え方を変える必要があります。紛争を外交的手段で解決することが必要です。紛争を終わらせる努力をしなければなりません。

 平和的な協力をしていくことが重要です。暴力的な競争をするべきではありません。わたし達は築きあげていかなければなりません。破壊をしてはならないのです。なによりも、わたし達は互いのつながりを再び認識する必要があります。同じ人類の一員としての繋がりを再び確認する必要があります。つながりこそが人類を独自のものにしています。

 わたし達人類は過去で過ちを犯しましたが、その過去から学ぶことができます。選択をすることができます。子供たちに対して、別の道もあるのだと語ることができます。

 人類の共通性、戦争が起こらない世界、残虐性を容易く受け入れない世界を作っていくことができます。物語は被爆者の方たちが語ってくださっています。原爆を落としたパイロットに会った女性がいました。殺されたそのアメリカ人の家族に会った人たちもいました。アメリカの犠牲も日本の犠牲も 同じ意味を持っています。

 アメリカという国の物語は簡単な言葉で始まります。すべての人類は平等である。そして生まれもった権利がある。生命の自由。幸福を希求する権利です。しかし、それを現実のものとするのはアメリカ国内であっても、アメリカ人であっても決して簡単ではありません。すべての人がやっていくべきことです。すべての人命はかけがえのないものです。わたし達は『ひとつの家族の一部である』という考え方です。これこそが、わたし達が伝えていかなくてはならない物語です。 

 しかしその物語は真実であるということが非常に重要です。努力を怠ってはならない理想であり、すべての国に必要なものです。すべての人がやっていくべきことです。すべての人命は、かけがえのないものです。わたし達は『ひとつの家族の一部である』という考え方です。これこそが、わたし達が伝えていかなくてはならない物語です。

 だからこそわたし達は広島に来たのです。そして、わたし達が愛している人たちのことを考えます。たとえば、朝起きてすぐの子供たちの笑顔、愛する人とのキッチンテーブルを挟んだ優しい触れ合い、両親からの優しい抱擁 そういった素晴らしい瞬間が71年前のこの場所にもあったのだということを考えることができます。

 だからこそわたし達は、広島に来たのです。そして、わたし達が愛している人たちのことを考えます。たとえば、朝起きてすぐの子供たちの笑顔、愛する人とのキッチンテーブルを挟んだ優しい触れ合い、両親からの優しい抱擁、そういった素晴らしい瞬間が71年前のこの場所にもあったのだということを考えることができます。

 亡くなった方々は、わたし達との全く変わらない人たちです。多くの人々がそういったことが理解できると思います。もはやこれ以上、わたし達は戦争は望んでいません。科学をもっと、人生を充実させることに使ってほしいと考えています。

 亡くなった方々は、わたし達と全く変わらない人たちです。多くの人々がそういったことが理解できると思います。もはやこれ以上、わたし達は戦争は望んでいません。科学をもっと、人生を充実させることに使ってほしいと考えています。

 国家や国家のリーダーが選択をするとき、また反省するとき、その為の知恵が広島から得られるでしょう。

 世界はこの広島によって一変しました。しかし今日、広島の子供たちは平和な日々を生きています。なんと貴重なことでしょうか。この生活は守る価値があります。それを全ての子供たちに広げていく必要があります。この未来こそ、わたし達が選択する未来です。未来において広島と長崎は核戦争の夜明けではなく、わたし達の道義的な目覚めの地として知られることでしょう。


 学はこのオバマ大統領のスピーチの全文を聴いてこう思った。


倉田学:「オバマ大統領のスピーチは素晴らしかった。しかし、このオバマ大統領の言った言葉が果たして本当に実現できるのか。そしてお互いの国を尊重し、平和な世界を本当に築けるのだろうか?」


 学には今の世の中や世界のことを考えると、オバマ大統領の言った言葉がとても実現できるとは思えなかった。それは世界各国の国家間の問題として学が考えられることとして3つ挙げられるからだ。


 1つ目が民族(人種)問題である。これは移民問題などが挙げられるが、貧しい国から経済的豊かな国へ生活や生きるため、仕事などを求め多くの民族(人種)が移民や移住という形で自分達の国籍と違う国に移り住むことである。これは元々住んでいたひと達(先住民)からしたら仕事を奪われる恐れがあり死活問題である。

 また元々住んでいたひと達(先住民)との文化の違いや倫理観の違いで、社会的問題にもなっている。そして近年日本でも他国からの移住者が増えており、日本の国土に他国のひと達がどっと押し寄せることにより、日本国家そのものを揺るがしかねない大きな問題になりうると学は思っていたからだ。


 2つ目が宗教問題である。日本国では無宗教のひと達が大多数で、自然宗教的な思想のひとが多いので、宗教と言うことを意識しているひと達は少ないと思う。しかし中東のイスラエルやパレスチナでは死活問題で、ユダヤ教やイスラム教、そしてキリスト教と言った一神教の神を信じている者たちにとっては、他の宗教徒と対立し戦争を起こす危険性が極めて高いと言える。そしてそれは過激テロ集団化になりうる可能性もあると学は思っていた。


 3つ目が領土問題である。領土問題の中には、排他的経済水域(EEZ)の問題だったりする資源の問題にも繋がってくる。現在の日本国において一番関係してくるのがこの領土問題かも知れない。日本は島国であり、そして移民を今のところ殆ど受け入れていない。しかし近年、海外からの移住者がすごく増えている。このことにより民族問題(人種問題)が元々住んでいたひと達(先住民)と他国から移住して来たひと達の間で起きている。

 また宗教問題においても、日本人は信仰を基本的に熱心に行うと言った民族では無いが、他国から移住して来たひと達の中には宗教を熱心に信仰しているひと達もいる。それにより宗教観の違い、また文化の違いなどで倫理観や生活様式が全く異る場合がある。このことにより近年、移住問題、移民問題は考えて行かなければならない問題だと学は思っていたからだ。


 そして最後に、日本国が現在直面している解決しなければならない大きな問題が領土問題である。わたし達の国土は日米安全保障条約があるから何とか守られている。もしアメリカが日米安全保障条約の見直しを日本に迫って来たら、日本はおそらく他国から侵略される可能性があるだろう。

 その場合、今の平和憲法の第9条を守り通そうと考えておられる方たちがいたとしたら、自衛隊についてどのように考えておられ、また日米安全保障条約が破棄された場合に、日本国をどのように守るのか教えて欲しいと学は思っていた。また今現在、日本政府は日本国土を外国籍のひとでも簡単に買うことを認めており、お金がある外国籍のひとや国家に日本国の国土を「合法的に占領」されることを許しているので、学にはそれがとても耐えられなかった。


 そんなことを色々と考えさせられるオバマ大統領の広島市でのスピーチであった。そして学はおじいちゃんの告別式に出席したのだ。学にとっておじいちゃんとは父親がわりの存在で、おじいちゃんは昔からハーモニカを吹いてくれた。そのハーモニカは、学が大学を卒業する時におじいちゃんから譲り受けた。

 学のおじいちゃんは、色々な昔の日本の唱歌を学に吹き、教えてくれたのだった。そのおじいちゃんから譲り受けたハーモニカを、学は喪服のポケットに入れ参列していたのだ。親族のみによる静かな最後の別れを行ったのだった。


 学は斎場に飾ってあるおじいちゃんのにこやかな写真を観た後、おじいちゃんの眠るお棺の傍まで近づいて行き、おじいちゃんの顔を観たのである。その顔はとても穏やかで静かに眠っているかのように学には見えた。学はポケットに閉まってあったおじいちゃんから貰ったハーモニカを取り出し、瞼をしばらく閉じた。

 おじいちゃんとの想い出が走馬灯のように浮かんで来て、学はそのハーモニカを自分の口元に持って行き吹いたのだ。その曲は故郷(ふるさと)だった。静寂の中、学はこころを込めておじいちゃんに最後の別れを告げるかのようにハーモニカで唱歌の故郷(ふるさと)を吹いた。おじいちゃんが大好きだったこの曲を学は泣きながら吹いたのだ。


 それはとても切なく儚い音色だった。学の気持ちがそのハーモニカに魂(霊性)として乗り移ったのでは無いかと思うような音色だった。周りにいたひと達も、学がどんな想いでこの故郷(ふるさと)を吹いているのか感じ取ることが出来た。学は吹き終わると、おじいちゃんの眠る棺の中にハーモニカをそっと置いたのである。そして学はおじいちゃんにこう一言言った。


倉田学:「おじいちゃん、僕のハーモニカはどうだった。僕はおじいちゃんから『形のないプレゼント』をいっぱい貰ったよ。だから僕も『形のないプレゼント』をあげられるような大人になるよ」


 そう学がおじいちゃんに語り掛けると、おじいちゃんの顔は少しほころび、嬉しそうな表情を見せてくれたように学には感じたのである。こうして学はおじいちゃんと最後の別れをしたのであった。


 夜になり学は、英雄伯父さんの家でお寿司をご馳走になった。東京と違い広島の時間の流れはゆっくりと過ぎて行くように学には感じた。ラジオをつけると、ニュースではオバマ大統領が広島市を去り、アメリカに向かったと言う放送を聴くことが出来た。その後にラジオから曲が流れて来たのだ。その曲は中島みゆきの『ひとり』と言う唄だった。学はこの唄を聴いて、おじいちゃんにこう誓ったのだ。


倉田学:「おじいちゃん、天国でおばあちゃんと幸せに暮らしてね。僕はもう、ひとりでも大丈夫だから心配しなくても。Goodbye!!!」

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