第24話 実戦

 眷属が出たとの報告でサイレンが鳴り、慌ただしく2年生と自衛隊員がホバークラフトで出て行く。これで本州に上陸して、向こうの駐屯地から出動してきた自衛隊員と合流し、眷属の出現ポイントへ向かうという手筈になっている。

 それを悠理達1年生は、教室の窓から見送った。

「皆、興奮してるな」

 悠理が言うと、均は頷いた。

「まあ、初めてだからね、この学校では。出る方も見送る方も。段々日常になると思うけど」

 そう言う均も、興奮して、軽く上気した顔をしている。

「無事に帰って来てくれればいいけど」

「辛気臭いなあ!戦地への見送りなんて、万歳と旗振りだろ?」

 生徒の1人が言って、

「ばんざーい!」

と両手を挙げると、それに合わせて、半分ほどの生徒が万歳を始める。

「第二次世界大戦の映画みたいだな」

 均が、我に返ったように言って、生徒達を見回した。

「万歳ねえ」

 悠理は不機嫌そうに口元を歪め、緊張と興奮をまとってホバークラフトに乗り込んで行く2年生を見ていた。


 2年生達が帰って来たのは、ちょうど午後の授業が終わった頃だった。

 強張ったような顔付きの者もいれば、陽気に振る舞っている者もいる。懇意の1年生にだろう、手を振って合図を送る者もいた。

 だが大体は、ホッとしたような顔付きをしている。

 同じく、安堵したような顔付きの教師と引率の自衛官が、

「着替えたら教室へ集合。30分後だ。急げよ」

と声をかける中、悠理は沖川や西條の姿を探した。

 西條は探すまでもなく、目立つし、キャアキャアと騒がれているのでよくわかる。

(ケガもなし、か)

 沖川はと探すと、

「保健室で念のためにシップをもらって来いよ。

 そこ!装備を乱暴に扱うな!」

といつも通りに生徒に声をかけるのに余念がなさそうだ。

「元気そうだな」

 ホッとしながら悠理は言った。

「ん?誰?」

 均が訊くのに、悠理は笑った。

「沖川さん。いつも通り過ぎて、安心するよな」

 均も沖川を見て、プッと笑った。

「まあ、良かったよね。あの様子じゃ、大したケガ人も出なかったみたいだし」

「そうだな。落ち込んだりキレたり変に気を使ったりし出したら怖いな」

 悠理と均はそう言って笑い出した。

 と、2人の上に影が落ちる。

「随分な評価だな、俺は」

「え……あ……沖川、会長」

「お疲れ様です」

 沖川が悠理と均を見下ろしていた。

「よう、ただいま!」

 沖川と並んでいた西條が、沖川の肩に腕を回しながら、もう片方の手を挙げて笑った。

「西條先輩!お帰りなさい」

 均は言って、

「お帰りなさい。2人共ケガも無さそうで良かった」

と悠理も笑う。

「眷属だけだからな。これで手こずるようなら、悪魔になんぞ立ち向かえられんしな」

 沖川は冷静にそう言うが、西條に、

「取り敢えずは無事でよかった、ただいま、でいいんじゃねえの?真面目だからなあ、生徒会長さんは」

と言われ、

「お前らが能天気過ぎるから俺がその分考え込むんだろうが!」

と反論するが、嘆息した。

「まあ、いいか」

「とにかく、無事で良かった。沖川さんはほかの生徒をかばってケガしかねないと思ってたから」

 悠理が言うのに、沖川は小さく頷いた。

「まあ、自分でも完全に否定できないな」

「自覚してたんですね。

 ああ、教室で反省会ですか?シャワー浴びて着替えないと、時間がなくなりますよ」

「ああ。また後で詳しく話してやる」

 沖川は悠理にそう言い、西條は

「じゃあな!」

と悠理と均に手を振って、2人で足早に歩いて行った。

 別のグループが、

「早くライブラリー解禁にならないかなあ!ゾクゾクする!」

「俺も早く実戦に出てえ!」

と盛り上がるのを、悠理と均は平静に見ていた。





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