第22話 唐揚げ

 アナウンサーの声も、観客の悲鳴のような声も、耳を素通りして行った。

 テロップの方が、しっかりと目に焼き付いて、衝撃だった。

 校歌の前奏が始まったところで、均がテレビを消した。

「ああ……残念だったな、鈴木」

 原田がそう言うが、全員、ギクシャクしていた。

「ああ、はい……でも、テロップに驚いて……」

 均が言い、そして硬い声で続ける。

「でも、そうですよね。ここはまだ悪魔がでていないし、これまでは生徒に戦死者は出ていなかったけど、そりゃあ、あり得ますよね」

 服部と悠理は、硬く強張ったような表情で唇を引き結んでいる。

「そうならないように、俺達は精一杯教える。お前達も、精一杯自分のものにしてくれ」

 原田がそう言い、悠理と均は服部の教官室を出た。


 そのニュースは、日本中に衝撃をもたらした。

 危ないのはわかっていた。それでも、子供に悪魔と戦わせるしか方法はない。死んだ事に、マスコミや市民団体が政府や防衛省、各地の特殊技能訓練校を取り囲む様子が放送された。しかし、子供を使わないなら悪魔に対抗する術はない。日本人全員で死ぬのかと言われれば、抗議は下火になって行く。

 この学校の生徒にも、そのニュースは重く受け止められた。

 この学校は島なので、取り囲まれる事は無い。しかし、外出できないから知らないだけで、港には抗議団体が来ていたと教師は知っている。

「俺達だって、死ぬかも知れないんだな」

 食堂は、お通夜の会場のようだった。特に2年生は、これから眷属との戦いではあるが、実戦に出て行くのだ。他人事ではない。

「まあ、一般人でも、襲われていつ死ぬかわからないご時世だし?」

 1人が明るくそう言うと、

「確率も危険度も違うだろ」

とすぐに言い返される。

「い、嫌だな。死にたくない。行かないといけないのかな」

「そりゃあ、ダメに決まってるだろ」

 悠理も均達と夕食のトレイを前にしていたが、食欲がわかないでいた。

(何か、手はないのか?ゼルカの特性。前世でわかってた事でこっちではわかっていない事はないか。使える手はないのか。

 ゼルカをいっそ生で叩きつける?

 だめだ。人への被害が大きすぎる)

 大人気の唐揚げが冷めて行く。

「お前ら、何を言ってるんだ?当たり前の事じゃないか」

 沖川がそう言って、その声は食堂にいた生徒ら全員の注目を集めた。

 沖川は落ち着いてトレイを手にテーブルに着くと、

「そのために俺達はこうしてここで訓練を受けている。給与も、訓練や生活にかかる費用も、国民から集めた税金だ。悪魔を倒し、国民を守るために、俺達はその恩恵を受け、ここで訓練を受けているだろう」

そう言って、普通通りに箸を取った。

 シンと食堂の中が静まり返る。

 それに、西條の明るい声が続いた。

「お、美味そう。今日は唐揚げか。

 戦う術も、生き残るための術も、俺達は教わっている。死にに行くわけじゃなし。死なずに戻れば、また美味い物も食える。その為には、生きて帰らないとな。

 せいぜい、今教わっている事を忘れないように、しっかりと身につけないとな」

 言って、唐揚げにかぶりついた。

「うめえ。けど、熱い」

「かじりつくからだろ」

 沖川は言いながら、自分も唐揚げにかぶりついた。

 それを見ていた生徒達は、1人、また1人と、唐揚げにかぶりついて行く。

「うめえ!」

「くそ、冷えたぜ!」

 明るい声がそこここで上がる。

 均も唐揚げにかぶりつき、

「ああ、美味い!悠理も、ほら」

と言う。

 悠理も唐揚げにかぶりついた。

「うん、美味しいな!ああ、ビール飲みたい」

 思わず言ったが、それを冗談と取った周囲が湧く。

「お前、大物になるぜ!」

「くそ!いつかみんなで、唐揚げでビール飲もうぜ!」

 食堂の外で、いつ入って行こうか、何と言って声をかけようかとしていた教師達は、ホッとしたような顔をしたり、涙で目をしょぼしょぼとさせたりしていた。

「本当に、沖川と西條は頼りになる」

「敷島も、大物になるな。何か実感がこもってたけど」

 原田がボソリと言うと、

「問題児だろう、今の所は」

と服部が言い、誰かがプッと吹き出した。


  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る