第13話 事件は準備室で起きた

 ガラガラという音も振動も、やたらと箱の中の悠理に響く。それで、

(もう酔う。吐く)

と思っていると、台車は止まり、ドアの音がして、再び台車が動いた――と思ったら止まり、箱ごとグルンと回った。台車から箱ごと放り出されたらしいとわかったのは、さかさまになった自分の上からダンボール箱を除けられた時だった。

 目の前に、台車に手をかける生徒、ダンボール箱を手にした生徒、あとはもう2人が、悠理を見下ろしていた。

「おい」

「……酔った。吐きそう」

 どうにか口は回り出し、喋ったのはそのセリフだった。

「え!?」

 悠理は天井を見上げて、深呼吸した。

(台車って思ったより振動があるんだな)

 悠理は思って、そっと視線を動かした。

 小さな、窓の無い部屋だった。ドアから奥へ長い部屋で、奥の壁際には机とデスクトップパソコン、外付けハードディスクが置かれている。そして片方の壁の中ほどには隣室へつながるドアがあり、もう片方の壁には棚があるほかはダンボール箱が山と積まれていた。

 箱には、「柄」と書かれてある物と、「ゼルカ」と書かれてある物があった。

「え。ゼルカ?ゼルカだと!?」

 悠理はその箱に飛びついた。

 ゼルカといえば、前世、悠理が死ぬ羽目になった原因物質だ。

「何でこれがここに!?それも無造作に!?」

 思わずそう言うと、気圧されたようにしていた生徒らの1人が、

「ゼルカで武器を作るんだよ。ゼルカに滅力を通してそれを登録しておけば、次からも滅力を通せば、その形に復元されるから」

 悠理は音のしそうな勢いで、その生徒らの方を振り返った。

「じゃあ、安定化したんだな!?」

「え?ああ、そう、だと、思う?」

 生徒らは互いに顔を見合わせながら「そうだよな」「知らん」と無言で言い合っていたが、それに悠理が気付く事も無かった。

(どうやって安定化させたんだろう。それよりも、そういう使い方って事は、エネルギー資源としては利用していないって事か)

 悠理は箱を撫でながらそんな事を考えていた。

 と、我に返った生徒達が動き出した。目が恐ろしいほど真剣で、鼻の穴が広がり、顔が興奮に上気している。

 それに悠理は、驚き、焦った。

「何だ?リンチか?3対1は卑怯だぞ。せめてやり方を選ばせろ。そうだなあ。周期表を間違いなく言えた方が勝ちってのでどうだ」

 悠理は言ってから、

(しまった!ゼルカがどこかに入っているじゃないか!俺は聞いてない!)

と慌てたが、どのみち彼らには、悠理の提案に乗る気はなかった。

「大丈夫。大人しくしていれば痛くないから」

「はあ?んん?」

 悠理は首を捻ってから、ハッと気づいた。これまで色恋に関係が無かったので思い付くのに時間がかかった。

「まさか、あれか。ヤツの言ってたネコか。

 ああ、残念だが俺は同性に興味はない。お前らがそうでも全く気にしないが、俺には興味が無い事なので、俺には関わらないでもらいたい」

「黙れ、な」

「大声を出すぞ」

「誰もいねえし、誰も来ねえよ」

 悠理はゆっくりと座りながら後ずさり、彼らは同じスピードで近付いて行く。そしてとうとう、背中に壁が突き当たった。

「そうかな?俺はあそこで待ち合わせをしていた。いないとなると探しているだろうし、不自然さに気付くだろうけどな」

 悠理は言いながら、

(相手が誰だと聞かれたら、誰にしておこう。やっぱり教師か。でもそれも変だし、沖川か、均。均だな)

と考えていたが、それをはったりだと知らない彼らは、多少ギョッとしたように狼狽えるそぶりを見せた。

「嘘だ!だって花園が、いつも1人で個室にいるって!」

「でも、もし」

「はったりだ!こいつは放課後、いつもボッチだ!」

 彼らはそれで考えを決めたらしく悠理を見た。すると悠理は、ボッチと呼ばれた事に傷付いて悄然としていた。

 そして彼らは、抑え込むべく、手を伸ばした。

(くそ腐女神めええ!)

 悠理は心の中で力一杯腐女神を呪った。



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