第22話 学校を作るのだ ☆

「学校を作りましょう」

「は? 現在も既に教育機関は存在しますが?」

「え、そうなの?」

「はい。子供たちに基本の読み書きや計算等を教える学校とか、魔王軍の幹部候補を育てる士官学校や、王立の魔法学院など」

「ああ、私が言ってるのはそういう学校じゃなくて、せっかく古代の技術や文化を調査したり解析してるんだから、若いうちからそれらをしっかり勉強してもらって、優秀な技術者や文化人を育てるための学校です」

「ほう」

「子供でも、やる気や才能のある子には飛び級で入学を認めて、知識を詰め込むだけじゃなくて、基本の勉強の上に自由な発想で新しい何かを生み出すことを奨励して。そうすれば魔王領の科学技術や文化も一層発展するでしょう?」


 すると、これを聞いていたガイアさんの目が輝いた。


「それは良い! 妾も勿論、講師として参加するぞ」


 え、そう来る?


「あのぉ、ガイアさんが講師って、何を教えるんですか?」

「決まっておろう。古代の『とれんど』や料理じゃ。妾以上の適任者は居らぬであろうが」

「い、いやあ、それはちょっと」

「ちょっと、とはどういう意味じゃ。何か不都合でもあるのか?」

「まあ…… ええ~と、あ、そうそう! 前魔王様に直接授業を受けるなんて、生徒が委縮してしまうのではないかな~。ここは是非、ガイアさんには校長になって頂いて、全体の統括をお願いしたいと思っちゃっちゃったりなんかしてお! 今回は噛まずに言えたぞ

「ふーむ……」


(おお、絶妙の落としどころを見つけたではないか! 大分、ガイアの扱い方が分かって来たな)


 はぁ。


 ガイアさんは、それでも若干不満そうだったが、とにかく学校設立自体は決定。

 講師には主に、古代文明や文化の解析・研究スタッフが当たることになった。

 よーしよし、これで明るい未来が見えてきた。

 農業や漁業、畜産部分も充実させれば、実習で作ったり獲ったりした良質の食材が安定して確保できるし、料理部門も開講して、ファフニール君や、ティアお婆さんのところの料理人さんたちにも講師を依頼して、優秀な料理人をたくさん育てれば、近い将来は美味しい料理が各種食べ放題。


(やはり、それが目的か)


 え? い、嫌だなあ。この私に限って、決して決して個人的な不純な動機で学校とか開く訳ないじゃないですか。あはは乾いた笑い声

 ほ、ほら、料理はただの副産物で、主な目的はやっぱり技術や文化の振興ですよ。

 自然科学はもちろん、文学とか絵画とか。あ、それに、服飾部門とかあれば優秀なデザイナーが育って、みんながオシャレを楽しめて喜ぶだろうし、音楽部門も開講すれば魅力的な作曲家や演奏家を輩出して、定期的に大規模な音楽会を開催するとか。

 とにかく、あれもこれも可能性は無限ですよ。あっはっは……


(では、そういう事にしておこうか)


 ここでゼブルさんがヒソヒソ声で


「さすがはアスラ様。これによって多文化の入り乱れた迷走状態を正そうという訳ですな」

「え? そんなこと全く考えてませんよ」

「何と!」

「だって、最初はびっくりしたけど、今のままで。文化なんてそんなものだし、それで十分でしょう」

「では、教育を通じて若者のを養おうとお考えなのですね」

「はあ? そんなことは絶対にしません」

「な、な、何と!!」

「男女や親子の間の愛情だって、教えたり要求したりして芽生えるものじゃないでしょう? ! 国を愛する心だって一緒でしょ。押しつけようとすれば却って反発をかうかも」

「うーむ……」

「みんなが安心して、自由に豊かに楽しく暮らせる国づくりができれば、自国を誇りに思う気持ちとか愛する心とか、自然に生まれて来ますって。大袈裟に構えて取り組むべきものじゃないですよ。わざわざ愛国心教育なんて、一種の洗脳でしょう? そんな、ヒト族の教会の真似みたいなことはしませんって」

「なるほど! これは恐れ入りました」


 あれ、感心されちゃった?

(全く賛成だ! も、今の発言にはちょっと恐れ入りましたかも)(心の声・談)

 あれれ、これはもしかして、威張っていいところかな?

 えへん、えへん、えへん!(以下繰り返し)


 道路や鉄道など、交通網の整備も必要だ。

 魔族領内部だけではなく、獣人、エルフ、ドワーフの国への交通機関が整備されれば、魔族と亜人の交流が更に盛んになるだろう。

 大量輸送・移動の手段として鉄道は欠かせないし、緊急時の軍隊の移動も鉄道があれば飛躍的に迅速になるから、国防面での恩恵も大きい。

 線路は大地魔法の使える者や技術者を動員して少しずつ作っていくとして、列車や車両の製造には、技術に優れたドワーフ族の力が必要だろう。

 えっ、

 残念ながらダメなんだな、これが。

 だって、外見はともかく、内部機関の詳しい構造がわからないもの。

 ということで、研究スタッフはもちろん、魔族領内のドワーフ族職人に依頼し、一方でドワーフ国に技術協力を求め、双方で連携しながら進めて行くことになるだろう。

 鉄道の開通はドワーフ領にも利益をもたらすのは確実だから、協力を得るのは可能なはずだ。

 鉄道や道路だけではなく、特に遠隔地には常設の魔法陣を配し、民間でも比較的安価に利用できるようにしよう。そうすれば、新鮮な海産物や南の地方でしか育たない果物や野菜だって、もっと簡単に手に入るようになるぞぉ!


(結局は食べ物ではないか)


 だって、いつもいつも食材をティアお婆さんの所にばっかり頼ってる訳にはいかないでしょう。こういうのは、自立の精神って言うんだよ。


 将来的には、いきなり飛行機は無理にしても、ヘリウム含有の天然ガスでんとかが見つかって、効率的にヘリウムを抽出できれば、飛行船ぐらいは何とか造れるようになりそう。

 確か今では獣人領とドワーフ領の南部にあたる地域に、それらしいガス田があったって、遺跡で見た資料に載ってた記憶があるぞ。これは調査隊を出して調べてみる価値がありそう。


 例のリゾートの建設はガイアさんが中心になって進めてもらおう。その方がハチャメチャな、却って面白い施設が出来るんじゃないかな……



 最後にゼブルさんが言った。


「とまあ、今日の議題は差し当たってはこんなところでしょうか。後はやはり、魔王就任の祝宴の準備ですな」


 それなんだよねえ、一番の問題は。

 頭が痛い。

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