フィーネ・デル・モンド!~遥かな未来、終末の世界で「美食王になる」的に冒険を満喫していた少女が、なぜか魔王と、そしてついに神(?)と戦うことになっちゃった件~
第22話 ウリエル? サリエル? どっちだよ!
第22話 ウリエル? サリエル? どっちだよ!
あぁ、それなりの理由のある相手と戦うのって辛いなあ、こういうのってなるべくゴメンにしたいなあ、なんて改めて獣王との戦いの少女的感傷に浸る暇もない。
未成年虐待だ! 強く言いたい。私の情緒的成長はどうしてくれる!
はぁ……
でも、私の顔に出てた筈のウンザリ感にはお構いなく、その小柄な人物は小走りに私の方に近付いて来ると、深々と頭を下げ、丁寧に両手で名刺を差し出した。
「お初にお目にかかります。わたくし、ウリエルと申します」
「はぁ、もしかして営業の方でしょうか。だったらウチは間に合ってますけど」
「営業職ではございません。教皇庁に勤める者、つまり公務員です」
言葉通り、名刺には「教皇庁魔族討滅部・局長・ウリエル(サリエル)」とあった。
ん、公務員、教皇庁?
ていうか、この
それに、「部」なら「部長」でしょう。なのに「局長」っておかしくね?
でも、そのウリエルさんは上目使いに私を見て、低ーい声で言った。
「確かにお受け取りになりましたね。ではちょっとお待ち頂いて……」
「これを御存じですか?」
知るか!
私は当然に首を横に振る。すると
「これは神酒でございます。ソーマとかタムリカとか、いろんな名前で呼ばれているようですが、酒精度が高く、70パーセント、いや90パーセントだったか、とにかく効きますよぉ」
と勝手に言って、小さな瓶に入ったそれを、ぐいと一気飲み。
昼間っから、しかも仕事中に飲酒って、依存症かよ?
すると、その局長さんは
「うっ!」
とか
あらら、はるかに見上げるほどの大男、モヒカンの戦士さんも黙って引き下がるほどのマッチョマンになった。
服装まで変わった。スーツの下にあらかじめ着込んであったのか、全身白い衣の袖が両方とも引きちぎってあって、そこから見える両腕はただ太いだけじゃなく、筋肉の束の隆起が皮膚の上からも
そして背中には6枚の羽。はあ? もしかして、これって天使?
驚く私に、黒い短髪を逆立てたその局長さんは言う。
「では改めて。俺様は熾天使サリエル」
「俺様? それに、名前はウリエルじゃなかったの?」
「同一人物だ。飲酒の前と後で人格の違いがより明らかなように、別名を名乗っているのだ。名刺にも括弧付きでそう付記してあるだろうが」
「お酒のせいで人格変わるって、酒乱?」
「馬鹿者! 『ギャップ萌え』という言葉を知らないのか? 普段といざという時の差が大きい程、一般大衆に人気が出るのだ」
「はあ? 『ギャップ萌え』って言葉の使い方、間違ってません?」
「そうか? 別に間違ってはいないと思うが」
「天使が大衆人気を気にするのも変じゃん。それに、『
「むう、いちいち些細な事に拘る娘だな。とにかく、魔族や、お前の様に魔族に
はあ、何こいつ?
こんな日中からお酒飲んで変身して、性格も一変しちゃって、おまけに「魔族に与する者を滅する」とか、いきなり好き勝手言ってますけど。
私、こんな酔っ払いの相手するなんて嫌だなあ。
あ、そうだ! ねえ、心の声さん、さっきのついでで、コイツもやっちゃってくれない?
(駄目だ。そいつとは、お前自身が戦うのだ)
えーっ、何でよぉ。
(美)少女にアル中と戦わせるとか、酷くない?
とか何とかいつもの脳内会話をしてるなんて全くお構いなしに、その天使(!)は、いきなり左手で牽制のジャブ、それから右手で強烈な拳撃、私がそれらを躱すと今度は左足を軸に回転して踵で派手なハイキックを見舞ってきた。
一撃一撃が凄いスピードで、技の連続にもよどみがない。さっきの獣王の攻撃とは凄い違い! こんなのマトモに喰らったら軽く失神でもしそう。
そしてまた左右の拳と蹴りの無数の連撃だ!
さすがに避けるだけでは追い付かなくて、魔力を込めて強化した腕で防ぐと、呆れたことに、一撃ごとに赤や白色、紫などの派手な火花が炸裂した。
それに何だコイツ。 天使が、よりによって超肉弾戦かよ。
(相変わらず派手好きだな)
えっ、コイツのこと知ってるの?
(ああ、遥か昔の格闘術の弟子だ)
「ふははー、どうだ。名付けて破魔炸裂聖拳!」
コイツも技に名前かい!
心の声さんといい、みんな名前つけるの好きだなあ。
えっ、私も? そんなことあったっけ? 知らないなあ。
で、私はコイツに言ってやった。
「おかしいでしょ! 拳だけじゃなくて蹴りも入ってるじゃん」
「では、聖拳改め破魔炸裂聖拳及び
「くどい名前、ダサい」
「何だとお! うっ、ちょっとタンマ……」
えっ、戦いの最中に「タンマ」!?
そんなんアリ?
あ―――――――っ、びっくりした!!!
で、驚いてる私を放っておいて、そいつはいきなり、あさっての方向へ10歩ほど駆け出して、こちらに背を向けたまま上体を屈めたかと思うと
「おええ~!」
ときた。
どうやら飲酒の直後に激しい運動をしたので、一気に酔いが回って吐き気が来たらしい。
ホントに、何なのよコイツ!?
超超超マイペース。いや、そんな生易しいものじゃない。
こんなヤツの相手とか、マジで勘弁して欲しいなあ。
とか思ってると、そいつは自分の用が済んだらしく、急いで戻って来て
「ふぅ、スッキリした。では、戦闘再開だ。それ!」
なんて、また雨あられと拳や蹴りを放ってくる。
うー、手はちゃんと拭いたのか。
とにかく拳の打撃も蹴りも、とんでもなく速く、重い。
防御すると腕が痺れ、躱すと一撃一撃、背後の地面に衝撃波で穴が開くほどだ。
「ふむ、ルシフェル様の転生体の力が如何程のものかと思い、わざわざやって来たが、大した事はないな」
「なにおーっ!(怒)」
私は得意の高速転移で瞬時にコイツの背後に移動し、首筋に蹴り、のつもりが空を切った。
巨体の割に反応が速い!
「甘い。ではこちらから行くぞ」
そうはいくか!
相手の強烈な蹴りがスカッという擬音を立てたかのように空を切った。
私は瞬時に創造した幻影だけの分身をそこに残したまま、コイツの背後に転移したのだ。
そして5人の実体の分身体を創造、今度こそ全身に無数の打撃と蹴りを浴びせてやった。分身は瞬時に消える。最初からそのつもりで作った分身体だから、これは予定通り。
問題は、相手には全く応えた様子がないことだ。
うー、なんて打たれ強いヤツ!
「こんなものか。まるで涼風だな」
何だと! いい気になるんじゃないぞぉ。
私はつい2枚の翼を出してしまった。
みんなに見えているが、そんなことを言っている場合じゃない。
力を出せば出すほど余裕がなくなって翼が出てしまう。
でも、この相手は今までのレベルじゃない。力を隠しながら戦うなんて無理だ。
「ふん、少しはその気になったか。だが、まだまだ不足だ」
膂力を集中したのだろう、そいつは更に太く巨大になった右手を振った
今までに経験したことのない風圧だ。
私はあまりの風圧に飛ばされ、どかぁ―――ん、と音を立てて背中から城壁に突っ込んでしまった。
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