第3話 招待されたよ(超ナマイキな猫登場) ☆

 そう、猫だ。

 別に驚く必要はないんだけど、場を盛り上げるために一応言ってみた。

 誰が何と言おうと猫。

 異論は認めない。

 目だけは金色ゴールド、他は全身の短毛が頭の先から尻尾まで漆黒の、ザ・黒猫だ。


 驚きはしないけど、ちょっと感心した。

 だって、転移魔法を使える者は多いが、空間魔法となるとそうはいない。

 転移にもいろいろあるけど、基本は現在地と行先にあらかじめ魔法陣を設置しておいて、そこに相応の魔力を流すだけでいい。しかし、亜空間の構築と維持には桁外れの魔力と技能が必要だ。

 しかも、亜空間に飛び込むのは私だって勇気がいる。どこに飛ばされるかわからなかったり、下手をすると二度と戻って来れない可能性さえあるからだ。

 タダモノじゃないな、この猫。


 長靴は?

 いてないか。

 あーあ、落胆、失望、がっかり。


(どうした?)


 だってさあ、旧文明に伝わるお話では、「長靴を履いた猫」って人間以上の工夫や機転をかせて頑張ってくれて、あれやこれやの大活躍の末に、主人公の若者は何もしないでニコニコしてるだけで幸せになるんでしょう?

 ラクそうでいいじゃないただのニートが努力もせずに成功する物語

 だから、もしもこの猫が長靴を履いてたら、何とかして仲良しになって飼い主に収まって、一生のあいだ楽ができるかと思ったんだけど、やっぱり世の中そんなに甘くはないよねえ。

 ん、でも確か、あの猫は最初は普通の猫で、飼い主の若者が長靴と袋、トンガリ帽子を買ってやるんだっけ?

 じゃあ,私もこの猫に……


(はぁ……)


 とか、我ながら「しょーもない」ことを超高速で考えてると、私の肩の上に降り立ったそいつが一声小さく「」と鳴いた。

 手紙を読めってこと?

 ていうか、おい、手紙で口はふさがってるのに、どこから声を出してるんだ?

 猫の腹話術か?

 それに、肩に全く重みを感じないぞ。

 はい、魔物決定。

 まあ、空間の裂け目から跳び出してきた時点で魔物決定か。

 どうやら私も少しは動揺してるらしい。ははは。


 手紙を受け取って読んでみる。

 差出人はやっぱり魔王かあ。

 立派な印章だよね。

 で、内容はというと


『やっほー、みんなの憧れア・イ・ド・ル、魔王ガイアでーす。あのね、今日暇かな~~~?』


 


(ふぅ、相変わらずだな)


 え、知り合いなの?


(まあ、昔ちょっとな。ほら、そんな事はいいから先を読んでみろ)

 ああ、はい。


『近くまで来てるんでしょ。わかってるよ~。でね、ガイア考えた。美味しいランチに御招待。是非お友達も一緒にね。楽しくやりましょう。じゃ、返事はそこの猫ちゃんに言ってね。よろしくぅ~。期待して待ってまーす』


 あら、どうしましょう。

 で、それはそうと、この口調から察するに、今代こんだいの魔王ってなの?


(な、何を言っている。女だぞ)


 へーっ、そうなんだ。


(まさか、知らなかったのか?)


 うん、情報弱者ジョージャクだから。

 えへん、と威張ってみる。


(威張る事か? それに、仮にも勇者だろう)


 らしいね。でも、関心ないものはない。

 興味のあるのは、美味おいしいものとか、美味びみなものとか、美味うまいものとか。


(全部一緒ではないか。はぁ…… お前ときたら、いつもいつも食べ物のことばかり)


 あはは、まあまあ。

 人間も動物も、結局そんなんでいいんじゃないそれは言える!(作者・談)

 だから、魔王の食卓かあ、ちょっとかれるかも。


(残念勇者だな)


 「残念」って言うな!


 あ、そこのモヒカン、むやみにこの猫に触ろうとするんじゃない。

 バシッ! ってね。ほーらみろ、猫パンチ一閃だ。

 言わんこっちゃない…… って、私、何も言ってないか (笑)


「気安く触るな! 魔王様の従魔筆頭をめておるのかぁ!」


 お、喋ったよ。

 ま、当然予想できたよね。魔物だし。


「痛ーっ! 爪立てやがったぞ」

自業自得じごうじとくである。吾輩に親しく触れて良いのは魔王様だけなのである」


 ぷぷぷ、吾輩って、猫が?

 もしかして、名前はまだない、とか?


「何なんだよ、コイツぅ!?」

「自分で言ってるじゃないですか。魔王の使い魔ですよ」

「使い魔ではない。従魔筆頭つまりエライらしいのバベルである」


 あ、名前あるんだ。

 失礼しました。


「ん、ん…… で、その手紙には何と書いてあるか」

「魔王さんからの招待状ですね。今日もし暇ならランチしましょ、みたいな」

「「はあ?」」


 ま、ふつうの反応はそうなるよね。

 すると猫ちゃんは不機嫌そうに、偉そうに、本当にエラソーに言った。


「ふん、これだから吾輩はヒト族への使いなど嫌だったのである。魔王様の折角の御招待に躊躇ちゅうちょするなど、無礼極まる。

 だいたい、そもそも、本来、このように手紙を届け、返事を聞いて帰るだけの幼稚な仕事など、わざわざ 従魔筆頭たるしつこく、エライと言いたいらしい! 吾輩が出向かなくとも、ヒラのカラスや狼に使いさせれば充分ではないか。なのに魔王様が突然何を考えられたか、『届け物ならやっぱ黒猫でしょ。名付けて魔王の宅急びーん決して「魔女の……」ではない。でもジジは黒猫だったよね』とか、『クロネヤマ』、いや、『クロネコ』に『ヤマト』だったか、訳のわからない事をおっしゃって、吾輩が使いする羽目に、ぶつぶつ……

 とにかく! そこの連れ二人はともかく、一行の責任者たる勇者でありに聞く。返答は? 御招待をお受けするのかしないのか!?」


 私は即答した。


!」


「よし! よく言った」

「3名様(プラス1名心の声さん)ご案内、よろしく」

「承知した。では、さらばだ」


 そして猫は現れた時と同じように空間を裂き、小さく「よいしょ」とか言いながら、暗い裂けめの中に消えていった。


 ん? でも、なんか「」とか、嫌ーな思い出したくもないこと言ってたような。


(…………)


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