第2章 知らない世界と、怪物と

2-1

 鳥のさえずる声で目が覚めた。

 さわやかな風が、俺の頬をなでて吹き抜けていく。

 見上げた空は、雲一つなく、澄み切った青色をしていた。


「……ん……」


 ゆっくりと体を起こして、辺りを見回すと、周りの景色は、また一変していた。


 俺がいたはずの本殿どころか、神社の敷地なんてどこにもない。

 周りにあるのは、見たこともないような木や植物や、苔むした石ばかり。

 俺の住んでいる家があって、山や田んぼのある自然の風景が広がる高鷲たかす町の姿は、どこにもなかった。


「……どこだ、ここ……?」


 寝ぼけ眼をこすっていると、まぶたに冷たい感触がある。

 目をこすっていた右手を見つめると、そこには、さっき謎の人からもらった、赤い石のついた腕輪がバッチリ手首にはまっていた。


「(あれ、夢じゃなかったんだ)」


 それを自覚すると、どこか夢見心地だった頭が、一気にさえわたっていくような気がした。

 それと同時に、俺の中で、喜びがむくむくとわき上がってくる。

 だって、さっきあの人が言ってた『新たなる世界への扉』が開いて、俺がここにいるのだとしたら。


 俺……今、異世界にいるってことだよな!?


「〜~〜っ、やったぜぇええ!」


 異世界! 俺の知らない世界! 誰も来たことがない世界!

 一体、どんな世界なんだろう?

 どんなやつらが住んでるんだ?

 くううっ、考えるだけでワクワクしてきたぜ!


 そうと決まれば、さっそく探検だ。

 まずは、この森の木や植物でも調べてみるかな。

 そう思いながら、近くにあったピンク色の葉を持つ木に手を伸ばした――その時だった。




 ズズゥン……




 重くて低い、地鳴りのような音がしたかと思うと、大きく地面がゆれた。


「な、何だ!? 地震か!?」


 驚いてきょろきょろと周りを確認していると、不意に、フッと視界が陰る。

 見上げれば、さっきまで晴れ渡っていた空に、真っ黒な雲が立ち込め始めていた。

 雷鳴がとどろいて、今にも雨が降り出しそうになっていく。

 どうしたんだ? さっきまで、いい天気だったのに。

 一体、何が起こってるんだ?

 不安を抑え込みながら空を見上げて突っ立っていると、


 ――――ォ!


 地面をゆるがすような、何かの叫び声が聞こえた。

 思わず、耳をふさいでその場にしゃがみこむ。

 ああもう、今度はなんだよ!?

 叫び声のした方向……ちょうど俺の背中側を振り返って、絶句した。

 だって、そこには――




「……は?」




 俺の身長どころか、周りに生えている木々よりもずっと大きな、怪物がいたんだから。

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