ログイン13 逃げよ、鳥達
「よし! これなら何とか!!」
狙いの場所まで走り着くと、礼央は腰を屈め目的のものを右手に握りしめる。できる限り頑丈そうなものを選びたかったが、後方より迫る足音を聞く限りそんな猶予は残されていないようだ。
手の中にザラザラした感触が襲いかかり、力強く握ると肌に差し込まれるような痛みが伴う。それにつられて、礼央の顔がやや歪みはしたが、それを悟られることがないように努めた。ここで相手に油断を見せても良いことは何一つない。
現実の方で何度も、PvP(プレイヤー・バーサス・プレイヤー)を繰り返し、勝ち星を積み重ねてきた。その中で、対人戦における最善の心理状態などは完全に把握済みだ。こういった場面では、最後まで冷静さを失わない奴が勝利を収めることができることなど、頭で考える前に気づけば身体が反応していた。
「さぁ、かかってこいよ!! この丈夫そうな木の棒で・・・ってなんだこれは!!??」
距離を縮めるゴブリンキングを迎え撃つため、礼央は足を大きく広げながら後方に振り返る。ゴブリンキングの進行方向に立ちはだかるその立ち振る舞いは、さながら番人を連想させた。ただ、唯一番人と異なるのは——威圧感の無さだろう。
礼央の右手に握られ、振り上げられる木の棒。高らかと天にまで届く勢いで伸びているのかと思いきや、現実にそんな夢物語が繰り広げられることはなかった。
「この木の棒・・・いくつか落ちていた中でも一番ハズレの奴だったんじゃないのか? 細いし、短いし、何より一ミリも頑丈そうじゃない!! おまけに、ささくれが幾つも右手に出来てる! 何だよ、これゴミじゃねーか!!??」
「勝負は時の運じゃ、愚かな者よ。落ちているゴミの中から、一筋の光を見出そうと思ったのかな? それは、砂金を探す行為とほぼ同義じゃ。ゴミの中から現れるのは、決まってゴミ。それを、死の世界で神様にしっかり教えてもらうんだな!!」
振りかぶられるゴブリンキングの拳。右手を握りしめただけだというのに、死のイメージが生まれるのは何故だろう。人間離れしたサイズの問題だろうか。確かに、奴が作り出す拳は、赤子がすっぽり入ってしまうほどの大きさを誇っている。一秒ごとに、礼央の視界も奴の拳で埋め尽くされていく。気付けば、森に宿る自然の色は、視界から完全に消え失せていた。
「クソが・・・!! これで死んだら、あの妖精って名乗ったやつをぶん殴りに行かなくちゃいけないな!!!」
礼央は、目の前の化け物に聞こえないような小言を呟いた。そして、最後の悪あがきにと、より一層強い力で握られた木の枝を、奴の拳目掛けて突き出す。攻撃と攻撃が衝突するまで、それほど時間を要することはなかった。
周りの空気をも切り裂き、溜められた力を解放しながら進む、ゴブリンキングの高速の一撃。何かに焦りを感じているのか。それは、さながら逸る気持ちを抑えきれない恋人。浮き足立つ感情に踊らされ、待ち合わせ場所までの足取りを早めた。まるで、一秒でも早く、礼央の攻撃と抱擁を交わし合いたいかのように。
パキ・・・!
ドゴォォォォ!!!!!!
二つの音が交錯し、森の中に静かに吸収されていく。ただ、音とは別のものは中々容易に吸収されることはなかったようだ。インパクトの瞬間、周囲に拡散したそれは、依然として木々に実る、緑色の数多の葉を揺らし続けている。
バサバサバサ・・・・
木に止まっていた鳥だろうか。それにしても、随分とのんびりとした鳥だ。大きな音がしたというのに、少し遅れて彼らは羽を羽ばたかさせた。しかし、もしかしたら彼らはとても危機察知能力がずば抜けて高かったのかもしれない。
だって、この直後に——先ほどの数倍大きい音、というか悲鳴がこの森に鳴り響いたのだから。
「グゥワアァァァァ!!!!!!!!!!!!!」
鳥達よ。これは逃げて正解だ。まさにそれは、この世のモノとは思えないほど、低く、それでいて眉を細めてしまうような咆哮であった。
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