第2話 最前線第一戦隊〈死の使徒〉

「も、もう一度おっしゃっていただけますか?」


「君にセクト討伐の最前線第一戦隊〈死の使徒〉の指揮官コマンダーを任せたい」


高級感あふれる絨毯や縞の壁紙が重厚な将校の執務室。窓から見えるのが上空の景色と同じことを除けば普通の部屋だ。私に向かい合うように座るゼルノグラート将校は白髪で整えられた髭や頬に残る傷跡は威厳さえ感じさせる。


現在、レストマリア帝国は隣国セクトと戦争状態にある。今から15年前に突如としてセクトから侵略を受け始めた。


両国共に科学力の高い国であったがセクトが秘密裏に開発していた完全無人機のカラスはレストマリアの科学力を大きく上回るものであった。


レストマリアは多層空中都市型飛行船スカイバージンを造り空に逃げることで国家滅亡の危機を脱したが故郷を追われた者達にとっては空での生活は不便はなくとも不満は溜まる。


そもそも人口の過密国家であったレストマリアの全国民をスカイバージンに乗せるのは不可能だった。


そこで政府は国民を2つに分けた。国税を多く収める者を優勢種ドミネーター、それ以外の貧民を劣等種インフェンター


優勢種は劣等種を迫害し差別し、さらに劣等種の子供や年寄りを人質に取り大人を無理矢理徴兵して地上に残しカラスと戦わせた。


当然勝てるわけもなく大勢の大人が死んだ。


戦える大人が居なくなれば次に戦うのは・・・







「若輩者の私にこのような大役が務まるでしょうか?」


「その歳で大佐にまで上り詰めた君の実績が物語っているのではないかね。フェルスフィア・ミリス大佐」


「そう言っていただけるのは光栄ですが、私などまだまだ実力不足です」


スフィアは最年少で大佐にまで出世した天才として多くの帝国軍幹部から注目されていた。


「スフィア大佐。私は君の実力を信頼し、信用しているのだ。そう思っている私の顔に泥を塗るつもりかね?」


「い、いえ申し訳ございません」


「ははは、冗談だよ。しかし謙遜しすぎるのも良くはない。君は優秀なのだからもっと自分に自信を持ちたまえ」


「はい!」


スフィアは明るく返事をして渡された最前線第一戦隊の資料に目を通した。





「なぜ最前線の戦隊だけ番号ではなく〈死の使徒モルテアポストロ〉と呼ばれているのですか?それにコードネームも他の隊と違うようですが」


本来各戦地の戦隊は番号が割り振られ、数字のコードネームで呼ばれる。それがこの国でのルールだ。


「彼らは各戦場で戦果を上げ続けた者の集まりだ。死の使徒モルテアポストロなんて名前も戦場で彼らの戦いを見た劣等種インフェンターが付けたものだ。コードネームのことも含め我々もそう呼ぶのは、せめてもの敬意と畏怖だ」


「どういう意味ですか?」


スフィアはゼルノグラートの言っている意味が分からず首を傾げた。


「本来であれば〈劣等種の子供ナンバーズ〉は2、3年で戦死する。だが、〈死の使徒モルテアポストロ〉に集まってるのは少なくとも5年以上は戦場にいる」


2、3年で死ぬのが当たり前の戦場で倍近くの年数を生き残るのがどれほど難しいかは戦場にいないスフィアでも理解できた。


「特に戦隊長のブラックレイ、副長のジェノサイドは10年。第3小隊長トリックスターは8年、第4小隊長デッドエンドは7年。化け物揃いだ」


「じゅう・・・」


スフィアは驚きのあまり声が出なかった。最前線で10年も戦い続けられることがあるのだろうか?到底信じられる話ではない。


「そ、そんなことがあり得るんですか!?」


「これが現実だ」


ゼルノグラートは資料を机の上に置いた。


「もちろん無理にとは言わない。だが最前線の指揮は君の目的のための良い経験になるはずだ」


現在この国の政府は劣等種の扱いについて意見が2つに割れている。


今まで通り劣等種を差別し続ける継続派。劣等種への差別を辞め優勢種も戦場で戦うべきだとする革命派。ゼルノグラート将校は革命派のリーダーでありスフィアは同じ革命派としてそんな彼を尊敬している。


「もちろん引き受けさせていただきます。かつての帝国を取り戻すために尽力致します」


かつての帝国は平和と平等の国であり今のような腐敗した国ではなかった。本来のレストマリア帝国を取り戻すのが革命派の目的だ。


「君ならそう言うと思ったよ。では改めてフェルスフィア・ミリス大佐、本日付けでセクト討伐最前線第一戦隊〈死の使徒〉のコマンダーに任命する」


「はっ!!」


スフィアは精いっぱいの敬礼をして執務室を後にした。





レストマリアを正し、地上を奪還する私の戦いが始まる。

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