Fall of Fool

長月瓦礫

Fall of Fool


0 愚者

何も持たない純粋な者。

故に自分の存在も知らないし分からない。


Ⅰ魔術師

無限の可能性を秘めている。

奇跡の力で天候を変え、新たなる道を開く。


Ⅵ 恋人たち

迷える者たちに選択を与える。

オブジェクトを惹きつけ、隙間を埋める。


Ⅶ 戦車

大義名分の下、堂々と進む二輪車。

自身のスピードが2倍になる。


Ⅸ 隠者

未来を照らす真理の光。

暗い場所を照らす。


Ⅹ 運命の輪

すべては必然でありながら、輪の中心はいつも自分。

カードを所持したまま、振り出しに戻る。


Ⅻ 吊るし人

自己犠牲を尊いものとして語る。

その場で吊るされる。


XIV 節制

できることを精一杯やるのが成功への近道。

自分の体を小さくする。


XVI 塔

望むと望まざるに拘らず、すべてに雷を落とす。

オブジェクトから価値を奪う。


XVII 星

瓦礫から見つけた本当の希望。

様々な光に包まれる。


以上、現時点でゼロが所持しているカードである。




画面を閉じた。カードがまだ足りない。

物語を終えるには全然足りない。


『んあー……残りどこだー?』


森のど真ん中、あたりを見回す。

細かな立方体で作られた青々と茂った木々や苔むした岩、同じように立方体で形成されたキノコがうろついている。

毒々しい赤と白の水玉模様の傘を自慢げに開いている。


『んー……?』


とりあえず、Ⅶ 戦車に乗り込んだ。

これも立方体の集合体であり、よく見ると一つ一つの色が違うことが分かる。


キノコはひたすらあたりをうろつくだけで何も語らない。ただのオブジェクトだ。


この世界は振り出しから始まる。

世界はいくつも分岐し、その数だけオブジェクトがある。

その中から特殊な力を持つ21のカードを探し出し、収集するのがゼロの目的だ。


21のカードをすべて集め終わったその時、初めてゼロの存在が確立する。

愚者が愚者でなくなり、名前が与えられる。


道を外れて二輪車をひたすらに走らせる。

斜めにジグザグと走り回る。


この世界は目に見えない小さな立方体がいくつも集まって形成された。

ゼロの体も四角形の集合体で、決して崩れることはない。


画面の前の声が途切れた。

あちらも様々な図形で構成されており、有象無象が群雄闊歩していると聞いた。

こちらの世界と大して変わりはないのだろう。


とにかくⅦ 戦車を操り、しらみつぶしに森を周回する。

この森はとある地点を境に回り始める。

同じ道同じ木々同じオブジェクトを繰り返し、立ち入った者を迷わせる。


好きでこうなっているわけではない。

それが世界の理であり、真理なのだ。


『おーっとっと、これは?』


ようやく見つけた。背の高い草木に紛れ、紅白の傘に埋もれて気づかなかった。

一回り小さな茶色のキノコが二本足で歩いていた。


周囲のオブジェクトと異なる姿を持つ場合、何かしらの変化をもたらす。

それはカードを持つ者であり、別世界へ誘う者だ。


『こいつか? こいつなのか?』


オブジェクトへ接触を試みる。

キノコが分裂し、世界が暗転した。


小道がまっすぐと伸び、その先でお茶会が開かれていた。

青いドレスの少女を中心に円卓を囲んでいた。

奇抜なシルクハットの男も紫の猫もイカれた表情を見せるウサギも巨大なケーキも赤い紅茶もすべて立方体で形成され、美しい姿を保っている。彼らも立方体の集合体、しょせんはオブジェクトに過ぎない。


席はひとつ空いているのに、客人を受け入れようとしない。Ⅶ 戦車から降りても嫌そうな声を上げるだけだ。

この場において、ゼロは招かれざる客であることを理解したようだ。


『嘘だろ? 何かないか、何か……』


この状況を打開するための解決策を模索する。

少女、ウサギ、シルクハットの順に話しかける。少女はこちらを見つめるだけ、ウサギは変な声を出し、シルクハットだけがゼロに反応した。


【VIII 力】を与えてくれた。


ゼロはパーカーのフードを脱ぎ、自分の顔を露にした。

何の変哲もない、ただの眠そうな顔である。

ようやく席について、お茶が振舞われた。


『ハア? これだけ?』


露骨にため息をついた。

画面の前の存在は何を期待していたのだろう。

招かれざる客を受け入れてくれた。

それだけで十分ではないか。


VIII 力

小さな対話をする大きな勇気。

その場でフードを脱ぐ。


相手の表情を知ることで、初めて対等になれる。話し合いは成立した。

誰も干渉できないお茶会が始まった。


オブジェクトたちは会話をしない。

感情のような反応を示すが、それらは設計されたものに過ぎない。


もちろん、紅茶やケーキに味はない。

何かを摂取する必要もない故に排除された。


無味無臭の立方体の集合体ではあるものの、ひどく穏やかな空気が流れている。

少女はあくびをして、姿を消した。猫は少女の後ろをついていった。

ウサギは笑みを崩さず、シルクハットは空いたカップに紅茶を注いだ。


ほどよくお茶をしばきつつ、森の中で優雅に過ごす。

画面の前の存在は未だ、退屈そうにしていた。

何が不満なのか、さっぱり理解できない。


結局、お茶会が終わるまでゼロを眺めていた。

よく分からない奴だ。

そんなに嫌なら画面を閉じればいいのに。


Ⅹ 運命の輪を使って振出しに戻った。

新たな旅の始まりだ。


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Fall of Fool 長月瓦礫 @debrisbottle00

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