第263話

 優雅な音楽が奏でられていたダンスホールが、誰もいないかのように静まり返っている中で、ローラ嬢はドヤ顔でふんぞり返っている。そんなローラ嬢の姿を、アルベルト殿下と側近たちは驚きと困惑が混じった雰囲気で、女豹である貴族令嬢三人は嫌悪と怒りが混じった雰囲気で見ている。


「ローラ嬢、セドリック殿たちにもの凄い事を聞いてるぞ」

「あの子もあの子だけど、セドリックたちもセドリックたちよ」

「嬉しさが隠しきれてないわね」

「流石にあれは…………」

「…………ダンスの授業の時に、一体何を聞いていたらああなるの」


 ローラ嬢の発言も問題だが、側近たちの反応も問題だ。イザベラたちが厳しい事を言うのも、マルグリットがなげいてしまうのも理解出来る。周囲の学生たちや先生たちも、ローラ嬢や側近たちのあまりの言動に対して、思いっきり顔をしかめてしまっている。

 だがそんな周囲の反応など気にもしないのか、気付く事が出来ないのか分からないが、貴族令嬢三人に対するローラ嬢の強気な態度も、側近たちの隠しきれない喜びも変わる事がない。そんな側近たちの様子を見て、何かを言われる前にと貴族令嬢三人が反撃に出る。


「私たちは、セドリック様たちに聞いております」

「いくら仲のよい友人であるローラさんであっても、口を出し過ぎであると思います」

「セドリック様たちも、貴族家に生まれた者として施された教育を、今一度思い出していただければと」


 貴族令嬢三人の反撃に、ローラ嬢は不機嫌な顔を隠す気もなく、側近たちは気まずそうに視線を逸らした。アルベルト殿下は、擁護ようごが出来ないのかしないのか、口を閉じてどちらに対しても沈黙を貫いた。少なくとも、ローラ嬢や側近たちに比べたら、賢い選択である事は間違いないな。


「だから言ってるでしょ!!セドリックたちは、貴女たちとダンスは踊らないの!!」

「私たちも何度でも言いましょう」

「「「貴女には聞いていません」」」


 側近たちが返事をせずに視線を逸らして曖昧あいまいな状態にし、アルベルト殿下が状況を静観する様に沈黙を貫いた事で、止める者がいなくなった女と女の戦いが激化していく。

 最初は淑女同士の会話といったていで話していたのに、戦いが激化していくごとに仮面を少しずつ外し、互いに胸の内にある強い敵意を隠しもしなくなっている。現時点では、子供の様な態度と非常識な言動が目立つローラ嬢よりも、言葉や雰囲気に棘があっても理性的な貴族令嬢三人の方が優勢だ。

 しかし、ローラ嬢には一発逆転の切り札ジョーカーが存在する。貴族令嬢三人にとってだけでなく、側近たちやアルベルト殿下ですらも逆らえない、絶対的な効力を有する切り札が。徐々に劣勢に追い詰められていたローラ嬢は、ニヤリと貴族令嬢三人を嘲笑うと、その誰もあらがう事が出来ない絶対的な切り札を切った。


「私は、聖女ジャンヌの生まれ変わりにして正当なる後継者。その私の言葉に逆らうというのなら、貴女たちだけでなく、その家族や領民たちにも責めを負ってもらいましょうか」

『――――!?』

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