第91話

 魔道具に関する諸々の話が終わり、儂の本題である話題へと切り替える。本題とは当然であるが、ウォルターに関しての事じゃな。


「時にローゼン殿やアンナ夫人は、ウォルターについて何処まで情報を集めたんじゃ?」

「賢者様?どうしてその様な事を……」

「……私たちカノッサ公爵家が掴んでいる情報は、あまり多くはありません。家族関係などの基本的な情報は、こちらも当然把握はしておりました。ですが賢者様もご存じの通り、ウォルターさんの剣士としての実力までは、こちらは一切把握しておりませんでした」

「つまり、桃の件や剣士としての力量など、全く情報を掴んでいなかったと?」

「お恥ずかしい事ですが、その通りです。私どもの手の者たちは一流であると自負しておりますが、ベイルトン辺境伯家に仕えている者たちもまた一流の者たちである事から、警戒されてしまってロクに情報を掴めなかったと報告を受けております」

「まああの者たちは、魔境の浅い層ならば、単身で潜っても無傷で帰ってこれる者たちだからの」

「なる程。道理で、こちらがいい様にやり込められる訳ですね」

「いや、魔境で文字通り死ぬ気でもまれてきた者たちと、真面にやり合える者たちを育て上げられた事を誇るべきじゃ。それも、その者たちを複数人揃えられている事を考えても、カノッサ公爵家の力量の一旦が窺えるというものじゃ」

「「お褒め頂き光栄です」」


 二人とも、頭を下げて感謝を告げてくる。儂の言葉は、嘘偽りのない心からの言葉である。あの者たちと真面にやり合える者たちを、魔境という特別な環境も無しに成し遂げるなど、それだけでも称賛に価するというものだ。一体どの様にして鍛え上げたのか非常に気になる所だが、今はその事は外に置いておこう。


「それでウォルターの事なんじゃがな。一度王族やカルフォン公爵に、ウォルター、延いてはベイルトン辺境伯家の力を見せつける必要があると思っておる」

「「!?」」

「最近になって、儂に魔境への同行を頼んでくる愚か者共が、毎日の様に訪ねてくるんじゃよ。それ自体は断って切り捨てればいいんじゃが、奴らは愚かにも、ウォルターやベイルトンを下に見る様な事を言い始めたり、貴族としての力を疑う様な事まで言い始めよった」

「!!……王族派の者たちが、そこまで愚かであったとは」

「少なくとも、侯爵と同等の権力をもつ辺境伯に対して、よくもまあ強気に出れたものですね」

「長い平和続いた事で起きた、一つの弊害と言っていいじゃろうな。まあ、それは置いておいての。儂は考えた訳じゃ。王族やカルフォン公爵に、ベイルトン辺境伯家の力を見せつけるにはどうすればよいのかと」

「…………なる程。その力を示す機会は、既に向こう側から提示されている。そして主役が、賢者様からウォルターに変わるという事ですか」

「でも、後で王族や公爵の貴重な戦力を死なせたと、向こうから難癖を付けられないかしら?」

「だからこそ、その事を相談させていただくために、こうして会談の場を設けていただいた。……どうかウォルターの為に、カノッサ公爵家の力を貸していただきたい」

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