第5話
この世界に、俺以外にも転生者がいるという事が発覚した合同訓練から、一週間ほどが経った。合同訓練に関しては、あの見張りの後も問題もなく行われ、平原にたどり着いた段階で、無事に訓練終了となった。両学院の先生方も、公爵令嬢であるイザベラ嬢が組み込まれた部隊が無事に戻って来た事で、安堵の息を漏らしていた。
だが当然の事ながら、イザベラ嬢の身の安全の為に、公爵家の方で用意した影の者たちが、三日間俺たちの部隊の周囲に潜み、周囲を警戒していたのは言うまでもない。公爵家としても、彼女の身に何かあれば、色々な問題が起こるのは間違いないからな。あの二人きりの見張りの時も、影の者たちが一斉に緊張し、警戒態勢に入っていた。だが俺とイザベラ嬢が、見張りの時間が終わるまで楽し気に談笑し続けた事で、影の者たちは警戒体勢を解いてくれた。
(あの時が、今回の野営の中で一番緊張した瞬間だったな)
なんせ貴族の中のトップである、公爵家の暗部なのだ。一人一人が、超一流の技量をもつ者たちで構成された集団。公爵家に忠誠を誓い、ありとあらゆる事をこなし、公爵家を支えてきた裏方たちだ。
あの二人きりの場で、俺がおかしな真似をしていると判断されていたら、一斉に襲われていただろう。もしあの時本当にそうなったとしたら、四・五人ほどなら殺れただろうが、その後で確実に殺されていただろう。
辺境伯領を脅かすあの魔境で十五年、王都に来てから二年。必死に鍛え続けてはきたが、それでも人間を辞めたと言える様なレベル程ではない、と自分では思っている。だが公爵家の影の者たちと正面切ってやり合うには、全然力が足りないだろう。まだまだ、鍛え方が足りないな。
「それにしても、訓練から一週間、一切音沙汰がなかったのに急に呼び出してくるなんて。それも、俺が来れる様な場所じゃない、こんな場違いな所に」
俺は手に持つ一通の手紙を見ながら、そう呟く。この手に持つ手紙の送り主は、当然イザベラ嬢だ。質の良い封筒に、同じく質の良い紙が使われており、これ一つとっても、公爵家の財力や権力がどれだけ強大であるか分かる程だ。
手紙の内容は、あの見張りの時に話していた様に、色々と協力してほしい事があると書かれていた。だが、そこからが問題であった。その話をするためには、俺たち三人でもう一度会う必要がある。だが手紙に書かれていたのは、俺が魔法学院に足を運んでイザベラ嬢を訪ねるという事でもなく、イザベラ嬢とクララ嬢が、逆に騎士学院に俺を訪ねてくるという事でもなかった。
「まさか、公爵家にお呼ばれされる事になろうとはな」
そう、手紙の中で三人で合う場所に指定されたのは、まさかまさかの、王都にあるカノッサ公爵家本家の屋敷だったのだ。俺としては場所を変えて欲しかったのだが、二人に連絡する手段もなく、公爵家に伝手もない。なので、大人しくイザベラ嬢の指示に従うしかなかった。
手紙で指定された時間、指定された場所で待機し、現れた一台の馬車に乗り込んでユラユラと揺られる事数分、ついにカノッサ公爵家の屋敷に到着した。馬車の窓から見えるカノッサ公爵家の屋敷は、実家の王都屋敷の、数十倍の規模の金がかかっているのが見て分かる程豪華だ。それに、敷地面積に関しても規模が他と違いすぎて、やっぱり公爵家はレベルが違うなぁと、単純な感想しか出なかった。
ユラユラと揺れていた馬車が、屋敷の入り口に到着すると、その動きを止めた。そして、御者が馬車から降り、ゆっくりと馬車の扉を開けてくれる。御者にお礼を言いながら、ゆっくりと馬車を降りた。それと同時に、屋敷の正面、大きな両開きの玄関扉が開く。そして、開かれた玄関の先から現れたのは、俺を招いた張本人であるイザベラ嬢と、そのお友達であるクララ嬢だった。
「ようこそ、我がカノッサ公爵家へ。ウォルターさん、歓迎いたしますわ」
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます