四季の神々
玉藻稲荷&土鍋ご飯
第1話 初秋
この世界では、神が土地を巡り季節を運ぶ。
そして、得てして神とは気紛れなものである。
「主様ー! 急いで下さい!」
「早くしないと間に合いませんよ」
従者の狐たちが慌てる中で、寝床から起き上がった秋の神は、その稲穂のような尻尾をばさりと振って伸びをすると、ゆったりあくびをする。
「そう急かすでない。まだこちとら起きたばかりじゃというのに。ほれ、誰か茶を持て、茶を」
尻尾でぱたぱたと急かせば、横合いから速やかに茶が供される。
「やはりお主のお茶は旨いのぉ」
「飲んだら向かいますよ」
だからそう急かすなと言いかけた主を遮って、一番の従者の狐の秋穂がお茶のお代わりを取り上げる。
「秋様! これで何度目だと思っているのですか! お茶を飲んだら二度寝三度寝! 夏様をこれ以上待たせると、さすがに無礼に当たりますよ」
「……むぅ……分かっておる。分かっておる……。全く、まるで
長い付き合いですからねと、秋穂がその狐の手で器用に秋の髪の毛と尻尾を櫛けずると、そこには先程の眠たげな様子のおなごではなく、立派な秋の神が顕現していた。
「夏様~。そろそろ去らなくていいのですか?」
そう声をかけられたのは、爽やかな気配の青年だった。しかしその表情は少し曇っている。
「あぁ……秋に会ってから行こうと思っているのだが……存外あやつが遅いのでな」
「あー」
本当に秋様のことが好きなのだなと、一の従者の桃夏はため息をつく。四季の神たち四人はそれぞれに気紛れだが、季節の移ろいの境目はある程度の融通がきく。あまりにも長居してしまえば季節の歯車がずれてしまうが、中々会えない他の神を想うのも仕方がないのかもしれない。
「それにしても、あの自由気ままなのが、どこがよいのやら」
そこへ、びょうと涼しげな風がひとつ吹くと、田んぼの稲穂がゆっくりと色づき始めた。
「ようやくか、のんびり屋め」
「んーまだおったのか夏よ。お主の方こそ、随分と呆けておるようじゃの」
そう言って艶然と笑う秋の神の姿には、桃夏も思わず見とれてしまう。その様を当たり前のように見ながら、秋の尻尾があちこちに揺れれば優しげな風が森を林を、そして田畑を丁寧になぶっていく。こうして収穫の季節がやってきたのだ。
「お前の顔も見れた事だ。俺は行くとするよ」
「ん……もう行くのか。せっかくだで、お茶くらい付き合え」
秋の足元で従者が騒いでいるが、それを
それを優しげに見つめながら、夏はつぶやく。
「さ、夏を終わりにし、秋に引き継ぎがてら世間話でもするか」
「冬が来る前に終わらせて下さいよ、全く」
神々は気紛れ。振り回されるは従者たち。しかし、それもまた楽しみのひとつと、桃夏もまた茶を馳走になりに向かうのであった。
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