第27話

 深層に足を踏み入れ、顔を強張らせていた冒険者達がため息のような安堵の息を吐く。

 恐れられている魔の森の深層に足を踏み入れた。噂では足を踏み入れた瞬間、命を落とした者もいたという。そんな場所に入り、何事も起きない為緊張感が緩んだのだ。


「……何も起きねぇじゃねぇか」

「何だよ脅かしやがって」

「所詮噂は噂、って事だろ」

「案外、魔物共も俺達にビビッてんじゃねぇか?」


 そんな事を口にして冒険者達は笑う。その姿から、先程まで抱いていた警戒心は何処かへと消えてしまっていた。

 今生きているのは運が良いだけ、という考えは、この冒険者達の頭に無かった。偶々森の魔物や魔獣に遭遇しなかっただけだ。足を踏み入れた瞬間、偶々そこに魔物が居た場合、逃げることすらできずに命を散らしていた事もあり得るのだ。

 そういう事にこの冒険者達は気付いていない。故に、必要なはずの警戒心も何処かへ行ってしまっていた。


「さて、この辺りに居てくれりゃいいんだがな」

「聖女様だろ? 本当にいるのか?」


 冒険者達がここに足を踏み入れた理由ーー聖女の捜索を口にする。


「噂だけどよ。見かけた奴がいるって話だぞ」

「聖女様ってあれだろ? すげぇいい体してるって」

「助けりゃイイ仲になれるってか」


 下心しかない下衆な笑い声を、森に響かせていた。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る