第4話 族長アラン
「おい、、晴人!晴人!!」
うっすらと名前を呼ぶ声が聞こえてくる。
「はっ、」
目を覚ますと目の前には翔平がいた。
「そーいえば俺達井戸に吸い込まれまれて……どうなったんだ?」
「全くわかんねぇんだよ、俺たちは井戸に落ちて何故かここにいる。でもさ晴人、俺はこんな場所知らないぞ。」
ここはどこなのか、いったい何が起きたのか、二人には今の状況が何一つわからない。
そしてその疑問は頭が回復するにつれて不安とともに増していく。
晴人は体を起こし、前を見る。
すると目の前には想像もしない景色が広がっていた。
「どこなんだここは…」
目の前に広がっていたのは巨大な池だった。いや、池というよりこれは湖だろうか。
それにこの水は、さっきトキ山で見た水だ。
この大きな池全体が虹色の光を放っている。
でも、こんな綺麗な池がトキ山にあるわけがない。
いや、トキ山どころか世界を探してもないかもしれない。
二人は池のほとりにいて、その後ろは山で覆われていたが、対岸には何か建物のようなものが見える。
対岸に行けば誰かがいるのかもしれない。
そう思った晴人は対岸を見ながら翔平に言った。
「とりあえず、あっちの方に行けば何かあるかもしれない。」
「わかった。とりあえず行ってみよう。」
誰かにここがどこなのか聞かなければ話は進まない。
二人は対岸へ向けて歩き始めたが、大きな不安がなくなることはなかった。
二人が草むらをすすんでいる時、「カサカサ」「カサカサ」と茂みの中を何かが走るような音が聞こえた。
「なあ晴人、今何か音がしなかったか?」
翔平もその音に気づいているようだ。
「したよな、なんかいるのか?」
この池の周りは森で囲まれていて、何がいるかもわからない
二人は、恐る恐る音の鳴った茂みの方を見た。
茂みの中を見るとすぐにその音の正体はわかった。
「なんだ犬か、、」
二人は同時にほっとため息をついた。
音の正体は犬だった。柴犬だろうか、可愛らしい姿の犬が茂みから出て二人を見ている。
首輪をしていないところを見るとこの山に住んでいるのだろうか。
ほっとした二人は犬を置いてまた進み始めようとしたが、その時二人は突然誰かに話しかけられた。
「君たちどこから来たの?」
「え?」
たしかに声はした。しかし、二人が周りを見渡しても、誰も周りには見えなかった。
「ここだよ、ここ、僕を見て。」
二人は周りをくまなく探すが、誰も見当たらない。
「どこだよ!出てきてくれよ!」
翔平が声をかけるが誰も出てくる気配はない。
「ここだって!下を向いてよ!!」
下を向いてもいるのはさっきの犬だけだ。他には何もない。
「はぁー、、僕だよ!犬の僕が話してるんだ!」
「、、、はぁー!!?」
少しの沈黙の後、二人は同時にそう言葉が出た。
「なんで犬がしゃべってんだよ!」
犬が喋るというその違和感は、喋る犬を目の前にした今だからわかるとてつもないものだった。
「ねぇ、君たちどうしたの?」
その犬は何食わぬ口調で二人に尋ねる。
二人は動揺が隠せない中、翔平が口を開く。
「お前はなんなんだ?」
「初めての僕にお前とは失礼だなぁ。まあ、名前を教えてないもんね、僕はイヌの族長、アランだ。よろしく!」
「イヌの族長??アラン???なんだそれ、頭が追いつかねえよ。」
翔平は顔を歪めた。
戸惑う晴人は小声で翔平に聞く。
「翔平、どうする?わけわかんねえょこれ」
「俺だってこんなのわかんねえょ、犬が喋るわけがないだろ。」
目の前のアランと名乗る犬はとても可愛いルックスで、言葉を発する以外には何も変わらない普通の犬だ。
「晴人、俺らは夢を見てるんだよきっと。」
「そうだよな、、、こんなことあるわけねえよ」
これは鮮明な夢だ。そう思う方が楽だ。考えたら頭がパンクしてしまう。
晴人は翔平の言葉を信じようとした。
しかし、犬はまた話しかけてくる。
「君たちはどこからきたの、君たちは誰?」
二人は顔を見合わせた後、翔平が答えた。
「どこって、電車に乗って水木町から来たんだけど、、」
「電車?なにそれ?水木町ってとこも聞いたことがないよ。」
「いや、でもここはトキ山だよな?」
「トキ山なんてところは知らないよ。ここはウィーネ村だよ。」
アランは対岸にある建物を見ながらそう答える。
ウィーネ村なんてところが水木町にあるわけがない。
二人はいったいどこへきてしまったのだろう。動物の村にでもきてしまったのだろうか。
いやそんなことはファンタジーの世界だけだ。あるわけがない。
でも、二人にこの場所の見当は全くつかない。
「とりあえず君たちは人間だよね。変わった服を着ているけど遠い村から来たのかな?」
「俺らは人間だけど、、でも、まだ色々とよくわかってないんだけど……」
「人間なら客人としてうちの村に案内するよ。話は村についてからにしよう。村の奴らに聞けばもっと何か君たちのことがわかるかもしれないしね。」
翔平が小声で晴人に囁く。
「晴人、とりあえずついていこう。あそこは俺らも元々行こうとしてたとこだし、」
「わかった翔平、まずはここがどこか調べないとな。」
そういったものの晴人は正直不安だった。
もう後戻りできないところまで来ている気がしたのだ。
いったいここはどこでなぜ犬が喋ってて……
俺たちはただ学校をサボっただけだったのに。
とりあえず、この犬が悪いことを言っているようには思えなかったし、最初の目的地であった対岸に向けて二人はアランとともに向かうことにした。
「晴人、なんとかなるよ。こんな面白い世界もう見れねえかもしれねえぞ。」
と翔平はにやにやした顔を見せた。
「いや、おい!!お前のメンタルはどうなってんだよ!楽しんでたのかよ!!」
怖いもの知らずにも程があるだろ翔平は。
晴人はお化け屋敷に無理矢理連れて行かれるこどものような気持ちで翔平の後をついていった。
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