第1話 学校サボってみます
「ブー、ブー、ブーー、ブーーー、、、」
うっすらと聞こえてくるアラームを即座に止め、晴人はまたベッドの中に潜る。
「晴人!起きなさい!」
朝だとは思えない大声が響いてくる。
「はぁーー…」
晴人はひとつため息をつき、いつもと同じように学校へ行く朝支度をはじめる。
どうして毎日はこんなにも同じことの繰り返しなのだろう。
俺は学校が嫌いだ。別に、友達がいないとか、楽しくないわけではないのだが、おもしろくないのだ。
学校を休む勇気もないのだが。
俺は水木町という小さな町に住んでいる。ど田舎というわけではないが、同級生はせいぜい五十人程度だ。最近はこの町も開発が進んで、コンビニやらゲーセンやらで学生たちは大きく盛り上がっている。
覚悟を決め、家の玄関を開けると涼しい空気が入ってきた。今日から五月だっただろうか、だんだんと暖かくなってきた。
「ワンワン!ワン!」
隣の家の犬が吠えて、俺を睨んでくる。
吠えなければ可愛いのに。
そんなことを思いながら今日も重い足を進める。
ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー
「おはよー、宿題やった?」
電車の中で翔平に話しかけられた。通学に使う電車はいつもガラガラだ。
「やってるわけねーだろ。」
「だよな。」
晴人の唯一の友人である翔平とは、馬が合う。
翔平とは中学のときからずっと一緒にいる。
もう家族と言ってもおかしくない。
「今日も学校かー。俺らももう17歳だぜ。学校なんかやめてもう社会に出ててもいい頃だろ」
翔平が言うことは晴人の考えていることとだいたい同じだ。
「学校行きたくねえなー。」
晴人はそう言ったが別に本気で言った訳じゃない、思いを口にしただけだ。
しかし、今日の翔平はその言葉を待っていたように食いついてきた。
「なぁ晴人、今日の学校サボらねえか?」
「え?いや、冗談だよな?」
「いや、休む。今回はガチだ。いい案がある。」
翔平は、時々晴人でも何を考えているのかわからないことを言う。
それに翔平には、行動力がある。
そして、翔平の生き生きした顔を見るとそれが本気であることはわかった。
「いったいどんな案だよ」
聞くと翔平は、ニヤニヤと笑った。
「この電車でトキ山駅までのっていく。」
「はぁーーーー!?」
考えられない。トキ山駅というと学校がある天田駅から十駅も向こうで、 一時間半はかかる。
それに、ただでさえ田舎の俺たちにとっても誰も降りないような山しかない駅だ。
「トキ山なんか行ってどーすんだよ。」
「お前知らないのか、トキ山の中にカフェがあるって話」
なんだ翔平はそんな話しを信じてたのか…
都市伝説的なものだし、せいぜいコンビニしかないこの町にカフェなどあるわけないし、なにより誰も行った人がいないんだから…
「あんな山の中にそんなもんあるわけねえだろ。」
「いや、行ってみなきゃわかんねえだろ。」
またか…
翔平のオカルトオタクに、振り回されることはこれまでにもあった。
「まあいいだろ。トキ山にいるなんて絶対バレないしさ。」
確かにトキ山にいるなんて誰にもバレないだろう。
だってあんなとこ誰も行かないに決まってる。
そんな話をしているうちに天田駅が近づいてくる。
「晴人、どーすんだよいくのか?いかないのか?」
「いや、休みたいけど、、ほんとに行くのかよ。あるわけねえってそんなの。」
「晴人はほんと優柔不断だなぁ。そんなんだから、あいちゃんもとられんだよ」
晴人もこの言葉には流石にカッとなった。
あいちゃんとは、晴人が密かに想いを寄せていた同じクラスの女の子のことだ。
ついこないだ、男と歩いていたという熱愛報道が流れてきたばかりで、晴人はまだこころの傷が癒えていなかった。
そして、結局一言も話したことがなかった自分を情けなく思っていた。
そんな自分が嫌だったからだろうか、翔平に乗せられてることがわかりながらも、一時の感情で晴人は言ってしまった。
「いくよ。行ってやるよ。」
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