第24話・さてはおまえはモンタギュー家の回し者か?


「ベルサザさま? それにロザラインお従姉さまも? ここにどうして?」

「あなたの姿が見えたから気になって後を付けてきたのよ」


 ジュリエットに問われて、隠しておくことでもないと思い伝えると、彼女に睨まれた。


「お父さまにこのことをばらす気?」

「このままにはしておけないわ。あなたは謹慎中だったでしょう? ティボルトとこっそり会っていたなんて知れたらお咎めがあるわよ」

「お願い。黙っていて。お従姉さま」

「それは出来ない相談だな。ロレンス修道僧。この二人を結婚させれば、あなたの身にも天罰が下るぞ」


 縋るように言うジュリエットを、わたしに代わってベルサザが切って捨てた。


「どういう意味でしょう? あなたさまは?」

「僕の顔を見忘れたかい? ロレンス修道僧。10年前まであなたにはちょくちょく怪我の世話になった」

「あなたさまは……坊ちゃ……」

「まあ、昔のことはいい。それよりもこっちだ。ロレンス修道僧、二人を婚姻させてはならないよ」


  訝るロレンスに、ベルサザが苦笑を浮かべた。すると何かを思い出したかのように、ロレンスは目を見張った。二人は知り合いのようだ。どのような繋がりなのか気になったが、ベルサザはそれよりも大事な事があるとばかりに、何か言いかけようとしたロレンスを目線で黙らせ、とにかく二人を結婚させてはならないと言い放った。


  ロレンス修道僧は困惑する。わたしもベルサザが何を考えているのか分からなくなった。


「なぜですか? その訳をお話し下さい」

「そうだ。いきなり現れて結婚するなだと? 赤の他人のあんたには何の権限があって言うんだ?」

「そうよ、そうよ。私達は愛し合っているのよ。お互い成人した身だもの。本来なら親の了承など取らなくとも結婚出来るはずでしょう? 平民達は皆、そうしていると聞くわ。そうでしょう? お従姉さま」


 ベルサザに止められて、ティボルトとジュリエットは反論する。そしてジュリエットは、わたしの母親のことまで持ち出してきた。

 わたしはもうジュリエットが、もう誰と結ばれようと関係なかった。この世界はわたしの知る世界だとしても、その物語通りに進めなくとも、本人が納得して選んだ道ならそれで良いような気もしてきた。


 ジュリエットの可愛げが無くなったことで、愛想が尽きている気持ちの方が大きいかも知れない。本人が選ぶ道だ。それで不幸になろうが知らないと思っていた。

わたしもどうしてベルサザがこうまでして、彼らの結婚を邪魔しようとするのか不思議だった。


「まさかベル。ジュリエットに?」

「止めろ。全然、違う理由だ」


 ジュリエットに惹かれたの? と、言いかけたわたしを一睨みで彼は黙らせた。


「とにかく二人を結婚させてはならない」

「どうしてあなたに、そんなこと言われなくてはいけないの?」


 頑ななベルサザの態度に、ロレンス修道僧は何かに気付き始めたようだ。


「もしかしてお二人には、結婚させてはならない事情があると言うことですね?」

「そうだ」


 ベルサザが頷く。


「勝手に決めないでよ。私達は愛し合っているのよ」

「さてはおまえは、モンタギュー家の回し者か? だから俺達の邪魔をしようというのか? ロザラインまで連れてきて止めようとしたんだろうが無駄だったな。俺はロザラインのことは何とも思っていない」


 ティボルトの言ったモンタギュー家の回し者か? の言葉に、ベルサザが意表を突かれた顔をした。わたしはティボルトの言葉にむかついてきた。

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