🍀ロミオとジュリエットの世界に転生しました。転生ロザラインはバットエンドを望まない!
朝比奈 呈🐣
第1話・7歳にして天命を知る?
「ああ。ロミオ、ロミオ、どうしてあなたはロミオなの」
頭を打ち、朦朧とする意識のなか、ある記憶が蘇ってきた。脳裏に浮かんだのは、ある恋愛劇の一場面。ヒロインが叶わぬ恋に身を焦がし、バルコニーから夜空を見上げて、苦しい胸のうちを明かすシーンだ。どうして突然、そのような場面が頭の中に浮かんできたのかは分からない。でも、目の前で泣きそうな顔をしている従妹の、ジュリエットに関する記憶だと気がついてハッとした。だってそれは将来起こりえる未来だったから。
7歳のわたしが思い出したのは前世の記憶。奇妙なことに前世の自分は、この世界のことを知っていた。
わたしが今生きているこの世界は、前世の記憶によると、物語や戯曲でよく知られていた。題名は「ロミオとジュリエット」。恋愛悲劇だ。前世、女子高校生だったわたしは演劇部に所属し、この演目を、3年生の時に文化祭で演じたのだ。わたしの役柄は、ジュリエットの従姉ロザライン。その世界に奇しくも転生してしまったらしい。前世、演じた役柄と同じ、ロザラインとして。
目の前には、4歳になる幼いジュリエットがいる。わたし達は父親同士が兄弟の従姉妹。二人とも父親似なので、本当の姉妹のように顔立ちも良く似ていた。じくじくと痛む頭に手をやれば、血がべったりついてくる。それを見て目の前のジュリエットは目を見張っていたが、そのことに気を配る余裕はなく、わたしは他のことに気を捕らわれていた。
「ロミオとジュリエット」の物語では、ヒロインのジュリエットが、彼女の実家であるキャピュレット家と、敵対しているモンタギュー家のロミオと出会い、運命的な恋をし、命を落とすことになる。この恋愛悲劇は舞台では冒頭の台詞をはじめ、心を打たれるシーンがあったけど、実際、現実に起きるとなったらそれは別だ。
この可愛いジュリエットが死ぬ? そんな結末なんて見たくない。何とか回避出来ない?
そう思った時、モンタギュー家のロミオの不評を思い出した。この世界のモンタギュー家のロミオは、あまり良い評判を聞かない。9歳の悪童として有名で、モンタギュー家では、鼻つまみ者とされていると聞く。彼は街中を、不良少年達を引き連れて闊歩し、喧嘩や恐喝まがいのことをしていたので、皆に嫌われていた。
そんな相手とジュリエットが恋? ないない、あり得ない。と、いうかさせたくない。無邪気にわたしを慕ってくれるジュリエットは、天使のように愛らしい。その彼女を兄弟のいないわたしは、実の妹のように可愛がっていた。そのジュリエットが、不良少年ロミオに出会ったら不幸の始まりにしか思えない。
未来のジュリエットが、悪い男の見本のようなロミオに騙されて振り回されて泣かされる? そんなの嫌だ!
「うわああああああああっ。さいあくだよぉおおおおおお」
わたしが頭を抱え込むと、ジュリエットもつられたように泣き出した。この場に共にいる赤毛の少年ティボルトだけは、青ざめた顔をしていた。
「わあああああああっ。ロザリーが、ロザリーがしんじゃうよう」
「お、おれ、そんなつもりじゃ……」
わたしは二人に愛称のロザリーで呼ばれていた。火が付いたように、泣き出したジュリエットの声で、我に返ると「どうした?」と、声がして、数名の大人達がこちらへ向かってくるのが見えた。
わたし達のいる噴水の垣根を越えた向こう側では、キャピュレット家主催の、ガーデンパーティーが開かれていた。当主の4歳になる愛娘のジュリエットに、その従姉妹で遊び相手の7歳のわたしと、当主夫人のお気に入りの甥っ子の10歳になるティボルトは、つまらない大人達の談笑の輪から抜け出し、噴水前で遊んでいたのだ。
ところがわたしはティボルトと言い争いになり、彼に押された勢いで噴水の縁に頭を打ち付けていた。じくじくと痛むと思ったら、頭から血が滲み出ていた。その血を見たジュリエットは、驚いて泣き出したようだった。
「ジュリエット、どうした? 何があった?」
「ロザリーが、ロザリーがあたまをぶつけたの。いっぱい、ちがでて……」
「……!」
「ロザリーッ」
駆けつけて来たのは、キャピュレット家当主で、ジュリエットの父親である叔父と、わたしの父や、数名の使用人達。父はわたしの様子を見て顔色を変えた。すぐにわたしを抱き上げて「医者だ!」と、呼ぶ。その後のことはあまり良く覚えてない。
気がついた時にはベッドの上で、頭は包帯でぐるぐる巻き状態。しかも7歳のわたしの怪我を負わせた責任を取る形で、10歳のティボルトが許婚に決まっていた。
その時、わたしは皆が自分を心配するなかで、密かに決意した。なんとしてもジュリエットの悲劇的な未来は回避してみせる。自分が変えてみせると。この世界に転生したのは天命に他ならない。神さまはジュリエットの悲劇的な未来から救う為、わたしをこの世界に送り込んだのだ。
この時のわたしは、7歳にして根拠のない使命感に溢れていた。
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