第27話 結界破壊
「たいしょーーーーーーーーーー!!!!」
この馬鹿でかい声は……ジェニスか。どうやら話はついたようだな。
俺たちは無事に受け入れてもらえるのか?
ダメだったら別の地を探すしかないが……正直そっちに時間を割くのは避けたい。
時間に余裕があれば別に構わなかったが、俺には十億円が待っている。
人の命と金を天秤にかけるような真似はしたくないが、正直な心情はそうだ。
だが避けたいのであって、絶対にやりたくないというわけではない。
ここで獣人族の女たちを見捨てれば、俺は一生後悔し、消えない十字架を背負うことになるだろう。
まぁダメだったらダメだったで、考えようはある。今はまだ焦らずともいいさ。
「はぁ……はぁ……大将! 族長が滞在を認めるってよ!」
ジェニスが息切れしながら説明してくれているが、息切れするほど急いできてくれたのか、なんだか申し訳ないな。
「そうか、わざわざ急いで知らせてくれてありがとな」
「おう!」
滞在の許可は下りたようだが、本当に大丈夫か?
ちゃんと仲間のことは伝えただろうし、相手は大丈夫だと言ったんだ。大丈夫だろ。
「よーーし! それじゃあ許可が下りたダークエルフの村に行くぞ!!」
獣人の女子たちは喜びあってるな。これで肩の荷も下りそうだが、相手に負担を押し付けるだけ押し付けるのも気が引ける。
食料調達くらいは手伝うべきだろう。水は……霞に任せるか。
住む場所は大丈夫なのか? 野宿じゃないにせよ、一つの部屋に全員押し詰めるとかタコ部屋みたいなことはやめてくれよ……。
「どうかしたか大将?」
「いや、なんでもない。それじゃ行くか」
到着まで何事もなきゃいいけどな。
「ん? こんなところに小屋が一軒だけ建ってるな?」
少し進んだところで一つの小屋を発見だ。
しかも畑付き。作物は何も植えられていないようだが、荒れた様子もない。
だが誰かが住んでいるという様子もなさそうだが――
「……そこにはもう誰も住んでいないぜ」
ジェニスが俯いて返答してくれたが……その様子から察するに、この家の住人は死んでしまったか。
だがどうしてこんな危険な森の中に一軒だけ建ってるんだ?
見張りの為の家とか、一人が好きなダークエルフの家だったのか。
気になるところだが、ジェニスの雰囲気からあまり深入りするのは良くなさそうだ。
「大将、そろそろだぜ」
もうそろそろでダークエルフの村か。どんな場所なんだろうな。
……しかしなんだ、何か重要なことを忘れているような気がするが、思い出せない。
ダークエルフに関連したことだった思うのだが、なんだったか。
――パリィィン!
「なんだ!?」
突然ガラスの割れるような音がしたぞ!?
ガラス――割れる――建物――襲撃――
ダークエルフの村が何かに襲われているのか?!
「――あぁ……遅かった」
今度はベルカが息を切らせてやってきたようだが……遅かった?
どこかでガラスが割れたような音に、ベルカの遅かったという言葉……まさかッ?!
「あー……大将、結界壊しちゃったみたいだな。やっぱりダメだったか。大将のテイムした従魔だし、もしかしたら通れるかなーって思ったんだけどなぁ」
ジェニスが困ったように笑っている……やはりそうか。
俺が忘れていたのは、ダークエルフの村を魔物から守っている結界のことだ。
ジェニスのそろそろって言うのは、この結界のことだったんだな。
下位や中位程度の魔物なら問題なく弾くことができそうだが、上位レベルの魔物になると、結界自体が耐えられなかったか……。
これはマズイことになったな。非常にマズイ。責任を取らされて処刑されかねないほどマズイ気がする。
「ちょっとーーーーーーーーーー!! 何してくれてんの……よ?」
目の前にツインテールのウンディーネが現れたが……あぁ、このウンディーネの縄張りなのか。ゴブリン退治の依頼以来だな。
ベルカたちが膝をついている。俺も膝をついたほうがいいか……?
いや、霞の主という立場だし、つくべきではないのか? わからん。
「ちょ、ちょっとアンタ……その後ろの蛇、は……一体何、よ……?」
ツインテウンディーネが震えながら指さしてるソレは、ヴリトラのアスラだ。
こういうのは来る前に気配で察知できそうなもんだが、そうでもないのか?
「主の従魔となったヴリトラのアスラだ。どうだ、面白いだろう?」
霞がイタズラが成功した子供のような顔をしている……。
「た、大将……ウンディーネ様が二人いるんだけど?」
「ウンディーネって沢山いるみたいだぞ」
「そ、そんなわけないだろ! 滅多に見かけることがない神様みたいな存在なんだよ、そんなポンポンいてたまるか……!」
流石のジェニスも驚きを隠せないようだ。
この反応から、ウンディーネを複数見かけるのは滅多になさそうだが、ここからあそこまでの距離なら、狩りとかで移動しないのか? いや、遠いか。
そもそもウンディーネは狩りで糧を得るのか? どうもそんなイメージはないが、今度聞いてみるか。
そういえば、ウンディーネが複数いるということは、他の大精霊も複数いるってことだよな。
思ってるよりもネームドの大精霊は珍しくはないのか?
ジェニスの反応を見るに珍しいは珍しいんだろうが、こうも目の前で言い合ってるのを見てしまうと、希少感もへったくれもないな。
「フフ、すまなかった。また結界を張り直してくれないか? 今度は上位種にも効くような結界でな」
「くぅぅぅ~~……なんでこんなところにヴリトラがいるのよぉ……バッカじゃないの?」
ツインテウンディーネは恨めしそうにぶつぶつと文句を言っている……。
結界のことを知っていた霞が何も言わなかったということは、結界が壊れても問題はなく、こうしてツインテウンディーネが張りに来ることを予期していたのか。
だから結界が壊れると分かっていても、俺たちを止めなかったんだな。
一言欲しかった気がするが、まぁ良い経験ができたということで手打ちにしよう。
しかし結界を今張り直すとなると、中にいる従魔はどうなるんだ?
それに壊したのは俺たちだ。何もせずに去るというのもな……。
「……ちょっと待ってくれ」
「何よ」
ツインテウンディーネに鋭い瞳で睨まれた……思っているよりも機嫌が悪そうだな。
「……その結界ができると、魔物である従魔たちは入れない――んですよね?」
霞はともかく、ダークエルフたちが崇めているウンディーネに無礼な言葉遣いはできないな。
「そうよ、だから外で待たせるしかないわね」
マジかよ……さっきの結界破壊で薄々理解してしまったが、従魔ですら結界のある場所には入れないって、この世界のテイマーはかなり不遇な扱いを受けてるんじゃないか?
仲間を外に置いて自分だけ街中に入るのはな……。
ペットを外で待たせてホテルで寝るようなもんだろ。俺にはそんな真似できないぞ……。
「まぁ、仕方ないか。ベルカ、ジェニス、俺の代わりに獣人たちを村まで連れていってくれ」
「えっ、大将はどうするんだ?」
「俺は外で――」
……いや、一度族長なる人物に会っておいたほうがいいな。
俺だけならともかく、獣人たちの件もある。顔も合わせず投げっぱなしってのはな……。
「いややっぱやめた。霞は結界通れるよな?」
同じウンディーネなら、魔物ではなく大精霊の括りだろうし、問題ないと思うが。
「ああ、問題ないぞ」
「てことだ。すまないがアトラたちにはここで暫く待ってもらう。俺は族長様に会って話をしてくる。それからすぐに戻ってくるから、悪いがみんなここで待っていてくれ」
「……キ!」
「ブモ」
「クェッ」
「シャー」
アトラはやや不満そうだったが、不承不承ながら了承してくれたようだ。
ここにみんなを残していくのは不安だが、死ぬことはないはずだ。
結界の強度からしても、ヴリトラ級がここまでやってくるのは想定外みたいだしな。
「ふぅ、結界張り直すのも面倒なんだから気を付けなさいよね!」
「……す、すみません」
「アンタも! アンタがいるなら事前に説明しておくべきでしょ!?」
「壊れてもどうせすぐ張り直しにくると思ったからな」
「それでダークエルフたちが襲われたらどうするのよ!!」
「原因は違うが、既にゴブリンに襲われていたぞ。気づいてなかったのか?」
「えっ、嘘っ?!」
「お前が依頼したゴブリンの巣で捕まってたぞ。主と私たちで助けられたから良かったがな」
「はぁーー……そんなことになっていたなんてね……」
「これで貸しが一つできたな」
「その貸しなんて私の結界壊したのでチャラよ!」
「では私も結界を張り直すのを手伝おう。悪くない提案だろ?」
「上位種用の結界を張ってなかった私の落ち度だし……ぐぬぬぬ」
なんで最初から上位種用の結界を張っていなかったのか、という質問はやめておこう。
ここで更に機嫌を損ねて睨まれるのは避けたい。
「わかったわ! 仕方ないから貸し一つにしといてあげる! もうっ、上位種用の結界は魔力消費凄いからやりたくないのに……いくわよ!」
「ああ」
ツインテウンディーネと霞が両手を上げて、その手から青い光が放たれ、青い光は空まで伸びていてき、そこでドーム状のように広がっていった。あれが結界なのか。
で、あのドームの中心部分に村があるのか……遠いな。
「はぁーー……疲れたからもう寝る!」
それだけ言い残して、結界を張り終わったらしいツインテウンディーネは消えてしまった……。
なんか崇められるほど偉そうに見えないのは、言葉遣いや態度のせいだろうか?
幼馴染系ツンデレキャラみたいなウンディーネだったな……。
「久しぶりに結界を張ったが、腕は鈍っていなかったようだ」
霞のほうはぴんぴんしてるが、ウンディーネにも個体差があるのか?
「……まぁなんだか分からんがよし。 ダークエルフの村に行くぞ」
自分のしでかした後始末も終わったから、あとは村へ行くだけだが……変なトラブルとか起きないといいな……。
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