失踪した者

 儂は今、ナタス村に来ておる。

 学園では今頃職員会議といったところじゃろう。


 準決勝でのフィンの戦いが終わった瞬間に儂は学園から飛び出した。

 あんな魔法がもしかしたら自分に使われるかと思うと身がすくむ。


 ……別に怖かったから逃げたわけじゃない。


 別件の用事を思い出したのじゃ。


 フィンの妹であるソフィアから手紙で修行をつけてほしいと言われてな。


 何故、急にそんなふうに言ったのか分からないわけでもないが。

 行くだけ行ってみる。



◆◇◆◇◆◇



「修行の件、受け入れてもらってありがとうございます、ゼノムさん」


 黒髪の美少女であるソフィアが儂を見るなり頭を下げる。

 儂が美少女って言ったらロリコンみたいに思われそうじゃが、違うからの。儂は、一般的な意見を言ったのじゃ。


「まだ受け入れるとは言ってないぞ」


「……え?」


 笑顔だったソフィアの表情が固まる。


「何故、修行をつけてほしいんじゃ?お主はフィンと一緒に剣を教えていたじゃろ。お主の剣の腕ならアラード学園は簡単に合格できるぞ」


 この村を立つ際にソフィアから剣術のレベルを聞いていた。

 その時はLEVEL8だったから、一人の時も練習を続けていたのだとすればLEVEL9に行っているかもしれぬ。


 だから、もしソフィアが試験で不安があったのじゃとすればこの話はなかったことになる。


「そんなのではありません。先日お兄ちゃんから手紙が来たんです。そしたら、友だちができたって書いていて。

 お兄ちゃんに友だちができるのは嬉しいです。でも、やっぱりお兄ちゃんの隣だけは譲れないから。

 強くなってお兄ちゃんの隣に立ちたいです。

 だから、私に魔法を教えてください」


 覚悟はできているというような目じゃな。


 修行をつけるにはいいじゃろう。

 じゃが、魔法となると話は変わってくる。


「確か、無属性〈魔法強化〉じゃったな。そして、それを活かす肝心な適正属性はなしと」


 無属性〈魔法強化〉、それは発動した魔法を何十倍にも強化するものじゃ。

 しかし、ソフィアは適正属性を持っておらぬ。


 だから、宝の持ち腐れなのである。


「適正属性がない者が魔法を使うとどうなるのかは」


「知ってます」


 ソフィアの瞳を見る。


「やはり、お主らは似ておるの」


 その瞳はやり遂げるまでやり続ける瞳じゃ。


 そして、おそらくこうなったソフィアはフィンと同じく絶対に引かない。


「いいじゃろう。儂が教えてやる」


「あ、ありがとうございます!」


 最強フィンに並び立てるように育てよう。


 儂はそう誓った。



◆◇◆◇◆◇〜ソフィアside〜



 私の中にはいつも私ではない人がいる。


 彼女は、いつも語りかけてきた。


『ほらっ!見て、あの凛々しい横顔』


『あなたを心配してる!やっぱり優しい!』


『大好き!』


 小さい頃からお兄ちゃんを見ては話しかけてきた。


 だからだろうか、私がお兄ちゃんが好きになったのは。


 彼女を通して、お兄ちゃんの良いところやカッコいいところが見えてくる。


 彼女とは、対話ができる。


 だから、一人の時とかよくお喋りしていた。


 二歳になった頃からは彼女と人格?みたいなものを交換できるようになった。


 そして、私たちはよく交代するようになった。


 彼女が私の身体の主導権を握ったときはもちろんお兄ちゃんに猛アタック。


 彼女の行動にはいつも驚かされたけど、本当に驚いたのは、


『お兄ちゃん!この国では兄妹で結婚するのが普通なんだって!私と結婚しよ!』


 一瞬、何言っているのか理解できなかった。


『そうなのか……いいよ』


 お兄ちゃんもまさかOKしちゃうし。

 あの顔はマジだったよ。


 でも内心嬉しかったのは認める。


 五歳になった日。

 その日は家族とゼノムさんとフォレスさんと教会に行く日だ。


 今日もそうだけど、一週間くらい前から彼女の元気がない。


 どうしたんだろう。

 私は心配しつつ、ステータスを解放しに行く。


_______________________


ソフィア・トレード


人族


魔力:107


適正属性:無属性〈魔法強化〉LEVEL1


スキル:


_______________________


 魔法強化?

 なんとなくだけど、魔法を強くするみたいなかんじだと思う。


 でも、適正属性なしなんかじゃ……。


『本当にごめんなさい。私のせいであなたの人生を歪めてしまった』


 どういうこと?


『私、実は一度死んでいるの。

 もともとはここじゃない世界に住んでいて、彼と一緒に死んでここに来た』


 彼ってもしかしてお兄ちゃん?


『そう。私が死にそうになってたところを助けてもらって。まあ、結局どっちも死んでしまったけど。

 それで、ここに来る前に神様?みたいのと会ったんだ。

 神様は何か私に凄い能力を与えようとしてたんだ。だけど、私はそれを私を助けて死んだ彼に与えて、って言ったんだ。

 だから、あなたは本来凄い能力を持っていたんだ』


 何か急に話のスケールがでかくなって頭が追いつけない。


 どうしてお兄ちゃんが助けてくれた人だって分かったの?


『あー、それはね。神様に彼の妹にしてって頼んだの』


 それでか。


『本当にごめんなさい。私がいなければ』


 そんなこと言わないでよ。あなたも私なんだから。

 私とあなた、二人で一人なんだよ?


『……ありがとう、ソフィア』


 少しずつ元気を取り戻して行く彼女。


 あ、そういえば。

 ねぇ、あなたの名前は?


『え?私?私は、姫野舞。舞って呼んで』


 これからもよろしくね、舞。


『うん!よろしく、ソフィア!』



 




 






 


 

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