剣士は剣士。魔法使いは魔法使い。
試験から一週間が経った。
今日から、ようやく授業が始まる。
「マルコ、着替えたら一緒に行こう?」
朝ごはんを食べながら聞きてみる。
唐揚げの件からマルコは俺のご飯を食べるようになった。
みたか、俺の腕を!
「何故、俺が貴様と行かなければならないのだ」
はい。分かってました。
一人で行くよ。一人で。
◆◇◆◇◆◇
俺のクラスは……あっ、Cか。
学園の掲示板にて自分のクラスを確認した俺は、教室に向かった。
ここで、少し早めに行くのが大切なのである。
新しいクラス。ましては、新入生でまだグループができていない。
よって、ここで行動した者がこれからの学園生活においての覇者となる。
ということで結構早めに着きましたところ、なんと教室には誰もおらず。
「早く来すぎたぁ」
仕方ないな。誰か来たら話しかけよう。
なんて話しかけようかな。
できれば、普通じゃない人がいいな。
普通じゃない人といることで俺の普通さが目立つってこと。
まあ、別に友達ができるのならどっちでもいいけど。
待つこと約三十分。
廊下から足音が響く。
そのまま、教室まで来た。
やっと来たか。
人と話すときに大事なことは、四つある……と思う。
一つ、挨拶。
一つ、笑顔。
一つ、相手の目を見ること。
一つ、相手の話しをちゃんと聞くこと。
うん。前世の俺が全部できてなかったことだな。
まあ、いい。
重要なのは今だ。
「やあ、おはよう」
俺は、教室に入ってきた人物に話しかける。
入ってきたのは小柄な少女だった。
この人、見たことがあるな。
えっと……あ、聖女だ。
「おはようございます。随分と早いですね」
「時間間違えちゃって」
「そうなんですか。あ、私はアリス・アレシアです。よろしくお願いします」
「俺はフィン・トレード。よろしく」
俺たちは、先生が来るまで話した。
◆◇◆◇◆◇
「Cクラスの担任になったセレナ・アローナよ。一年間よろしく」
とうとう、始まったか。
自己紹介。
これは、前世での嫌な記憶しかない。
だが、しかしもう俺は二度と失敗しない。
何故なら俺は、普通だからだ!
この日のために俺は完璧な自己紹介を練ってきた。
「さっそくだけど実技練習を始めるわ。各自更衣室で着替えた後、第一練習場に集まって」
あれ?自己紹介は?
ないの、自己紹介……。
◆◇◆◇◆◇
練習場は、体育館てきなところより何十倍も広かった。
ちなみにあの体育館てきなところの名前は、講堂というらしい。
そこに集まるA〜Cクラス。
全体でA〜Iクラスまであって、一クラスにおよそ四十人いる。
「じゃあ、今から各自自由にしてもらっていいから」
アローナ先生は練習時においての注意事項を言って、生徒を解散させた。
「フィン・トレード、こっちに来なさい」
俺も散ろうかな、と思ったらアローナ先生に呼び止められた。
「なんでしょうか」
「あなたは第二練習場で練習なさい」
何で?
◆◇◆◇◆◇
第二練習場の扉を開ける。
「おっ、マルコ!」
中にはマルコと名前を忘れた少女が立っていた。
「誰、アイツ」
少女が俺を指差しマルコに聞く。
「俺のルームメイトだ。不本意だが」
一言余計だぞ、マルコ。
「へぇ、ソイツがマルコに次ぐ……」
少女が俺の方を見てニヤニヤしている。
「そんなわけないだろ。あんな奴が」
マルコと少女が俺を横目に何か話している。
「試してみればわかるでしょ。ねえ、アンタ。今から私と模擬戦するわよ」
おぅ。拒否権なしかよ。
◆◇◆◇◆◇
「私はエリザ・クライス」
三十メートル離れた先に立つ少女、クライスさんが名乗る。
「俺はフィン・トレード。よろしくね、クライスさん」
「それでは、模擬戦を始める。始め!」
マルコの掛け声で始まった模擬戦。最初に動いたのはクライスさんだった。
「『我の願いに答えよ。彼の者に炎災を。彼の者に爆砕を。追い求めよ――ファイアー・ストーム』」
クライスさんから放たれる、火属性上級魔法。
十メートルはある天井を焦がす勢いで巻き上がる炎が俺に迫る。
「さあ、避けるなり逃げるなりしてみなさい?」
口端を愉快にあげるクライスさん。どうやら、自分の勝利を確信したようだ。
甘いな。俺より早く上級魔法を使ったくらいで。
だいたい、上級魔法を使えるなんて普通だ。
刻一刻と迫りくる炎の渦。
俺は剣を構え、あの時――師匠との最終試験を思い出していた。
魔法を斬る、あの剣撃を。
(『ストック2、魔力500』)
どうやったら、魔法を斬れるのか。
あれから、俺はずっと考えていた。
そこで俺は、魔法の原理について考えた。
魔法は、魔力を物質へと変化させることで生まれる。
その魔法をファイアー・ストームのように一定時間維持するのに、常時魔力を炎に変化させ続けないといけないのなら。
魔法の中にその魔力を貯める、核のようなものが必要なはず。
つまり、核を斬れば魔法は消滅する。たぶん。
そして、核は真ん中にある。たぶん。
仮定に仮定を重ねたが、まあ何とかなるだろう。
「はっ」
剣を横に振る。
斬撃は空気を斬り、飛んでいく。
そして、目の前に迫ったファイアー・ストームの中に入り込み、
チンッ。
と、微かな音を立てた。
そして、音もなくファイアー・ストームは消えた。
「成功した」
「あ、アンタッ!今何したのよ?!」
え?魔法を斬っただけなんだけど。
ああ、そうか。クライスさんは魔法使いっぽいから、詳しくないのか。
まあ、後で説明してあげよ。
「魔法を斬っただとっ……!あれは、『剣豪』のゼノム・アスフォードが長年かけて習得した、伝説の……。どうしてそれをあんな奴が……」
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