死んで異世界転生したら厨二病が治りました。今世は普通に生きます。

猫丸

入学編

プロローグ

 我の名は、……え〜と、や、山田一郎だ。

 ゴホン、しかしそれは、仮の名にすぎん。

 なに?本当の名を聞きたいって?

 それは、ダメだ。真名を言ってしまえば我を縛る鎖がなくなり、この世界は滅亡するだろう。


 我はこの世の人間ではない。

 いや、そもそも人間ですらない。

 我は魔界で生まれし魔王なのだ。


 地球に降り立ったのは、今から数千年前の――


 ジリリリリリリリリ。


 目醒めの時が来たようだ。


 この話は後にしよう。


 我は今、学校という機関に通っている。


 傍から見れば唯青春を謳歌しているように見えるだろう。

 だが、あそこはどうも危険な匂いがする。

 だから、我が直々に調査を行っているのだ。


 いつだって魔王を倒すのは人間。

 我も油断は出来ないのだ。


「行ってきます」


 拠点に響く我の声。

 挨拶は返ってこない。何故なら我は孤高な存在だからだ。


 そういうことで、我は今日も学校に行く。


「やべっ、山田だ」

「からまれるぞ」

「逃げろ逃げろ」


 学校に着くなり、周りの奴らは我から離れていく。


「ふっ、これも強者故の宿命か……」


 寂しいかって?寂しくない。そう寂しくない。何故なら宿命だからだ。

 我がボッチなのは運命で、悪いのはこれを仕組んだ神だ。


 ふふっ、神め。いつか滅ぼさなければな。


「じゃあ、出席とりまーす。……山田君」


「おっと、我を呼んだか。『プリンセス』。今宵も我と踊りあか――」


「放課後、生徒指導室にいらっしゃい」


 ふん。照れ隠しか。



◆◇◆◇◆◇



 紅の夕陽が我を照らす。


「長かったなあ……」


 放課後、我は『プリンセス』から二時間程、生徒指導室にて監禁された。


「痛っ?!」


 ん?前から女の子の声が聞こえたな。

 どこだ?


「なっ?!」


 前方に女の子が地面に腰を落としていた。

 痛むのか足を押さえていて、動けないようだ。


 そして、場所が悪すぎる。

 道路の真ん中でうずくまっていて、車が来たらヤバいな。


 って来たんだけど!しかもトラック!!


 運転手は彼女がうずくまっているのもあり気づく様子がない。


 彼女は気づいてはいるが動けない。

 最悪の事態を想像したのか、彼女の表情が強張る。


 よし、行くか。


「大丈夫だ。我が助けてやろう」


 まあ、さすがに前から人が来たら運転手も気づくだ……ろう……寝てやがる!


 アイツ寝てるよ!

 ヤバいっ、死ぬっ!


 うそだろ……どうせ止まるだろうからカッコつけようとしただけなのに……。


「え?え?あっ、逃げてっ!」


 彼女も気づいたのか、我に逃げるように訴える。


「……自分はそこから動けねぇくせに」


「え?」


「大丈夫だ。我が一度護ると決めた以上、君だけは生かす」


 何故、こんなことをしているのだろうか。我は魔王だぞ。今からでも見捨てて逃げれば我は助かる。

 まあ、良いか。


 我は彼女を持ち上げ抱える。いわゆるお姫様抱っこというやつ。


 おも……ゴホン、もっと鍛えていればなぁ。


「よっとっ」


「きゃっ」


 雑でごめんね、でも我慢して……。


 我は間に合いそうなかったので彼女を道の端に投げる。

 これで何とかトラックの進行方向からは逸らすことができたな。


 彼女は我に手を伸ばすが、どうせ間に合わないから無視をする。


 それよりもすることがある。

 考えろ。今出来る、最善策を。

 衝突の瞬間に後ろに地面を蹴り衝撃を軽くする。


 ふっ、イメージは完璧だ。

 一つ問題があるというのであれば……身体が動かん!


 そう、何を隠そう。我の身体はスペックが低いのだ。ま、まあ、魔法特化だし?別に気にしたことなかったし?


 ああ、もうダメだな。

 どうせ、死ぬなら、どうか異世界転生できますように。



◆◇◆◇◆◇



「ぎゃー、ぎゃー」


 ん?何だ赤子の泣き声が……って我かっ?!


 え?もしかして、転生?!えっ?異世界?お願い異世界であって!魔法とか剣とかで無双したい!


 ゴホン……少し取り乱したな。


 それより、我は死んだのか。


 助けた彼女は無事かな。

 文字通り命をかけたのだからな、助かっていてほしいが。


 それより、前世になるのか。我は前世をきちんと楽しめただろうか?


 我の脳裏に数々の記憶が巡らされる。


 …………………………。


 ……………。


 ………。


 あれ?


 我……いや、俺って痛かった?


 俺って厨二病ってやつ?!


 あああああああああああぁぁぁぁぁぁぁあっっ!

 恥ずかしい、恥ずかしい、恥ずかしい!!


 どうやら、トラックにぶつかった時に目が覚めたらしい。


「ア、アナタ?!フィンの顔が赤くなって!」

「ど、どどどどうしたんだっ!」


 こ、これが俺の両親か……。


 ご、ごめんね。俺、もう無理だわ。


「フィンーー、しっかりしてー!!」

「あわわわっ!」


 今世は普通に生きよう。


 俺は、そう誓った。

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