さよなら、願い事

緑のキツネ

第1話 シンデレラ

私は幼い頃からずっとお母さんに

読み聞かせをしてもらっていた。

特に私が気に入っていたのが

『シンデレラ』だった。

姉に召し使いとして扱われる毎日に

嫌気がさしていた中、王子と出会い、

結婚する。

こんな夢のような恋をしてみたい。

そう思い、

私はずっとシンデレラに憧れていた。

小学校に入学して5年が経ったある日、

文化祭でする劇についての話があった。

私たちの学校では奇数の学年が劇をして、

偶数の学年が音楽をするのが決まっていた。

しかし、1〜4年生までは

先生が勝手に決める。

5年生と6年生だけが

生徒自身で選ぶことが出来る。

そんな中、私たち5年生は話し合った結果、

『シンデレラ』をすることになった。


「これから役を決めていきたいと思います。

まずは3分間、考える時間をとります」


学級委員がこの話し合いを進めていく。


「美香は何にするの?」


斜め前の友達の岡田由美が聞いてきた。


「私はシンデレラ。

小さい頃からの夢だったの」


こんな千載一遇のチャンスを

逃すわけにはいかない。


「由美は何にするの?」


「私は……なんでも良いや」


由美に似合っている役といえば……。

思慮分別があるから……。


「由美はお母さん役とか良いんじゃない?」


私がそう言った途端、

由美は顔面蒼白になっていた。


「何か悪いこと言った?」


「う、うん。大丈夫だよ……」


「3分経ったので役を決めていきます」


私は罪悪感を感じながらも

学級委員の声に耳を傾けた。


「シンデレラ役が良い人?」


私はすぐに手を挙げたが誰も

私の方を見てなかった。

みんなの目線の先には明里がいた。

明里は成績も優秀で

運動神経も良くみんなの人気者。

それに対して私は……。

多数決の結果、呆気なくシンデレラ役は

明里に決まった。

私は悔しくて仕方が無かった。

帰り道、

由美は私を励まそうと頑張っていたが、

私は元気が出なかった。

沈黙が5分ぐらい続いた。

口を切ったのは由美の方だった。


「あの時はごめんね」


きっと役を決めるときの話だろう。


「何であの時、顔色が悪くなったの?」


「何でもないよ」


「何かがないとあんな風にならないよ」


由美は黙っていた。


「ねえ、私たち友達でしょ?教えてよ」


バシン

突然、由美は私の頬にビンタをした。


「えっ……何で?」


意味が分からなかった。

由美に何があったのか。

そして、由美は泣き崩れた。


「昨日、お母さんが事故に遭って死んだの」


「えっ!?」


私は言葉が出なかった。

由美のお父さんは去年、

癌で亡くなっていた。


「私には2歳の弟がいて、

その面倒を見ないといけない。

もうどうしたらいいの?」


私は何も言い返すことが出来なかった。

トコトコ

どこからか足音が聞こえた。

振り返ると黒い男が現れた。


「大丈夫?」


「誰ですか?」


「私は魔法使いだよ。

君たちの願いを叶えてあげるよ」


魔法使いなんて現実にいるはずがない。


「じゃあ何か証拠を見せてよ」


「仕方ないなー。いくぞ。1.2.3」


その瞬間、歩いている猫が空に浮いた。

私たちは目を丸くして見ていた。

こんなことが出来るなんて……。


「これで分かっだろ。

俺は本物の魔法使いだ。

さあ、願い事をいえ」


「じゃあシンデレラ役になりたい」


「私はお母さんに会いたい」


「分かった。いくよ。1.2.3……」


突然、意識が遠くなっていった。

気がつくと教室にいた。


「3分経ったので役を決めていきます。

シンデレラ役が良い人?」


この言葉に聞き覚えがあった。

私は元気よく手を挙げた。

隣を見ると明里は手を挙げていなかった。

帰りに由美と願い事について話した。


「由美はお母さんに会えたの?」


「会えたよ。嬉しかったなー」


私はずっと由美と行きたかったところがあった。


「明日、海に行かない?」


「突然どうしたの?」


「シンデレラ役になれて嬉しくて」


「私、泳げないけど……」


「大丈夫よ。浮き輪があるから」


次の日、2人は海に行って楽しんだ。

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