さらっと言いよったわ!

ユリちゃんの入院先に、私、母、祖母、伯母(洗脳マイスター)と叔母(ユリちゃんのお母さん)でお見舞いに行くと、ユリちゃんはどこか諦めたような顔で、「いつかこういう日が来るって思ってたんだ。やっぱり遺伝だよね……」と言うのでした。そして「ゴル姉ちゃんも定期的に乳がん検診を受けなきゃだめだよ」と何度も言うのでした。こんな状況だというのに、私の心配をしてくれるユリちゃんに、ゴル姉としては胸がいっぱいになります。自分のことを最優先に考えていいときなのに! ユリちゃん!



私たちが手術の時間や退院予定日のことなどについて話していたら、祖母が唐突に「手術したら、おちちがなくなっちゃうね! おちちがないなんてねえ……」と本人に言ってのけました。私はびっくりして言葉を失いました。ユリちゃんは激怒しました。「これから手術する人間にかける言葉じゃない! ひどい!」とそれはすごい剣幕でしたので、祖母はたじたじになっていました。今まで何を言っても許してくれた優しいユリちゃんがこんなふうに言い返すなんて、祖母からしたら予想外だったことでしょう。人に気を遣って発言するなんてことを、もう何十年も休んできた祖母は、相手の優しさにあぐらをかくような身勝手な会話しかできなくなっていたのです。私たち親戚一同が祖母を甘やかして、あたたかい会話のできない人間にしてしまったのです。

祖母はなぜユリちゃんが怒っているのか、なぜ私が顔をしかめているのか、いつも自分をかばってくれる伯母(長女)がなぜ黙っているのか、何もわからないようでした。


今までの会話方法が通用しなくなって戸惑う祖母に、私が「デリカシーに欠ける言葉なんて聞きたくないっていう気持ち、わかるよね? おばあちゃんだって手術したんでしょう?」と諭そうとしたところ、祖母はきょとんとした顔になり、「え? 私は手術なんてしたことないけど?」とさらっと爆弾発言をしてくれました。



予想外の言葉に、その瞬間、私もユリちゃんも怒りを忘れました。

「は? どういうこと?」

「だって、おばあちゃんは病院に行ってとっても痛い思いをしたとか、おちちが痛いって言ってたよね」

「ああ、その話。そうなの、しこりができたから乳がんの検査をしたんだけど、良性のできものだったのよ。でも、その検査が痛くて痛くて!」


け、検査しただけ~!?


私もユリちゃんも伯母たちも全員が「えええええ~!」と腰を抜かすほど驚きました。だってあんなにおちち、おちちって深刻そうに言ってたのに? ただの検査? それでよく大病を乗り越えました感を出せたよね!


実話をめっちゃ盛るタイプだったんだな、うちの祖母。すっかり騙されてた!


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