悪の組織のバイトが活躍したらダメですか?

くらげさん

悪の組織のバイト


「キーキー!キーキー!」


 俺のバイトは敵に叫びながら向かって行くだけの簡単なお仕事です。


 敵は美少女で、正義の力を持って生まれた魔法少女とか言う脳筋集団。


 俺はバイトですからフィルンダー先輩や人造人間増田先輩のように悪の力とかは貰っていない。


 今日も美少女からキツい蹴りを貰って地面に倒れる。


 これで今日のバイトも終わり。


 今日はダルマジロン先輩が身体を大きくさせる。


 ダルマジロン先輩の身体はデカい、身長が3mあって腕の筋肉は丸太のようにデカい。


 そのダルマジロン先輩が一回りも二回りもデカくなるなんて信じられないが、もう何度も見てきた。


『オラは初めて大きくなるんや!』


『ダルマジロン先輩凄いですね!』


『魔法少女倒したら焼肉でも行こうや』


『フィルンダー先輩みたいに割り勘ですか?』


『いやいや皆んなの分はオラが持つ! 奢りや』


『『『フゥ〜』』』



 魔法少女と戦う前の事を思い出してヨダレが垂れる。


 後ろを見てみるとダルマジロン先輩が悪の波動感じて雄叫びを上げている。


 この隙に俺たちバイト連中は退散する。


 そして見てしまった。


「正義のハートを狙い撃ち」


 美少女が左手を前に指鉄砲を構えて、ダルマジロン先輩が大きくなる前に瞬殺してる所を。


「ダルマジロン先輩ィィイイイイイ!!!」


 正義の魔法少女だからって何しても言い訳じゃない! 礼儀も知らないのか! しかもフル詠唱じゃなくてワンフレーズ!


 俺はバイト連中に連れられながらダルマジロン先輩の名前を叫んでいた。







 キーン・コーン・カーン・コーン。


 俺は高校生で今ホームルーム中だ。


 机に突っ伏して昨日の事を思い出す。


 昨日はダルマジロン先輩の葬儀だった。だけど葬儀中ダルマジロン先輩の顔は見ていない。

 怪人の葬儀には死体がない。怪人は死ぬと、その場で黒い塵になって死体として残らないからだ。


 死因は五つある心臓を一撃で撃ち抜かれたらしい。目をつぶるとダルマジロン先輩の顔が脳裏にチラつく。


『おい、どうしたんや相談乗るぞ』『お前誰にやられたんや! オラが出撃したら仇を取っちゃるけんな』『飯行こうぜ! 勿論オラの奢りや!』


 俺に掛けられた言葉を思い出して今更涙が出る。気前の良い人で俺は密かにアニキとして慕ってた先輩だ。



「私は桜川愛華さくらがわあいか。魔法管理協会の魔法使いです。よろしくお願いいたします」


 聞き覚えのある声に顔を上げると、この前戦った魔法少女がいた。


 髪は黒で大人しい印象を受ける凛とした美少女。胸は無いがスレンダーで、チェックのスカートから覗く脚線美が綺麗だ。


 でも前に戦った時、髪はピンクで、胸も大きかった。魔法少女になると姿が変わるのだろうか?


 そして忘れてはならないのが、この魔法少女がダルマジロン先輩を殺したんだ。



 騒がしいクラスの連中をよそに俺は転校生を歓迎できない。


「外国に住んでいたそうだから、お前らこの国の良さを教えてやってくれ。……はいはい、お前ら美少女が入って来たからって質問攻めにすんな! う〜ん、そこの……誰やったかな」


 先生は俺と出席簿を交互に見ながら、俺の名前を探している。

 二年も俺の担任をしているのに俺の名前を覚えていないのか。


佐藤勇さとうゆう


 俺が先生に呆れている時に、魔法少女の口から俺の名前が出た。


『『『『『は?』』』』』


 そんなキテレツな現象に、クラスの連中と俺の発した言葉がシンクロする。


 なんで魔法少女が俺の名前を知っているんだ? 外国に住んでたんだよな。



「そ、そうだったな」


 先生が誰よりも先にクールタイムから復帰した。


「佐藤の隣を空けているからそこに座るように」


 自己紹介も済み、魔法少女がクラスの視線を集めながらこちらに歩いてくる。頭では混乱しているが、顔は平静を保っている。学校ではボッチを極めすぎて表情筋が死んでて助かったぜ。


「勇くん、久しぶりだね」


 久しぶりだね?


 俺の席の前に着くと、魔法少女から話しかけられた。


 いやいや、こんなラブコメ展開の切っ掛けはどこだ? 人生の記憶を遡っても思い当たる節がない。


 こんな美少女知らない。


「ひ、久しぶり」


「覚えてないの?」


「たしか小さい頃、隣に住んでいた事が……」


「全然違うけど、勇くんとの結婚の約束を叶える為に来たんだよ」


 えっ? ダルマジロン先輩……俺、魔法少女と幸せに暮らすわ!





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