Mocha
双葉鳴🐟
第1話
幼少期から、マナリィは幸せに飢えていた。
彼女は両親からの愛を一切受けずに児童託児所に預けられ、そして託児所を出る頃にはすっかりと夢がお嫁さんになる事に固定されていた。
そうなったのも託児所に寄付をしてくれたとある夫婦の関係性がとても尊いものだったから。
血の繋がりのないマナリィにも優しく接してくれて、本当の子供の様に扱ってくれたのが嬉しくて、そんな大人になりたいと真剣に願っていたのだ。
しかし立派なお嫁さんになりたいという夢はあるものの恋愛関係には疎いマナリィ。
なにせ理想の相手が全く居ないのだ。
本人としては貧乏暮らしには慣れていたので貧乏な生活でも良い、あまり高望みしない人だったらなんでもよかった。
しかし周囲は成り上がってやろうという気概に満ち溢れた者ばかり。マナリィの望むお手頃の相手は居なかったのである。
「はぁ、何処かにいいお相手は居ないかしら?」
「なーに黄昏てんのよ」
一人だけ恋人ができない日々を過ごすマナリィに声をかけてきたのは、同じ服飾店に勤めているレイシャだった。
彼女はこの服飾店の一人娘で、同じ歳なのに随分と大人びて見える。マナリィにとって雲の上の様な存在だった。
「レイシャさん……」
「呼び捨てで良いって。タメでしょ?」
「そうだけど……私はほら、あなたと違って地味だもの」
マナリィは周囲と違ってオシャレに無頓着で、美容には一応気をつけているがキラキラ光ってる周りと比べられると流石に見劣りするのを自覚していた。
「なーにー? そんな風に自分を卑下して。まるでこの世界で一番不幸みたいな顔よ?」
「レイシャさんにはわかりませんよー。私如きの悩みなんて」
「そりゃわかんないわよ。だってあなたとあたしは違う人間だもの」
レイシャは歯に絹を着せない物言いが目立つ。
が、返ってそれが周囲に好印象を与えていた。
勤務先の娘さんという事で敬意は払っていたが、向こうからこうやってマナリィに絡んでくるので応答は自然と不躾になってくる。
そんなやり取りをしていると、不思議とマナリィも悪い気はしなかった。
性格はまるで違うけど、いつしかマナリィの中で彼女の存在はどんどんと大きくなっていった。
友達だなんて言うのは烏滸がましいけど、少しづつ気を許せる存在になっていったのは確かだった。
「実は私、未だに恋をした事がなくてですね」
「あら、あんなに普段からお嫁さんになりたがってたのに?」
「それは最終目標です。でもその前に、恋愛しときたいじゃないですか。人を好きになるってどんな感じなんでしょうか?」
マナリィは意を決してレイシャに尋ねてみた。
普段から恋愛のスペシャリストを気取っているレイシャなら、自分の悩みを解決してくれるものだと信じて疑わぬマナリィ。
しかし、
「難しいわね。あたし普段からそんなこと考えずに生きてるから」
思っていた返答は返ってこなかった。
そもそも考え方が違いすぎてマナリィには理解できない野生的な部分で動いている。
「そうなんですか?」
「そうよ。運命を感じる時は頭にビビッとくるの。後はその直感を信じて突き進むのよ」
「へぇ」
「あ、信じてないわね?」
「だって実感湧かないですし」
「この、あんたにはこうしてやるわ!」
「きゃー、やめてください!」
突然遅いくるくすぐり攻撃に身悶えしながら必死に抵抗する。
着衣は乱れて息も絶え絶え。
第三者に見られたらよからぬ噂でも立てられていたかもしれない。
そんな時間を共有して、いつしか二人が親友と呼び合えるのは時間の問題だった。
片や服飾店のオーナーの娘でモデルも務めるレイシャ。
そんな彼女と見比べれば地味でまるで目立たないマナリィは対極の存在であった。
それでも、どこか気が合った。
「レイシャさん」
「なに?」
「私にオシャレを教えてくれませんか?」
「良いわよ」
マナリィは新しくできた友達を糧に、自らを変える努力から始めた。
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