【Session16】2015年10月31日(Sat)ハロウィン
学は午前中のカウンセリングを終え、カウンセリングルームのテレビをつけると、ハロウィンに関するニュースが流れて来た。日本各地でハロウィンに因んだイベントが繰り広げられており、仮装した若者達がしきりにテレビ中継のカメラに向かってパフォーマンスを披露しているのだ。
学が幼かった頃はハロウィンなんて聞いたことも無かったが、今では日本の一大イベントとなっている。学は振り返ってみた。「そもそもハロウィンって『秋の収穫祭』でアメリカから入って来た行事だけど、その歴史とか皆んな知ってるのかなぁ?」学はどちらかと言うとハロウィンのイベントより、ハロウィンの歴史的背景とかそっちの方が気になるタイプである。おそらく学は他のひととちょっと違った変わり者なのかも知れない。
そして何故、「仮装」するのだろう? 何故「トリック・オア・トリート」って言うんだろう?と、真剣に考え調べてしまうタイプであった。そんなことを考えているものだから、何時もロダンの『考える人』状態であるのだ。そしてあっという間に時間が過ぎ、じゅん子ママのお店に出張カウンセリングに出掛ける時間になってしまったのだ。
学は急いで出掛ける準備をして新宿駅に向かった。その途中、街では仮装した若者達が列をなして横断歩道で待っているのを観ることが出来た。その若いひと達を尻目に、学はじゅん子ママの待つ銀座へと向かったのだ。電車の中でも「バットマン」や「天使」に仮装した男女が楽しそうに話しているのを学は観たのだった。そして途中の駅で、見た目が三十歳ぐらいの女性がセーラー服を着て乗り込んで来たので学は目のやり場に困った。それは「ルーズソックス」に「ミニスカート」だったからだ。
何もそこまで気合入れなくても…と、学は思ったのだが、一年に一度の彼女の楽しみを僕があれこれ言う立場ではないので、この場は観て見ない振りをしておこうとこころに決めたのだ。彼女の青春時代を奪う権利は僕には無いのだから…。そしてじゅん子ママのお店へと学は入って行った。すると何やら突然…。
若いホステス達:「トリック・オア・トリート。プレゼントくれないとイタズラしちゃうぞぉ♡」
倉田学:「えぇー、僕なにも用意して来てないんだけど…」
若いホステス達:「倉田さん、今日はプレゼント持ってくる日なんですよー」
倉田学:「いや、そんなこと言われても…。聴いて無かったから…」
若いホステス達:「なぁーんだぁ、ざんねん」
倉田学:「いや、ほんと聴いてなかったから。ごめんなさい」
じゅん子ママ:「あら倉田さん、いらっしゃい。それと、あなたたち。倉田さんからプレゼント貰おうなんて駄目よ」
若いホステス達:「はーい」
倉田学:「じゅん子さん、ありがとう御座います」
じゅん子ママ:「で、倉田さん。わたしにプレゼントは?」
倉田学:「えぇー、じゅん子さんまで」
じゅん子ママ:「冗談よ。でも、倉田さんのプレゼントって気になる」
倉田学:「僕のプレゼントですか。うーん、招き猫」
じゅん子ママ:「倉田さん、おもしろーい。でも、今の子にそれ駄目よ」
倉田学:「ですよね」
じゅん子ママ:「でも、わたしは大歓迎よ。このお店が繁盛するんですもの」
倉田学:「僕の招き猫で、繁盛しますかねぇ」
じゅん子ママ:「倉田さんのだったら間違いなし」
倉田学:「本当ですかぁ?」
じゅん子ママ:「本当よぉー。あなたみたいなひと、まずいないから」
そんなやり取りをしながら二人は個室に入り、何時ものようにカウンセリングが始まったのだ。そして、じゅん子ママのこころの闇に深く入って行ったのであった。学は彼女のこころの叫びを全て出させ、そしてその自分に対して「いたわり」「ねぎらい」といった受容の心理療法を試みて行くことにより、過去の苦しい体験から解放されて行く彼女の姿を観ることが出来た。
こうしてこの日のカウンセリングを終えたのだった。そして次回のカウンセリングを11月15日(日)の19時からで予約し、学はじゅん子ママのお店を後にしたのである。街では夜遅くまで仮装した若者たちでごった返し、学はそのひと達を尻目に新宿にある自分のカウンセリングルームへと向かったのだ。案の定、その夜の渋谷のスクランブル交差点では、お店から溢れかえった若者達が大挙をなし、「DJポリス」が仮装した若者達に呼び掛けていた。
DJポリス:「帰るまでが遠足です。僕は君たちの先生ではありません。金八先生だったらこう言うでしょう。僕は悪いことはしましぇーん。そして僕も怒りましぇーん」
このニュースを観ていた学は、こう呟いたのだ。
倉田学:「マッチ1本火事のもと。あなたが捨てたらゴミのもと。清く正しく美しく。そして優しさと切なさはお持ち帰りください」
しかし翌日、学の予想通り渋谷の街は、ゴミで溢れかえっていたのであった。
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