第4話 侍女のお仕事


 ヴィル様のご命令どおり、私は自室まで持ってきて貰った具沢山のスープと柔らかいパンを食べて、それからゆっくりと眠った。


 ヴィル様の優しさが嬉しかった。だけど、こんな忙しい日に何もせずに寝てるだけなのが申し訳なかった。


 翌朝は早く起きて、部屋を片付け身支度を整え、誰よりも早くに仕事に取り掛かった。


 朝食作りの手伝いをしようと料理場に行って、そこに用意されてあった食材の下ごしらえをしていく。野菜の皮を剥き、湯を沸かし、その間に食材を切っていく。

 いつもよりも人数が多いから手間が掛かる。昨日は何も手伝えなかった。だから今日はお役に立たないと!


 そうこうしているうちに料理人達がやって来た。



「おや、もういいのかい?」


「うん! 昨日は何も出来なくてごめんなさい!」


「仕方ないさ。顔を打ったのか? ひどい状態だな」


「もう! 顔は無傷! これは地顔だよ!」


「ハハハ、そうか! それだけ元気がありゃ、もう大丈夫だな!」



 こんな感じでも、心配してくれてたんだなって思うと胸が暖かくなる。

 蒸した芋を潰しておいたり、食器を並べたり、出た洗い物をすぐに洗ったりして手伝って、ある程度仕上がったら次は食堂へ。


 テーブルクロスを整えて、食器の用意とスプーンとナイフとフォークの準備をして、フィンガーボウルとナフキンも置いていく。

 ジュースを数種類と、お茶の用意も万全に。あ、パンが焼けた匂いがしてきた。

 

 良い匂い……思わず大きく息を吸い込む。お腹が空いてきた。でも私たちの食事は皆が食べ終わってから。

 と思ってたら、料理長が私を手招きで呼ぶ。味見と称して、パンとジュースを渡してくれた。こんな所が嬉しい。ここにいる皆は本当に優しい。


 パンとジュースを掻き込んで、お礼を言ってすぐにまた仕事に戻る。暫くするとヴィル様が食堂にやって来た。私を見て少し驚いたように目を2ミリ程見開いて、それから席に着かれた。



「もう働いているのか?」


「ヴィル様のご命令どおり、昨日はゆっくりさせて頂いてましたよ。ですが今日も、とは言われませんでしたので」


「元気になったのなら良いのだが……」


「ありがとうございます。ヴィル様、大好きです」


「…………」


「ずっとずっと大好きですからね!」



 相変わらずの私を見て、目尻を3ミリ落としたヴィル様。あぁ、やっぱり好き! 一番好き! 本当に大好き! もう一生尽くしちゃいます!


 少しして、ゾロゾロと大人数を引き連れて、ご令嬢ご一行様がやって来た。

 昨日はどうだったんだろう? 晩餐は滞りなくいったのかな。ヴィル様は社交的ではないからなぁ。ちゃんと話はできたのかな。


 ヴィル様の近くに腰を掛けたご令嬢は、やっぱり朝から凄く綺麗だった。ヘアメイクもバッチリ、装いも朝に似合う質素に見えて高級感漂う生地をふんだんに使ったドレスを身に纏っていた。

 見るだけでも凄いわー。キラキラ光る髪色が朝から鮮やかに目に刺さります! いやー、眼福眼福!


 端に控えてご令嬢の様子を見ていると、私とはバッチリ目が合った。私がニッコリ微笑むと、一瞬眉間にシワが寄った。あれ? 私、何か悪いことしちゃったかな?


 ヘレンさんと私で給仕を。ここは人が少ないから一人何役にもなるのですよ。


 サラダにスープ、焼いた厚切りベーコンにオムレット。キノコと山菜のバター炒めを添えて。うちにしちゃ、このメニューは贅沢なのよ? 料理長が朝から張り切ってたんだから。

 

 私は焼きたてのパンが入ったカゴを持って、一人一人に配膳していく。今日は三種類のパンがある。いつもはこんなに朝から贅沢しないよ? 辺境伯様は慎ましやかにしてらっしゃるんだからね。


 でもご令嬢は少し食べただけで、すぐに食事をやめてしまわれた。朝はあまり食べない派なのかな?


 お茶を入れさせて頂いて、旬のフルーツをお出しする。ヨーグルトもあるし、ゼリーもあるのよ? ちょっとくらいは召し上がって頂きたいのにな。

 だけどそれらにも手を付けてくださらない。美味しいんだけどなぁ。


 食事中、ヴィル様はいつも静かだ。それは傍にご令嬢がいても変わらなかった。ご令嬢はヴィル様に微笑みながら話しかけていたけれど、ヴィル様の答えは

「あぁ」

とか、

「そうか」

とか、そんな相づちだけで、そこから話が膨らむ事はないままだった。

 見ているこっちがハラハラしちゃう。もっと気の良い返事は出来ないのかな。する気はないんだろうなぁ。


 そして、相変わらずの無表情。話しかけられてもそちらを向くこともなく、目だけを動かして確認しているだけ。あぁ、お嬢様のご機嫌が悪くなっちゃいそうで、こっちがドキドキしちゃいますよ、ヴィル様ー!


 昨夜の晩餐もそうだったのかも知れない。ヴィル様が楽しそうにご令嬢と話をしているのなんて、想像しようとしても出来ない。

 

 素敵なご縁であれば、ヴィル様はご令嬢を奥様として迎える事になるんじゃないかって思ってたんだけど、これは幸先が危ういなぁ。

 でも、どこかでホッとしている自分がいる。誰のモノにもなって欲しくないって気持ちも何処かにあって、それじゃヴィル様の幸せを願えてないじゃん! って思ったりもして。


 皆の朝食が終わって、私たちも食事を済ませてから片付けをして、すぐに洗濯、掃除に取り掛かる。

 あぁ、忙しい。だけどヴィル様とご令嬢の事が気になっちゃう。


 因みにご令嬢は、エヴェリーナ・ウルキアガ様と言う名前らしい。とてもお貴族様らしいお名前だと思った。私はただのサラサ。孤児で平民のサラサ。覚えやすいでしょ!


 バタバタと働いて昼食も慌ただしく終わり、休憩しようと自室に戻ってきた。

 あぁ、疲れた! と思ってベッドに突っ伏すと、まだ頭がなんかクラクラしちゃう。まぁ、昨日の今日だしね。そのうち治るよ。だからちょっとだけ眠ろう。


 

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