アリスのハート II

ゼロside


ヤオから放たれるオーラは怖かった。


こんな怖いオーラを人は放てるのかと思った。


ボクが見て来たヤオと全然…、違う。


「何にもされてないな?」


ヤオはそう言ってボクの方を振り返り呟いた。


あ、いつものヤオに戻った。


「ヤオが来てくれたから平気だ。助かった。」


「ジャック!!テメェ、何やられてんだ!!ちゃんとゼロを守れって言っただろーが!?あ!?」


少しキレ気味にヤオはジャックに向かって叫んだ。


ドゴォォォーン!!


ジャックは思いっきり螺旋階段にぶつかった後、すぐに起き上がった。


「い、今のは不意打ちだろ!?」


「不意打ちを喰らわねーようにしとけよ馬鹿。ほら、さっさと戻って来い。」


ヤオはそう言って、指をクイッと動かした。


すると、ジャックの体が浮き上がりボクとヤオのいる方向に向かって飛んで来た。


「うわっ!?」


ドゴォォォーン!!


ジャックは凄い勢いのまま怪物に突撃した。


「ゴォォォォォォォ!!」


怪物はジャックがぶつかった衝撃で大きく揺れた。


ドゴォォォーン!!


「うわっ!」


「よっと。」


ヤオが素早くボクの腰を抱き空中に浮いた。


結果的にジャックだけが怪物にぶつかった状態になった。


「テメェ…。俺を駒扱いすんのやめろよな!?」


「怪物を倒すくらいの威力で飛んで来い。それぐらい役に立てよ。」


「うるせぇ…なっ!!」


ジャックはそう言って、両手を広げてから怪物の体に触れた。


すると、怪物の体が炎で包まれた。


「ギャァァァァァ!!!あづい、あづぃぃぅ!!!」


「おーお、燃えてる燃えてる。」


ヤオは呑気に怪物が燃えている姿を見ている。


だが、怪物の体は燃えていても肝心のハートは傷一つ付いていない。


むしろ、ハートの部分だけ固くガードされている状態だった。


「ハートの部分だけに守りを強化させてんのか。」


「だろうな。ゼロ、悪いがジャックの方に投げ飛ばす。ジャック!!ゼロを受け止めろよ。」


「えっ?ちょ、ちょ!?」


ボクの理解が追いつかないまま、ヤオはボクの体を軽く後ろに押した。


ビュンッ!!


軽くて押されただけなのに、威力は凄かった。


凄い勢いでジャックの方に飛ばされて行く。


どんな力でボクの事を押したのだろうか。


「人使い荒れーな!!」


ジャックはボクの体を後ろから抱き締めながら、螺

旋階段に突っ込んだ。


ドゴォォォーン!!!


「だ、大丈夫か?ジャック。」


「大丈夫だ。むしろ体は全然、痛くない。どうなってんだ?」


ジャックの後ろを見ると、ジャックの後ろに魔法陣が描かれていた。


「魔法陣?」


「ヤオって野郎が描いた魔法陣か。どうりで体に痛みがない筈だ。」


この魔法陣のおかげでジャックの体に傷が付かなか

ったのか。


ヤオに視線を向けると、ミハイルがヤオに向かって飛んで来ていた。


ミハイルが飛んで来るのが分かったヤオはジャックのいる方向にボクを飛ばしたのか…。


「捕縛。」


ヤオがそう言うと、ミハイルの周りに幾つかの魔法陣が現れた。


ジャラッ。


魔法陣の中から鎖が現れミハイルの体に巻き付いた。


ガチャンッ!!


「っ!?な、んだよこれ。」


「何って鎖に決まってんだろ。お前、弱いのに俺に突っ込んで来た事は褒めてやるよ。」


ヤオの素早い行動に驚いた。


いつの間にミハイルの周りに魔法陣を張ったのか分からなかった。


キンキンキンッ!!


何本かのナイフがアリスのハートを守っているバリアを壊そうとしていた。


帽子屋のナイフ…か?


そう思ったボクは帽子屋の姿を探した。


「ッチ、このバリア頑丈だな。」


帽子屋は舌打ちをしながら再びナイフを投げ始めた。


「そりゃ…、そうでしょ?あのハートを壊されたくないんだから。」


インディバーは溜め息を吐きながら銃弾を撃ち込む。


「あのバリアをどうにかしない限りはどうしようもねーな。」


ジャックはハートを守っているバリアを見ながら呟いた。


あのバリアをどうすれば良いのだろうか…。


きっと、普通の銃弾やナイフじゃ駄目なような気もする。


あのバリアを張っている人物はアリスかミハイルだろう。


2人のうちどちらかを戦闘不能にすればバリアは解ける仕組み…か?


「ミハイルの奴、全然ヤオって野郎に手も足も出ない状態だな。」


ジャックの言葉を聞きながらミハイルに視線を向けた。


ミハイルはヤオの出した鎖に巻かれたままだった。


暴れている様子もないし、どうしたんだ?




ゼロの考えは当たっていた。


ゼロとNight mareは同じ事を考えており、Night mareは、アリスのハートを守っているバリアを張っている人物がミハイルだと断定していた。


ミハイルは全ての力をバリアに注ぎ込んでいた。


既にミハイルの体は限界を超えており、Night mareと戦う力が残っていなかった。


「さっきまでの威勢はどうしたんだ?戦う気がないのならこっちは助かるけど。」


「うるせぇ…。そう言ってられるのも今のうちだ。」


ミハイルがそう言うと、ゼロの周りに黒い魔法陣が現れた。




ゼロとジャックの周りに黒い魔法陣が現れた。


「な、何だ?」


魔法陣を見たジャックは、咄嗟にゼロを庇うような形でゼロの体に覆い被さった。


「ジャ、ジャック?」


黒い魔法陣の中から黒い槍が現れた。


「何で、槍が…。もしかして、ミハイルの仕業か?」


「ミハイルの奴が大人しくやられる訳がねぇ。黒魔術で何か仕掛けて来ると思ったが…、この状況はヤバイな。」


ジャックは焦りの混じった声で呟いた。


その声を聞いたゼロは、今の状態がヤバイと言う事を悟った。


「つまり、ボク達は蜂の巣になる状態…か。」


「もし、槍が飛んで来たら俺が庇う。」


「っ!?そ、そんな、事をしたらジャックが死んでしまうだろ!?」


ゼロは慌ててジャックの腕の中から抜けようとした。


だが、ジャックはゼロを出そうとはしなかった。


さっきよりも力を入れ直した。


「俺はゼロを死なせたくねぇ。それに、俺はそう簡単に死ぬ男じゃねーよ。」


「ボクは…、ジャックに死んで欲しくない。」


ゼロは少し弱々しい声でジャックの服を掴んだ。





「ゼロッ!!!」


ゼロの姿を見つけたNight mareは手を広げようとし

たが、Night mareの腕に黒い鎖が巻き付けられていた。


ミハイルはNight mareとゼロの周りに魔法陣を張っていたのだった。


ミハイルはNight mareがゼロを攻撃しようとすれば、必ず助けに行くと読んでいた。


「俺を殺そうとするとゼロちゃんに槍が飛ぶよ?」


「この野郎…、やり方まで腐ってやがる。」


「なんとでも言いなよ。汚いやり方でも使える手があるならなんだってする。」


ミハイルの言葉を聞いたNight mareは睨み付けながら口を開けた。


「そんなにあの女が好きか。報われない想いを背負ってまだ、抗うのか。」


「あぁ、そうだよ!?俺は死ぬまでアリスの犬さ!!俺にだって意地になる時があるんだよ!?それが今だよ。今度こそ邪魔な奴等を消してやる。世界を作り替えて初めに戻す。」


ミハイルを動かす根源はアリスへの想いだけだった。


既にミハイルの体は黒魔術の代償で犯されている。


そんな状態の中で黒魔術を使用しているミハイルはいつ死んでもおかしくない状態だ。


Night mareはこの状況をどう打破しようかと頭をフル回転させていた。


「止まれ!!!」


ロイドの大きな声が響き渡った。


Night mareとジャック達は驚きながらロイドのいる方向を見つめた。


時計を持ったロイドの周りには沢山の時計が浮いていた。


チッチッチッチッチッチ…。


ロイドのTrick Cardの能力で一時的にミハイルの動きを止めていた。


「早くその場所から離れろ!!ミハイルの動きを止めるのも限界がある!!」


その言葉を聞いたNight mareとジャックは、すぐに動いた。


「ロイドのTrick Cardの能力で助かったな。ミハイルの奴から距離を取るぞゼロ。」


「…了解。」


ジャックとゼロはミハイルから少し離れた螺旋階段に移動した。


Night mareもミハイルから離れゼロとジャックがい

る螺旋階段に着地した。




ゼロside


「ゼロ!!大丈夫だったか!?」


ヤオは慌てながらボクに近寄って来た。


「ジャックが庇ってくれたから平気だ。」


「そうか…。ごめんな、すぐ助けに行けなくて…。」


「ヤオが悪い訳じゃないだろ。あの状態なら動けなくて当然だ。」


「俺の事は心配しないの?一応。」


ボクとヤオが話しているとジャックが会話に混ざって来た。


「別に。」


「お前…。ゼロにだけかよ、過保護なのは。」


「当たり前だ。ゼロを守る騎士にぐらいなれ。」


「言い方が腹立つなー。」


ジャックとヤオが言い合いをしている。


案外この2人は仲良くなれるのかもしれないな…。


性格も似てる所もあるし。


「あのバリアどうにか出来ないのNight mareさんよ。」


ジャックは不貞腐れながらヤオに尋ねた。


「俺達がどれだけ攻撃をしても壊れる様子がない。もしかしたら、ゼロの攻撃だけは通るのかもしれない。」


「ボクの攻撃だけ…って?どう言う事だ?」


「ゼロとアリスの関係性は俺達よりも深い。アリスのハートを壊せるのはゼロしかいないと思う。だから、俺達はあのバリアすら壊せない。」


「ミハイルが動き出すぞ!!!も、もう俺の能力が解かれる!!」


ヤオと話しているとロイドの慌てている声が聞こえて来た。


ロイドの周りにある時計達にヒビが入っていた。


ヤオの話を聞いて納得がいった。


やっぱりアリスを殺せるのはボクしかいないようだな…。


この世界を終わらせられるのはボクだけだ。


そう思ったボクは銃を構えた。


ヤオとジャックはボクの姿を見てから、ボクの前に立った。


「やる事は分かってんだろうな騎士様。」


「あ?アンタに言われなくても分かってんだよ。」


2人が話していると、時計が割れる音がした。


パリーンッ!!!


「割れたぞ!!」


ロイドの声と共にミハイルがボク達の方に向かって飛んで来ようとしていた。


「ゼロ!!俺とNight mareで援護する。」


「ミハイルから隙を作る。隙が出来たら何発かバリアに向けて銃を撃ってくれ。」


ジャックとヤオの協力を無駄にする訳にはいかない。

「了解。」


ボクは銃を構え直し、燃え盛る怪物の方に繋がる螺

旋階段に足を向けた。




タタタタタタタッ!!!


螺旋階段を登り出したゼロに続いてNight mareとジャックも走り出した。


「行かせてたまるかよ!!!」


ミハイルが叫びながら手を広げた。


黒い魔法陣が現れ、魔法陣の中から黒い短剣が何本

も現れゼロがいる方向に飛ばされた。


「おい騎士様!!これを使って短剣を弾ち飛ばせ!!」


Night mareはそう言って、腰に下げていた剣をジャックに投げ渡した。


ジャックは渡された剣を抜き、ゼロに向かって飛ばされた短剣を素早く弾聞いて飛ばした。


キンキンキンッ!!


「ッチ!!ジャック…っ!!」


「ゼロの邪魔はさせねーよ。」


「アリスに近寄らせてたまるか!!」


ミハイルは黒い魔法陣の中から剣を取り出しゼロに

向かって振り翳した。


キンッ!!


ミハイルが振り翳した剣はゼロに当たる寸前で動きが止まった。


ゼロの体に触れさせないようにNight mareが魔法陣を張っていた。


そのままNight mareはミハイルに向けて光の球を何個か投げ飛ばした。


ビュンビュンッ!!


飛ばされた光の球を弾こうとミハイルは黒い魔法陣を張りバリアを作った。


ゼロは足を止める事なく走り続ける。


タタタタタタタッ!!!


ミハイルは螺旋階段に向かって黒い刃を飛ばした。


「あの野郎、階段を壊す気か!?」


ジャックがそう呟いた後、飛ばされた黒い刃は螺旋階段に当たった。


ドゴォォォーン!!


ゼロの後ろの階段が音を立てながら破壊して行く。


Night mareはジャックの手を掴み宙に浮いた。


音に驚いたゼロは走りながら後ろに視線を向けた。


「か、階段が破壊されてる?!」


「そのまま走れゼロ!!アリスのハートはすぐそこだ!!」


ジャックはゼロに向かって大きな声で叫んだ。


ゼロとアリスのハートまでの距離はかなり縮まっていた。


その事を確認したゼロはハートに向かって銃口を向けた。


「させるか!!」


ミハイルは慌ててゼロの動きを止めようと手を広げた。


「止めて来い騎士様!!」


Night mareはそう言ってジャックをミハイルのいる方角に投げ飛ばした。


「人使い荒れーな!!」


飛ばされたながらもジャックは剣を構えミハイルに振り翳した。


ミハイルは慌てて剣を魔法陣のバリアで受け止めた。


キィィィン!!


「邪魔をするなジャック!!」


「それはこっちの台詞だミハイル!!」


ゼロとハートの距離を見たNight mareはゼロに向かって叫んだ。


「今だ!!」


Night mareの言葉を聞いたゼロは素早く弾き金を引いた。


「やめろぉぉぉおおおおお!!」


パァァァァン!!


ミハイルの叫び声と銃弾の放たれた音が重なった。

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