黒魔術と鏡 I

ミハイルはひたらすら廊下を真っ直ぐ歩いている。


一体、どこに向かってるんだ?


「どこに向かってんのかねー。」


そう言いながらヤオは軽く頭を掻いた。


「さぁな。」


「この教会って意外に広いんだなー。外装が古いから小さいのかなって。」


「教会ってそんな感じだろ?」


「いやいや…。ゼロの捉え方が大雑把過ぎるだろ…。」


ピタッ。


ヤオと話しながら歩いているとミハイルが1つの扉の前で止まった。


何だ…、この部屋。


キィィィ…。


ミハイルはゆっくりドアの部に手を伸ばし扉を開けた。


ボクとヤオもミハイルに続いて部屋の中に入った。


部屋の中を見渡すと高級品の家具やら宝石やらが部屋中に置かれていた。


「おい、この部屋にある物はなんだ…?この酒もかなりの高級品だ。」


そう言ってヤオは近くのテーブルに置いてあったウィスキーを手に取った。


この部屋…って確か…。


「この部屋は…、物置きだぞ。」


「物置き…?これはガラクタレベルの品じゃねーぞ。」


「シスター達にこの部屋は物置きだから近付くなって言われた事があってな?多分そうだ。」


ミハイルはこの物置き部屋に何の用事で来たんだ?


「へぇ…、ゼロの育った教会って案外儲かってたんだな。」


「嫌な言い方をするなお前。」


「う…。そんなゴミを見るような目で見るなよ…。あ、ほ、ほら!!ミハイルが鏡の前にいるぞ。」


ヤオはそう言ってミハイルがいる方向を見つめた。


話を変えやがったなコイツ。


そう思いながらボクもミハイルがいる方向を見つめた、


大きな鏡の前にミハイルが立っていた。


あの鏡…って。


潜入したロシアの屋敷にあった鏡と瓜二つだ。


ただ、単に似ているだけ…なのか?


それとも本当に同じ物なのか?


「おい、ゼロ。あの鏡ってロシアの屋敷にあった鏡だよな。」


どうやらヤオもあの鏡の事を覚えていたようだ。


「あぁ、見た目は瓜二つだ。」


「だとしたら異世界にあった鏡がこっちの世界にもあった…と言う事なのか?」


そんな事を話しているとミハイルが鏡に触れた。


すると、鏡が光を放ち出した。


「何だ!?鏡が光出したぞ。」


「お、おいゼロ…。鏡を見てみ?」


驚いているボクの肩を叩いたヤオは鏡を指さした。


鏡に視線を向けると小さい頃のボクとそっくりな女の子が現れた。


「ミハイル!!遅かったじゃない!!」


「ごめんねアリス。祈りの時間が長くなっちゃったんだ…。」


アリス!?


あの鏡に写っている女の子はアリスなのか!?


それに、アリスがいる部屋はあの屋敷の鏡が置かれていた部屋だ!!


嘘だろ?


じゃあ…、アリスはあの屋敷の子供だったのか?


だけど、写っているアリスの姿はボロボロだった。


使用人が着ている服を着ているし…。


ミハイルがアリスに向かって手を振りながら口を開けた。


「アリスこそお仕事は?もう終わったの?」


「まだお洗濯が残ってるけど抜け出して来ちゃった。あたしの安らぎはこうやってミハイルと話す時だよ。」


アリスがそう言うとミハイルの顔が真っ赤になった。

「なぁ…。アリスってあの屋敷の子供じゃなくて召使いだったって事か?」


「だろうな…。ロシアでよくある話だろ?ヤオだって耳にした事くらいあるだろ?」


「まぁ…な。あんまり良い話ではないな。」


「あたしはいつになったら自由になれるのかな。」


ボクとヤオが話しているとアリスが泣きそうな声で話出した。


「アリス…、泣かないで。」


「ミハイルの所に行きたいよ…。いつもミハイルといるあの子が羨ましいよ。」


「…。僕がアリスを幸せにするよ。」


そう言ってミハイルは鏡に手を伸ばした。


「本当に?」


「あぁ。アリスはお姫様になるべきなんだ。」


「ミハイル…。約束だよミハイル。あたしの事をお姫様にしてね。」


アリスはそう言うと、物置き部屋から昼下がりの図書館に場所が変わった。


「今度は図書館か?」


ヤオはそう言って周りを見渡した。


タタタタッ!!


沢山の本を持ったミハイルが図書館の中を走っていた。


「ミハイルはアリスの為に何かを調べているようだな。」


「おいおい。コイツ黒魔術の本を探してるみたいだぞ。」


「黒…魔術?」


「ほら、アイツ席に座ったから近くに寄って見てみろよ。」


ヤオに促されながらボクはミハイルの座っている席に向かった。


ミハイルの後ろから山積みになっている本を1冊手に取った。


本のタイトルには"黒魔術"と書かれていた。


「この世界にも黒魔術と言う物が存在するんだな。」


「まぁ…、この世界では魔法が使える訳だし。だけどな黒魔術を使うって事はこの世界の掟を破る事になるんだ。」


「この世界の掟?」


「説明が少し長くなるが聞いてくれ。何故、TrickCardが出来たかと言うとな?この世界が魔力を抑えられなくなった事で1枚ずつタロットカードに魔力を閉じ込めたんだ。」


「タロットカードに…。Night'sは世界の掟?とやらに従ってTrick Cardを作った…と言う事だろうか?」


「正解だ。だがな?魔法って言うのも色々あるんだよ。怪我を治す治癒魔法、人を呪い殺す黒魔術と言ったようにな。黒魔術を使った者は体に黒い棘のタ

トゥーが代償として体に刻まれるんだ。」


「その黒い棘のタトゥーと言うのはCAT達が言っていたような事…なのか?」


ボクがそう言うとヤオは軽く頷いた。


「黒魔術を使うとな正されていた世界の流れに亀裂が入ってしまうんだ。その亀裂は黒魔術を使った者の体にも入る。」


「あった!!」


ヤオの説明を聞いているとミハイルが大きな声を出した。


「「っ!?」」


ボクとヤオは慌ててミハイルの背後から本を覗き込んだ。


そこに書かれていたのは"異世界へと続く扉の開け方"と書かれていた。


異世界へ続く扉…?


「やっと見つけた…。この方法ならアリスを救える!!」


ミハイルはホッとした表情を浮かべた。


「ま、まさかだと思うが…。ミハイルが異世界の扉をこじ開けた張本人と言うのかヤオ。」


「あぁ、間違いない。アリスをこちらの世界に呼んだのはミハイルだ。」


「じゃあ、アリスの隣にいつもいる仮面の男はミハイル…と言う事で間違いはないな。」


ミハイルは初めからアリス側の人間だったと言う事か。


「満月の夜までに沢山の血を集めないと…。人の血が沢山必要だ。」


人の血?


ブゥオオオオオ!!


いきなり図書館に暴風が吹いた。


そして、図書館から路地裏に変わった。


ザァァァァァァァ!!


鼠色の空から沢山の雨が降り注いでいた。


「今度は外かよ…。俺達の体は濡れないみたいだな。」


ヤオはそう言って空を見上げた。


「やめてぇぇえ!!」


「「っ!?」」


突然聞こえて来た女の悲鳴にボクとヤオは驚いた。


「悲鳴?」


「悲鳴のした方に向かってみようぜ。」


「あぁ。」


ボクとヤオは悲鳴がした方に向かった。


タタタタタタタッ!!


路地裏の奥に入ったボクとヤオの視界に映ったのは、少し大きくなった血塗れのミハイルだった。


ミハイルの手にはナイフが握られていて、足元には女の死体が転がっていた。


少し成長したミハイルはアリスの為に人を殺し血を集めていた。

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