夢の男

その頃、操られたジャックはアリスと育った教会に連れて来ていた。


数年前に廃棄になった教会をEdenのアジトにしていた。


沢山のお墓は鴉の黒い羽が教会の外を彩った。


教会の中には大きなステンドガラスがあった。


ステンドガラスにはマリア様と小さな天使の絵が描かれていた。


火傷だらけのジャックをアリスの部屋に運び、アリスが手当を施した。


ロイドが用意してくれた部屋より少し狭く、アリスはほんのりレモンの香りがするアロマに火を付けて焚いた。


アリスは眠っているジャックの髪を触っていた。


「やっと。あたしの元に戻って来てくれたねジャック。」


「アリス。」


閉ざされた扉の向こう側から仮面をした男がアリスの名前を呼んだ。


アリスは扉に近付き扉を開けた。


仮面の男はアリスが部屋から出て来た事を確認してから仮面を外した。


「このレモンの香りは?」


仮面の男が匂いを嗅ぎ、アリスに尋ねた。


「あぁ。コレは洗脳魔法を強くするお香だよ。ジャックに匂いを嗅がせて洗脳魔法を解け難くするの。」


洗脳魔法。


コレがアリスのTrick Cardの能力。


"Drainwashing(ブレェイヌワァッシュ)"


アリスは自分の声で相手を洗脳出来る洗脳魔法が能力である。


この世界にも麻薬のように香りを嗅いぐタイプの物がある。


ジャックにかがせているお香もDragのgrapeと同じ成分が入っている。


アリスはそう言って部屋に戻ろうとした時、仮面の男がアリスの手を引き後ろから抱き締めた。


「ー。誰かに見られたらどうするの?」


「今は2人だけださら良いだろ。」


そう言って仮面の男は腕に少しだけ力を入れた。


アリスは仮面の男の腕にホッと触れた。


「俺にはお前だけなんだよアリス。心はジャックの

モノでも体は俺のモノだろ?」


「…。本当のあたしを知ってるのは貴方だけ。あた

しの計画に知恵を入れ協力してくれたのも…、ーだけ。」


アリスと仮面の男はお互いを抱き締めながら、お互いの存在価値を確かめ合っていた。


壊れた教会の中に1人だけ本当のアリスを抱き締めたのは仮面の男だけだった。



ゼロside


ボクの目の前には真っ白な部屋が広がっている。


真っ白な部屋には沢山の鏡が浮いていた。


「ここはどこなんだ…?」


ボクは部屋の中を歩き回った。


この鏡はなんだろう…。


鏡を覗いて見ると、赤い眼の男の子と青い眼の女の子が映し出されていた。


映し出された男の子と女の子は教会の周りで子供達と遊んでいる映像が映った。


孤児が集まる教会か。


教会の中からシスターが出て来たのを見て確信した。


この男の子はジャックだと。


やっぱりこの目付きの悪い男の子はジャックだ。


そして隣にいる女の子は…アリス?


アリスとジャックは手を繋いで教会の周りにある草原を走っていた。


これはアリスとジャックの思い出?


ボクは教会にいた時の記憶が曖昧で、覚えているのは絵本をずっと、誰かと読んでいた事だけ。


ズキンッ!!


頭に痛みが走った。


鏡に映し出される映像を見ていると頭が痛くなる。


なんだ…コレ。


頭が…痛い。


頭を押さえながらしゃがみ込んだ。


パリーンッ!!


見ていた鏡が割れた。


そして、近くに浮いていた鏡がボクに近付いて来た。


ボクは頭を押さえながら鏡の中を覗いた。


映し出されたのは教会の中でアリスとジャックが絵本を読んでいた。


2人は仲良さそうに1つの絵本を読んでいた。


「あ、あの…絵本は…。」


絵本のタイトル…。


"Alice"と書かれていた。


あれだけは覚えている。


あの絵本…。


あの絵本はボクが教会にいた時にずっと読んでいた絵本だ。


あれだけは覚えている。


そうだ…。


ボクは1人だけ仲の良い子がいたんだ…。


ズキンッ、ズキンッ!!


再び頭に鋭い痛みが走った。


どうして、この映像を見ているだけで頭が痛くなる?


それに教会で過ごした日々を少しずつ思い出しているのか?


どうして?


今まで教会で過ごした事なんて思い出さなかったのに。


頭が割れそう…。


頭が痛過ぎて吐きそう…。


ボクは頭を押さえながら倒れ込んだ。


ドサッ!!


気分が悪い。

 

視界がボヤける。


スゥッ。


ボクの額に冷たい感触がした。


「今日はここまでだなゼロ。」


男の声が聞こえて来た。


ボヤけた視線に映ったのは黒尽くめの男。


誰…?


「思ったより強力な魔法が掛けられてるみたいだな…。」


「魔法…?」


黒尽くめの男はボクの問いには答えず、パチンッと

指を鳴らした。


目を開けると青い天井が視界に広がった。


体にはベットリと汗でベタついていた。


「…夢?」


朝日が部屋の中を明るくしていた。


ボクはどのぐらい寝ていたんだろ…。


右手に重みを感じた。


ん?


誰かボクの手を握っているのか?


ボクは視線だけ右側に向けた。


帽子屋が手を握りながら突っ伏して眠っていた。


ずっとボクの手を握っていたのか?


ガチャッ。


扉が開いた先に現れたのはインディバーだった。


インディバーはボクの顔を見て少し驚いた。

「あ、ゼロ起きた?」


「今さっき。どれぐらい寝てた?」


「3日ね。」


「…マジか。」


「良いんじゃないの?そんだけの怪我をしたって事じゃない。」


軍にいた時はこんな事なかったのにな。


この世界に来てから、よく眠れるようになったし…。


「って言うか、汗だくじゃない。シャワーでも浴び

て来た方が良いわよ?」


「そう…だな。だが、ボクが起きちゃと帽子屋を起こしてしまう。」


ボクは横で寝ている帽子屋に視線を向けた。


「ったく。マッドハッター!!起きなさいってば!!」


バシッ!!


インディバーは帽子屋に近付き、帽子屋の体を叩いた。


「痛てぇ…。」


帽子屋はボサボサになった髪を掻き上げながら怠そうに体を起こした。


「起きたかゼロ。体は?」


「平気だ。沢山寝たからな。」


「なら良かった。」


そう答えると帽子屋は安心した様子だった。


「さ、マッドハッターも起きたしシャワー浴びに行きましょう。案内するわ。」


「あぁ。」


ボクが立ち上がろうとすると、帽子屋がボクの手を掴み立たせてくれた。


「あ、ありがとう。」


「歩けるか?」


帽子屋に言われ、歩けるかどうか足を伸ばしたり足首を動かした。


「問題ない。」


「なら、シャワーを浴びたら話がある。Edenの事についてだ。」


「Edenの事?」


「あぁ。」


「分かった。」


ボクが帽子屋にそう答えると、インディバーがボクの手を取った。


ボクはインディバーに手を引かれるまま部屋の外に出てシャワールームに向かった。


帽子屋はボクの着替えらしき服を持って後を付いて来ていた。

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