不思議な男
ボクの手を掴み頭に乗せ、ずっと頭を撫でさせられていた。
もう、何分ぐらい経ったんだろう。
しかし、ゴロゴロと喉を鳴らしてる姿は、猫そのものだな。
見た目は普通の男だが…。
ジャックが探しているかもしれないし…。
そろそろ、行くとするか…。
「ジャックの所に戻らないと。」
「えー!!もう行くの!?」
「あぁ。ジャックが探してるだろうし。」
「つまんなーい!!もっと話そうよ!!」
そう言って、駄々を捏ねて来た。
めんどくさいな…。
それに、うるさい。
「めんどくさい男は、好きじゃない。」
「あ!ごめん!!もう言わないから嫌わないで!!」
CATは、案外扱いやすいかもしれないな。
「分かったなら、戻してくれ。」
「分かったよ。はい!!コレ渡しとくね。」
ボクの手のひらに、紫色のリボンが付いた鈴を渡して来た。
「これは?」
「いつでもオレの事を呼べる鈴だよ♪さ、この道を真っ直ぐ行ったら、さっきの場所に戻れるよ。じゃあね、ゼロ。」
そう言って、CATは姿を消した。
この鈴で、CATを呼ぶ事が出来るのか…。
ジッと鈴を見つめた。
「普通の鈴だけど…。まぁ、この世界自体がファン
タジーだからな。」
いちいち驚いてたら、心臓が持たない。
ボクはそんな事を考えながら歩いてると、あっという間に森を抜けていた。
ガヤガヤガヤ!!
さっきまでいた場所に戻って来てたようだ。
人の話す声が大きく過ぎて、耳が痛くなった。
いきなり静かな場所から、騒がしい場所に来たか
ら、耳が追い付つかない。
ガシッ!!
急に後ろから、腕を強く掴まれた。
思わず癖で、手を振り払おうとしたが、振り返えると、汗だくのジャックがあった。
「あ、ジャック。」
「お前、どこに行ってたんだ!!」
ジャックが大声を出すから、周りの人がボク達に視線を向けた。
「ちょ、ちょっとジャック。大声出したら、目立つだろ…。」
「あ、あぁ…悪い。そこの店入るか。」
そう言って、ジャックは喫茶店を指差した。
猫のマークが多い、喫茶店だな。
ボクが黙って頷く、とジャックが店の扉を開けた。
カランカラン♪
中は、レトロな雰囲気の喫茶店だった。
「いらっしゃいませ。2名様で、よろしかったですか?」
「はい。」
「お煙草は吸われますか?」
「あぁ。」
ジャックも煙草吸うのか…。
「ご案内致します。」
ボク達は店員の後に付いて行き、テラス席に案内された。
丁度、テラス席にはボク達しかいなく、貸切状態だった。
「ご注文は後ほど、お聞き致します。」
テーブルに、水とメニューを置いて、中に入って行った。
「さっきは、大声出して悪かったな。」
ジャックは、申し訳なさそうな顔をして謝って来た。
「別に気にしてない。」
「どこに行ってたんだ?って、まずは飲み物が先だな。好きなの頼んでくれ。」
そう言って、メニューを開いて来た。
ボクに好きなモノなんてないし、ましてや嫌いなモノもない。
「ジャックに任せる。」
「そうか?」
ジャックが手を挙げると、店員が来て注文をした。
間もなくしてジャックが頼んだ物が届いた。
ボクの前に置かれたのは、ホイップクリームとチョコチップが沢山乗っているアイスココアだった。
それと卵とハムのサンドイッチ、ジャックの前には、アイスコーヒーが置かれた。
可愛らしい飲み物だな…。
ジャックからしたら、ボクはこんなイメージなのだろうか。
「煙草吸って良いか?」
「あぁ。」
そう言うと、ジャックはポケットからハートの絵柄が描かれた煙草を取り出し、口に咥え火を付けた。
「それで?どこに行ってたんだ?」
「あぁ…、実は。」
ボクは事の経緯を話した。
「チェシャ猫の主人になったのか!?」
ジャックは、飲んでいたアイスコーヒーを吹き出しそうになっていた。
「多分…。CATにこれを貰ったし。」
そう言って、貰った鈴をジャックに見せた。
「マジか…、ゼロって、相当の手だれか?」
ジャックは周りに人が居ない事を確認してかららボクの名前を呼んだ。
ポワッ。
ジャックに名前を呼ばれて胸が暖かくなった。
何故だろうか…。
「手だれって…。アイツが変なだけだ。」
「確かにチェシャ猫は変わり者だしな。ほら、飲めよ。」
「あ、あぁ。」
ボクはジャックに促され、アイスココアに刺さっているストローに口を付けた。
ひんやりとしたアイスココアと、チョコチップとホイップの相性が最高だった。
「やばい。」
「は?やばいって、何が?」
「めちゃくちゃ、美味い。」
ジャックはしばらく黙った後、笑い出した。
「アハハハ!!!真面目な顔して、何を言い出すかと思ったら…。クックッ。」
「そ、そんなに笑う事か?」
「飲んだ事なかったのか?アイスココア。」
「そうだな、こんな風にしてもらった事がないか
ら。」
そう言って、再びストローに口を付けた。
「なぁ、ゼ…。」
「へぇ…。アリスとジャクじゃない。」
ジャックの後ろから現れた人物誰に、声を掛けられた。
「お前か、インディバー。」
確かイモムシの…?
水色の青メッシュの髪は腰まであり、男切れ長の目に、紫色のアイシャドウ、ラメの付いたマスカラ、青色の口紅。
それと派手な格好だが、良く似合っている。
男なのに綺麗と思ってしまった。
「ご機嫌ようアリス。調子はいかが?」
インディバーは、ガラスで出来た煙管を口に咥えた。
独特の煙草の匂いだった。
お菓子のような、花のような甘い香りだ。
「うん、お陰様で。」
「あら、そう。でも、顔色が悪いわねぇ。まぁ、倒れたって聞いてたし、あんまり無理すんじゃないわよー。」
そう言って、インディバーはサンドイッチを取った。
「ジャックは相変わらずねぇ。アリスに縛られてる。」
インディバーがそう言うと、ジャックの顔色がスッと変わった。
ジャックが、アリスに縛られてる?
どう言う意味だ?
「喧嘩売りに来たのか、インディバー。」
「まさか。ただ事実を言っているだけじゃない。」
インディバーはジャックに近付き、胸をトンッと指
で軽く突いた。
トンッ。
「ハートを縛られてるって事。そんな事、1番アンタが分かってんじゃないのぉ?」
「っ!!テメェ。」
ガバッ!!
ジャックがインディバーの胸ぐらを掴んだ。
「おい、ジャックやめろ!!」
ジャックの腕を誰かが掴んだ。
グリーンアッシュのサラサラの髪に、グレーの瞳に
キツイ顔立ち、耳には大量のピアスが光っていた。
そして、ジャックと同じ騎士団の服を着ている。
コイツもハートの騎士団か?
「落ち着けよ、ジャック。インディバーも、わざわざ挑発するような言い方をするな。」
「はいはい。少しからかい過ぎちゃったね。」
そう言って、インディバーはボクに近付き、耳元で囁いた。
「やっと来たんだ、遅かったわね。」
「っ!?」
ボクは、インディバーを振り返って見つめた。
「今度は2人でお茶をしましょ。またね。」
コツコツ。
インディバーはテラスを出て行った。
遅かった?
インディバーは、ボクがこの世界に来るの分かってた?
アイツは、一体…。
インディバーは長い髪を靡かせながら、喫茶店を後にした。
彼の口元が緩み、小さな微笑みを作っていた。
「やっと縛りが抜けたわ。」
そう呟いた。
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