リリー12 (十六歳)



  王都の端っこに、我がダナー家の別邸はある。都会である中心都市から西側に離れた端っこの森の中。


  閑静な住宅地。そこから馬車でおよそ一時間、フカフカのクッションの上にいたってお尻が悲鳴をあげ始める頃、下車。


  あいたたた、なんて腰なんか曲げたりしない。


  「姫様、お手を」


  「ありがとう」


  警備員師匠の手を借りて、用意された足場を軽やかに降りる。だって悪役なのだから、お尻を地味に負傷しているなどの、周囲に隙を見せたりはしない。


  やって来ました!


  スクラローサ王立学院!


  大きな門に集う学生たち。形はお揃いだけど色違いの黒、白、紺、深緑の制服。


  個性を活かしてスカートは短く出来ないよ。


  だって女子も男子もパンツスタイルだから。


  髪型も制服に合わせてキリッとクールなポニーテールをリクエスト。


  私の機能的な装いを初めて見たお兄さまたち、ブスッとしていて絶賛もお世辞もくれなかった。


  だから今度はパピーとマミーに「似合うでしょ?」ってお披露目しに行ったら、パピーは無言でマミーはちょっと苦笑い。


  家族たちファミリーは、最後まで私の通学に苦い顔をしていたから仕方ないね。


  私が通学することにより、王都に主張が決まり、仕事が増えてしまったお兄さまズと警備員の皆さま。


  出来るだけ、彼らに迷惑をかけないように頑張るつもり。


  そしてここまでの道のりで気になった事は、門から入り口までの制服カラー。大多数が深緑で、別カラーは極端に少ないんだよね。


  ……不安。


  (間違えてないよね? グーさん、正門から入っていいって書いてあったよね?)


  裏口の方に、他の色が密集してたらどうしよう。


  でも色が違うというだけで、浮いてる感じが悪役としてはあり?


  深緑さんたちは、黒色の悪役を警戒しているのか近寄ってはこない。


  初めからじわじわ離れていく彼らのお陰で、既に私の前だけ混みあってなく、モーゼーごっこはここでは出来なかった。


  「ここより先は、我らは入る事が出来ません。お気をつけて」


  門から進むことおよそ十五分。学校入り口に到着した。不安そうな警備員師匠に学校バックを手渡される。


  にっこり私。

 

  現在世では初めての学園ライフ。だけど私は過去世と合わせると、保育幼稚園プラス小中高校は途中までの記録保持者なの。


  素人ではない。


  ここはベテランにお任せあれ。


  「ん?」


  警備員師匠とお別れする間際、少し離れた所からこっちを見ている白色。


  白っていえば、アトワてきだよね?

 

  まさかこっちを、睨んでない?

 

  きたよきた。


  迷わず私もメンチ斬ると思うでしょ?


  でもしない。あれはどう見ても番長じゃないからしない。メンチは直ぐに斬らないの。番長のために大切に取っておく。


  だからにっこり微笑んで、余裕かましてやったのよ。


  ね、警備員師匠!


  どうやら間違っていなかったようで、師匠から小言は聞こえなかった。

 

  「あ、」


  あれってまさか、


  紺色制服、ふわふわ感満載の少女を発見。あの金髪のふわふわ感、あの主張、おそらくきっと、この物語のヒロインに間違いないよね?


  ここは悪役っぽくヒロインをツンツンするか、それとも死亡フラグ回避に自分の透明性をアピールするか、悩ましいところではある。


  「リリー」


  え?


  ヒロインを観察していたら、なんとグーさんが現れた。私を荷物の様に引き取ると警備員師匠に告げると、案内してくれるって急かされる。


  だから何か言いたそうだった師匠には、帰りの会で聞いてみよ。


  それよりも何よりも、ふわふわのヒロインが、こっちを見ていた事がものすごく気になった。


 


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