第25話 『疾走』
ミツルはレーダーを見つめていた。
トップを行くロックとの差は縮まり、後方を飛行するパイソンとの差は広げる事が出来ている。
「見たか!俺のテクニックを!」
ミツルは叫んだ。
無線は入っていないが、半ば司令塔に向けたものだった。
自分の操縦を画面を通して司令塔も見ているだろう。これで自分の実力を思い知ったはずだとミツルは感じていた。
そんな中、ミツルはブースターエンジンを点火させるタイミングを見計らっていた。
あと一回だけならブースターエンジンを起動しても、ガニメデまで問題なく飛行出来るだろう。
小惑星帯を抜けてから、ガニメデまでの距離もかなり長い。燃料を確認しつつ、そこでも更に加速させなくてはならない。
幸い機体にも大きなトラブルはなさそうだ。
ガニメデのピットインでも、燃料補給だけすればいいかもしれない。
それならまたピットインの時間を短縮出来、ロックとの差はほぼゼロになるはずだ。
さすがにロックも、ガニメデへのピットインを回避するという選択はしないはずだ。火星へのピットインもしなかったのだ。燃料補給とメンテナンスは必須だろう。
それを考えると、怖いのはロックではなくパイソンの方だ。
ここで何かしらの、勝負手を打ってくるはず。
注意しなければならない。
もしかしたら、とんでもない策でもあるのかもしれない。
MWコーポレーションのエンジン性能は、現時点でおそらく世界一だろう。そこにパイソンの経験が合わさった、相乗効果も期待出来る。現段階で最下位だとしても、決して油断は禁物だとミツルは分かっていた。
「よし、ここだ!」
ミツルはレーダーを確認しつつ、ブースターエンジンを点火させた。
この先は、比較的小惑星の密集は少なそうだ。
「一気に突き進むぜ」
ミツルは気合いを入れた。
その時ちょうど、ガニメデのメンテナンスクルーから無線が入った。
「ミツル、ロケットボートの状態はどうだ?」
「何も問題ないさ。ガニメデで燃料さえ積めれば、一気に疾走してやるぜ」
「分かってる。中山GMも、お前のテクニックを褒めてたぞ。このままなら優勝を狙えるかもとな」
「当たり前だ。俺は最初から優勝しか考えてない」
「我々も全力を尽くして、最短で整備を終えてみせる。要求があったら何でも言ってくれ」
「分かった。サポート頼むぜ」
「任せてくれ。あとMWコーポレーションのメンテナンスチームが、何か企んでいるらしい。何を企んでいるかは不明だが、ピットインに向けた準備と並行して、別の準備をしているようだ」
やはりそうかとミツルは思った。
MWコーポレーションには何か、秘策があるようだ。
「関係ないさ。俺は、俺のテクニックで勝ってみせる」
ミツルは力強く言い切った。
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