生きた色
「ねぇ、私が死んだらどうする?」
彼女は突拍子も無く、そう尋ねた。
「どうやってさ」
面食らった僕は思わず質問で返した。
「飛び降りでも良いし、首吊りでも良いかな」
彼女はケロッとした表情で答えた。
「他には?」
「電車に飛び込んだりさ、クスリの過剰服用もカッコイイかも」
彼女はまるで遠足の予定を立てている子供のような無邪気な表情をしていた。
「死にたいの?」
「うん、まぁね」
彼女は自前のピンクの筆箱からカッターを取り出すと、自分の首にあてがった。
「死ねばもう、こんな汚い世界を見なくて済むもの」
昔から彼女は珍しい事を言う人だった。音に味がすると言ったり、文字に色が見えると言っていた。そんな彼女にとって、今の世界は汚い墨のような色に見えるらしい。
「止めたって無駄だよ、私は―」
「止めないさ」
言葉を遮った。僕の返答が意外だったのか、彼女はえっと声を漏らした。
「辛いなら死ねば良いさ。ソレが君の幸せになるのなら」
そう言うと、彼女はしばらく黙ってじっと僕の瞳を見つめた。僕はだんだん小っ恥ずかしくなって目を逸らした。すると彼女はカッターをしまって、その掌を僕の右手の甲に触れた。
「やっぱり、死ぬのやめた」
「どうして?」
僕が尋ねると、彼女は笑った。
「私の目の前に、綺麗な色が生きてるから」
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