星降る夜に
あきのななぐさ
第1話 目覚めの歌
黒の世界に、小さな波紋が一つ生まれた。
最初は小さく儚いそれは、生まれた瞬間に消えていた。だが、それは終わりではなく始まり。
次々と湧き起こる波紋の中で、少年は静かに目を開ける。
目覚めた瞬間、波紋は音として理解される。
形のない世界。光のない世界。ただ、少年に届くのはその調べ。
何もなかった世界に、降り注いだその調べに、少年はその身をゆだねる。
――不思議な音。だが、それは心地よい。
いつしか少年はその音の流れの中にいた。
だが、突如わき起こった力ある音の流れが、少年に様々な事を理解させていく。
自らを理解した少年。その瞬間、黒の世界が光であふれる。
そして少年は全てを理解した。
始まりの歌で目覚めた自分を――。
*
「どう? おとうさん。これが、みこさまのうただよ。『はじまりのうた』だよ」
「モミジは凄いな。きっとお母さんのように歌えるようになれるよ。なあ、モミジ。歌は好きか?」
「うん、だいすきだよ!」
屈託のない笑顔で、父親の顔もほころぶ。だが、次の瞬間には真剣な眼差しで、父親は娘に問うていた。
「モミジ……。一人で寂しくはないか?」
「ううん、だいじょうぶ! おかあさんのように、うたえるようになるためだもん」
その一瞬、モミジの顔に陰りが見えた。だが、それを吹き飛ばすように、明るい声を返していた。
その声に、父親は微笑みを返し、娘もまたそれにこたえていた。
「そうだな。モミジもお母さんも頑張ってる。お母さんは『皆が一つになって立ち向かえるように』って世界を旅しているけど、モミジの頑張りを知っていると思うよ」
父親の手がモミジの頭にそっと伸びる。愛おしそうに目を細めながら。
「えへへ――」
嬉しそうに笑うモミジの晴れやかな笑顔に応えるように、雲の切れ目から光が差し込む。
「どうやら雨宿りも終わりだ。そろそろ戻らないと、巫女様に怒られる。でも、この雨のおかげで、モミジとこんなに長く一緒に居られた。雨と星樹に感謝しよう。そうだモミジ、この樹は星樹という不思議な樹なんだ。大地を通して世界中とつながっている。望んだら、この星樹がお母さんとモミジを繋げてくれるかもしれないぞ?」
「ほんと! じゃあ『きぼうのうた』をうたうね!」
止みかけている雨音に交じり、旋律が風にのって流れていく。幼女の奏でる声に導かれるように、
それは太陽の放つ光ではない。星樹の上にある一枚の葉から放たれた光が、
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