第34話 努力するのみですから考えても解決いたしません
「何で⁉︎ あんなお嬢ちゃんのどこがいいの⁉︎」
「別にお前に関係ないだろ」
「関係ないって……! 私がキリアンのことを好きだって知ってるくせに!」
泉から出たジュリエットの耳に、少し離れた木陰で繰り広げられるキリアンとアリーナのやり取りが聞こえてくる。
「俺は誰も好きにならないって言っただろ? こっちにだって事情があんだよ」
「へえー……じゃああのお嬢ちゃんのことも別に好きなわけじゃないのに妻にしたんだ。金でも積まれたの?」
「……」
アリーナの言葉に、キリアンは答えない。
少し離れたところで聞こえてくる会話に思わず足を止めたジュリエットは、キリアンの表情までは窺えなかった。
「ふふっ……なーんだ。それならこれからも遠慮なく私の相手してくれるわよね?」
もうこれ以上聞くことは堪えられずに、わざとガサガサと音を立てて泉の周りを囲う目隠し板の傍から歩み出た。
「キリアン様?」
ジュリエットが思わず呼び掛ければ、少し離れた木立の陰からキリアンが姿を見せた。
「出たのか。帰るぞ」
「はい……」
木立の陰にうっすらと見えるアリーナは何も言わなかったが、こちらを窺っている様子は感じられた。
並んで歩く集落の路地までの森の小道は月明かりと所々に焚かれた松明に照らされて明るかった。
しかし隣を歩くキリアンの表情はどこか硬くて怒っているようにも見える。
「キリアン様、どうかなさいました?」
ジュリエットはそう聞かずにはいられなかった。
じっと前を見据えていたキリアンの黒い瞳が、隣を歩くジュリエットを映す。
「別に……」
そう言いながらも暫くじっと見つめた後にスッと視線を前に戻したのだった。
「何でもない」
ジュリエットはそれ以上聞けずに、黙って家までの道のりを歩いた。
月明かりに照らされ、湿ったまま揺れるローズピンクの髪の間から覗く顔は今にも泣きそうな表情であったが、真っ直ぐに前を向くキリアンは気づかない。
家に着くとキリアンは扉を開けてジュリエットを先に中へ入れると、自分は中に入ろうとしない。
「ちょっと出て来るから、先寝てろ」
「……分かりました。お気をつけていってらっしゃいませ」
パタンと扉が閉められる。
ジュリエットは暗い家の中をぐるりと見渡した。
「どこへ行かれたのかしら? アリーナさんのところ? ではないわよね?」
元来明るく前向きな性格のジュリエットだが、呪いについて考えれば気持ちも自然と沈むのであった。
あと十ヶ月……。
「私に出来ることは、早く仕事を覚えてキリアン様にも本当の妻として認めてもらうよう努力するのみですわ。考えても解決しませんもの。今日はもうキリアン様に言われた通りに寝ましょう」
ジュリエットは早々と寝台に横になっても目が冴えて眠れなかったものの、瞼をギュッと瞑って無心を心がければ自然と呼吸は規則的な寝息へと変わっていった。
青白い月明かりはジュリエットの目元についた涙の雫をキラキラと照らしている。
窓の外の森では
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