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 有二が玄関の戸を開けると、となりの内田さんのおばさんが立っていた。


「あら、有ちゃん、来ていたの」

 内田さんのおばさんがいった。


「はい、ご無沙汰しております」


「あら、朋香ちゃんも……」

 後から顔を出した朋香に、内田さんがいった。


「こんにちは」

 朋香はちょっとほっとして、頭を下げた。


 内田さんは、有二に

「あなた、おばあちゃんを一人にしてちゃだめじゃない。時々は帰ってきてあげなさいよ。いつまでも親は元気でいると思ってちゃだめよ」

と、怒って見せた。


「はあ」

 有二は苦笑いをし、頭をかいた。


「あ、そうだ、おばあちゃんは?」

「あ、今、買い物に出かけてるんです」

「あら、そうだったの」

「何か?」

 有二が聞いた。


「それがね、うちのジェリちゃんがきのうから行方不明なの」

「ジェリちゃん?」

「そう、うちのねこちゃんなのよ」

「ああ、ねこですか」

「よくこちらのお庭におじゃましていたから、今日も来てるんじゃないかと思ったんだけど……」

「今日は、見ていませんね」

「そう……、どこへ行いっちゃったのかしら。交通事故になんかにあってなきゃいいけど……。あら、ごめんなさい。他をさがしてみるわね。おじゃましました。ああ、どこへいってしまったのかしら」

「あ、見かけたら連絡しますよ」

「お願いします。ほんと、どこへ行っちゃったのかしらねぇ……」

 となりの内田さんは、心配そうな顔をして帰っていった。


「ねこか、ねこはよく家出をするからな。まあ、一週間もすればかえってくるさ」

「本当?」

「ああ、ねこは、ある程度の年になると、修行に出かけるのさ。赤いたすきを掛けて修行をするんだよ。修行が終わったら、猫又という妖怪になるんだ」 


 朋香は「また、私をだまそうとして……」といって有二をにらんだ。

「あははは、そういう伝説があるんだよ」

 有二は、楽しそうに笑っていた。

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