秘密の依頼
*
デュークを置いてきたハンナたちはクエストセンターの門をくぐる。
仕事を求めて掲示板や受付カウンターに日雇い労働者たちが集う、彼女たちには見慣れた光景だ。
時折ハンナたちに性的な目線が向けられるも、いつものことなのか彼女たちは気にしていない。
しかし今回は少し様子が違う、皆がチラチラと外を気にしてざわついているのである。
「どうしたのかなあ? みんな外が気になるみたいだよ?」
「決まってるでしょ、外にいるデュークが気になるのよ」
「カレンちゃんの言う通りですよ、あんな素晴らしい機械があったらみんな釘付けになるのも無理ないです!」
「それはあんただけよ、ウィルっ」
「痛いっ」
目をキラキラ光らせて熱弁するウィルに、カレンがその頭を軽くチョップしてたしなめる。
「誰が何しようが関係ねえ、オレたちはオレたちのことをするだけだっ」
ボギーだけは他の冒険者たちを気にすることなく掲示板に向かう。
「ちっ、しょっぱい依頼しかねえな……」
お眼鏡にかなう依頼が貼り出されておらずボギーが乾いた舌打ちをすると、受付嬢のメリッサが彼の肩をこっそり叩いた。
「ボギーさんボギーさん」
「あん? 何だメリッサっ」
「貴方たちを見込んで特別な依頼があるんです。気になりますか?」
「特別な依頼!? 知りたい知りたーい!!」
メリッサの提案を聞いたハンナが、身を乗り出してその間に割り込む。
「んもう、ちょっとは落ち着きなさいよハンナ。それで、特別な依頼って何なのかしら?」
ハイテンションなハンナを引っ込めたカレンが改めて問いかけると、メリッサは囁くようにこう伝えた。
「ここではあれですので、応対の間へどうぞ」
そうしてハンナたちはメリッサに連れられ、センターの奥にある応対の間へと入る。
部屋の中は至るところに金の刺繍が施されており、中心にはツヤツヤした高価そうなテーブルが。
「へー、クエストセンターってこんなところもあるんだ~」
「ボクたちみたいな普通の日雇い労働者には縁がないでしょうからね。こういうのっていつもは要人とかに直接依頼をするときに使われる部屋でしょ?」
「よくご存知ですね。ささ、お座りくださいませ」
ウィルの解説を肯定しながらメリッサが重い扉を閉めたところで、テーブルに着いて待っていたオーナーが早速こう提案する。
「君たちなら来てくれると思ったよ。実はな、ここから東のタンタの森で先日の嵐以降奇妙な存在が目撃されているんだ」
「奇妙な存在、ですか……?」
「ああウィル。そこでだ、君たちにはタンタの森に出没する謎を調査していただきたい」
神妙な顔で頼むオーナーの前で、ボギーは不満げに足をテーブルにもたげた。
「また調査かよっ。最近そーゆーのばっかじゃねーか」
「ちょっとボギー、さすがにそれはオーナーに失礼でしょ。――だけどその依頼をなんでわたしたちに? 掲示板にも貼り出されていないことを考えると、秘密裏にしたいって意図が見えるのだけど」
艶やかな黒髪をかき分けて確信に迫ろうとするカレンに、メリッサは眼鏡をくいっと上げてこう付け足す。
「問題の存在なのだけれど、目撃情報がいくつかありましてね。機械のようだけれど二本の脚で独りでに動く、遠い昔に絶滅したはずの恐竜みたいなもの。皆様には心当たりがありますでしょ?」
「もしかしてデュークのこと~?」
「その通りだハンナ。目撃情報に近い存在を所持するお前なら話が早いと思ってな。なにせその存在は決して小さな身体ではなく、並の冒険者では危険が伴うと思われるんだ」
「そうなんだ~」
「そういうわけだ、報酬は弾もう。この調査を引き受けてはくれないか?」
「ふーん、報酬を考えたら悪くない話ね。その依頼、乗ったわ」
メリッサとオーナーの説明を聞いたところで、カレンは依頼を受けることに決めたようだ。
「助かるよ。諸君ならできると思う」
カレンがオーナーと手を結んだところで、ハンナが威勢よく腕を挙げる。
「よーしっ、それじゃあみんなで行っくぞ~!」
「はいはい、ハンナはいっつも元気だよな」
「ボギーは乗り気じゃないの~?」
「そういうわけじゃねえけどっ」
そんなこんなでハンナたちはクエストセンターのオーナーから直接依頼を受けたのであった。
*
しばらく座って待っている私の周りには、いつの間にか人だかりができている。
どうやら機械でできた恐竜の自分が珍しいようだ、遠巻きにではあるが皆が私に注目していた。
こういう状況にはあまり慣れていない、なにせ私はあまり親しい友達を作る方ではなかったからな。
そんなとき、一人の小さな男の子が私の前に駆け寄ってくる。
「わー、きょーりゅーだ~!」
「ちょっと、危ないわよ!?」
母親と思われる女性の制止を無視した男の子が、私の顔に手を伸ばした。
というかこの辺りでも恐竜なる存在が認知されているのか。
「なにこれかた~い!」
「おや、そうかい」
「ねえママ、このきょーりゅーしゃべったよ!?」
私が返事をすると、男の子が嬉しそうにはしゃぐ。
そこで私は男の子の前で立ち上がり、少し動いてみることにした。
「わー、すごいすご~い! ホントにうごいてる~!!」
そしたらいつの間にか私を囲む人だかりから次々と歓声が浴びせられることに。
なんだかサーカスの珍獣にでもなったような気分である。
そんなことを思っていたら、クエストセンターの扉から出てきたハンナが駆けつけてきた。
「デュークごめーん! 待った~?」
「私なら大丈夫だ」
「それにしてもいつの間にかすごい人だね~」
「全くだ」
そんなやり取りをしてから、ハンナはクリアオレンジのキャノピーを開けて私の頭に乗り込む。
すると周りから歓声が飛び交った。
『えへへ、アタシすごいでしょ~!』
私に乗り込んだハンナは、コックピット内で得意気な笑みを浮かべている。
『ボギー、カレン、ウィル~!』
それから拡声スピーカーでハンナが呼ぶと、ボギーたち三人もほんの少し遅れて出てきた。
「なんだかボクたち人気者ですね~」
「なんか複雑な気分ね」
「うっとうしいぜ」
思い思いのことを口にしながらボギーたちがジープに乗ったところで、ハンナが一声あげた。
『それじゃあしゅっぱーつ!!』
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