今の私という存在
裏のガレージで待っていたのは、筋骨隆々な壮年の男だった。
「オーナー、こちらがハンナさんたちの持ち帰ったものでございます」
恭しく頭を下げる眼鏡の女性に紹介された私を、オーナーと呼ばれた男が舐めるように見つめる。
「ふーむ、こんな機械は見たことがないな。本当に君が見つけたのか?」
「はい! えーと、かくかくしかじかで~」
興味津々なオーナーにハンナが私と出会った経緯をざっくりと話した。
さっきもそうだったが、私を性的な事柄で動かしたことはさすがに伏せるようで。
「そういうわけでデュークはアタシのものなんです! マスターとしての認証なのかな、そんなのも済ませてあります!」
「ふーむ、しかしこんな未知の遺物を個人に持たせてよいものか……。万が一良からぬ者の手に渡って悪用されたら何が起こるか分からんぞ?」
豊満な胸に手を添えて私の所有権を主張するハンナに、オーナーは筋肉でガッチリとした腕を組んで難しい顔をする。
どうやら私のような存在は他に知られていないようだ。
息苦しく張り詰めた空気の中で手を挙げたのは、眼鏡の女性だった。
「ハンナさんのおっしゃることが真実であるなら、私にはこのデュークを操縦できないはずです。そうであれば悪用される危険性はないかと」
「よし、やってみろメリッサ」
「デューク、試しにメリッサさんを乗せてみてよ」
「分かった」
メリッサと呼ばれた女性の前で私が顔を下ろしてキャノピーを開いてみると、彼女は軽々と頭のコクピットに乗り込む。
「……これは確かに動かせそうにないですね。ロックがかかってるのでしょうか、まるで手応えを感じません」
メリッサの言う通り、彼女がハンドルを握ったりコンソールを触っても私の身体には何も伝わらない。
それどころかクリアオレンジのキャノピーも開きっぱなしだ。
「それじゃあアタシがやってみます!」
交代するようにハンナが頭のコクピットに乗り込むと、クリアオレンジのキャノピーがひとりでに閉じた。
『行くよ、デューク』
「了解」
そしてハンナがハンドルを握ると、私の身体に電気信号みたいなものとしてどう動けばいいかが伝わる。
伝えられた通りに身体を起こして回れ右をすると、オーナーとメリッサが感嘆の声をあげた。
「さすがです、ハンナさん」
「どうやら本当にハンナの手でしか動かないようだな。よし、君にデュークとやらの所持を認めよう」
『わーい!』
こうして私は引き続きハンナのもとで過ごせることになったようだ。
私の保有権利が正式にハンナのものになったところで、私はハンナの後に着いて歩く。
それで町の東側に足を運ぶと、プレハブ小屋にたどり着いた。
「ここがアタシたちの家だよ!」
後ろ手を組んで振り向いたハンナは、ニコニコ笑顔でそのプレハブ小屋を披露する。
「この小さなプレハブ小屋に四人で暮らしてるのか?」
「そうだよっ。アタシたちこうやって一緒に暮らしてるんだ~」
なるほど、同じ仕事仲間として寝食を共にしているわけか。
しかし男一人に女三人がひとつ屋根の下で暮らしているというのは風紀面が少々不安である。
そんなことを勝手に心配してると、先に帰っていた仕事仲間三人がハンナを出迎えた。
「みんなお待たせ~!」
ハキハキと手を振るハンナに、カレンが長い黒髪をふぁさっとかき分けて応える。
「あら、意外と早かったじゃないの」
「そんじゃ飯食いに行こうぜ! お前が奢るって話だよな?」
「え~、アタシそんなこと言った覚えないよ!?」
「ちっ、そうかよ」
ハンナの提案を曲解してたのか、ボギーは舌打ちをした。
するとここで前に出てきたのは頭に大きなリボンをつけたウィルである。
「ねえねえ、それよりもボクにデュークさんを見せてくださいよハンナちゃん! どんなメカニズムになってるか、すっごく気になります!!」
私を見つめるウィルの瞳は、好奇心の光でこれ以上ないくらいキラキラしていた。
「私のメカニズム……とな?」
「ちょっと~、デュークを壊さないでよお?」
「心配しなくても壊しませんって。ああ、こんな見たこともない機械を弄るなんてボクわくわくしますよ~。デュークさん、それじゃあこちらへどうぞ」
そうしてウィルに恭しく案内されたのは、小屋の裏にあるガレージである。
規模の割には整備器具も充実しているようで、やけに本格的だな……。
「それじゃあ始めますよ」
いつの間にか桃色のツナギに着替えたウィルが、スパナを片手に私の身体を調べ始める。
装甲の下をのぞかれたりコックピットの中をガチャガチャ弄られたりと、その間くすぐったくて仕方がなかった。
「うーん、これは想像以上に複雑ですね~。だからこそ機械は面白い!」
顔を機械油まみれにしながらも、ウィルは心底楽しそうである。
「ふーん、アタシにはよく分からないんだけどな~」
一方でハンナは複雑な機構には興味ないようで、そこら辺に転がっているナットとボルトを手持ちぶさたにいじっていた。
そうして一通りウィルの機械弄りに付き合ったところで、仲良く食事に出かける四人を私は見送る。
その間はこのガレージでお留守番だ。
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