第17話 幸せの記憶
目の前にいるフィリアは眠っているように安らかな顔で横たわっている。愛おしくてたまらない。
「フィリア……」
髪に指を通すように、少しでもフィリアを感じれるように…そうフィリアを撫でたときだった。
「えっ……?」
フィリアを撫でているデウスの右手が白く光りはじめた。撫で続ける度にその光は強く眩しくなっていく。
7回ほど撫でただろうか。突然その光は消えた。
「なんだったんだ? 今のでフィリアは天に召されたのか……?」
デウスは今の現象をそう理解するしかなかった。のだが……
「……ん……デウ……ス?」
聞き覚えのある声がした。その瞬間、デウスの視界がぱあっと色付いた。
「フィリア! フィリア!! 僕が分かる? 僕だよ、デウスだよ!!!」
「ちょっと……そんなに大きな声出さないでよ……ただいま」
「おかえり。フィリアっ……」
デウスは涙を流しながら、『おかえり』と『ただいま』というこれ以上ない幸せを感じた。
「で……でもフィリア……。その……死んじゃったと思って……」
「私も……死んで違う世界に行ったはずなんだけど……。そこですごい形相の女の人に追いかけられて怖くて逃げてきたら戻って来れちゃった!」
てへっっと舌を出すフィリア。そして感情が180度変わる。
「そーいえばアシッドタイガー!! どうなったの!? デウスが生きてるってことは逃げてくれたの??」
「アシッドタイガーね、やっつけたよ。僕の寿命と引き換えにだけど。」
「寿命と引き換えにって……えっ?」
デウスはこれ以上は隠し通せないだろうと腹を括り、フィリアに前世のことを含めて全てを話した。前世で神官だったこと。仲間を守るために言霊で人を殺したこと。守ったはずの仲間に追放されたこと。その後死んで起きたらデウスに憑依転生していたこと……
「そう……あなたはデウスではなかったのね」
「あぁ。きっと本当のデウスは昨日の夕方に兄弟に殺されていたようだ」
「そっか……デウス……ごめんね」
フィリアはきらきらと夜空を彩る星を見上げてそう呟いた。彼女の頬をつーっと流れる涙は、星のようにきれいで、そして地面を濡らした。
「そしてあなたは……そのデウスの代わりに生まれ変わってくれた、新しいデウスってことなのね」
「あぁ。……騙していて悪かった。だか……きっと僕が他の誰でもないデウスの身体に生まれ変わったのはきっと何か意味があることだと思うんだ。だから……僕はこのまま彼として生きていくつもりだ」
千松はデウスとしてそう決意を述べた。元々のデウスと親密にしていた彼女がどう思うかわからない。しかしそうすることが本当のデウスへの弔いになるのだと、千松はそう思ったのだ。
「そっか……それじゃあ私も、あなたをデウスとしてこれからも一緒にいるからね! 文句は受け付けません!!」
フィリアは全てを理解してくれた。本当のデウスは死んだことも、目に涙をためながら飲み込んでくれた。本当に優しい人だ。
そしてフィリアが死んだ後の神懸りについても説明した。
「どうしてそんなことしたの!! 寿命を代償に神様の力を使うなんて……無茶しすぎよっ!!」
フラフラで頭がぼーっとしているのにフィリアに頭を叩かれたデウスは崩れ落ち横になってしまった。
「だって……」
「だってなに!?」
「あのままだと僕も死んでたし……その……フィリアのいない世界には生きていたくなかった。これは僕も死んだ本物のデウスも同じ感情だったよ。そしてアシッドタイガーを倒して僕も死ぬ予定だったからね」
「……バカっ……」
「あと、もう1つ伝えなきゃなんだ」
「ん? なぁに?」
「愛してるよ、フィリア。あってすぐの君にこんなことを言うのは間違っているのかもしれないが……これからもずっと隣を歩いてくれないか?」
「……っ」
フィリアは言葉につまった。そして呼吸を整えてデウスの方を見る。
「当たり前でしょ! 私も愛してるからね、デウスっ!!」
「ぐえっ!」
飛びついて抱きついてきたフィリアの温もりと……重みは決して忘れることの出来ない幸せの記憶となった。
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