一生で一度の旅

宙音(そら)

第1話

旅立ちの時が来た。

穂が広がり、風を受けやすくなったぞ。

さぁ次の風が来たら、旅立とう。


一生で一度の旅。

どこへ行こうかな。

広くて風通りが良いところが良いな。

緑豊かなところも捨てがたい。

ステキな友達に出会えると嬉しいなぁ。


風に揺られ

心も弾み

これからの出会いにウキウキしている。

どんな場所に住もうかな。

誰に出会えるかな。


この旅で、僕の一生住む場所が決まる。

とても重要な旅なのだ。

そして、生まれて初めての旅。

一度だけの旅。

だから

この旅を楽しもう。


青空のなか

 鳥のように羽ばたこう。

夕焼け

 トンボのように飛べたらな。

闇夜では

  光を求めて…。


あっ! 風が止まった。

風がないと もう飛べない。

僕の旅も終わってしまう。

もっと旅がしたかったよ。


ここはどこだろう。

固い場所。

土ではない気がする。

僕らススキの種は、土でないと芽がでない。

このままでは芽が出ないで終わってしまう。


明けの明星。

もうすぐ日の出だ。

お日様 お願いします。

コンクリートの上では僕は芽が出せません。

ほんの少しでも良いから

土のあるところは運んでください。

僕はそう願いながら

風が吹くのを待った。

待って

待って

待った…。


ほんの少しの風を捕まえて

コンクリートの上を転がった。

少ししか進まなくて

やっと見つけた隙間に

身を潜めた。


ここで芽を出そう。

僕の願った場所ではないけれど。

さぁ一息つこう。

おやすみなさい。


 

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