第21話 精霊戦




「先手必勝!」



ルルが二本の矢を続けざまに放つ。


一本が冒険者の臀部に突き刺さり、一本が風の精霊を名乗る魔物『エアリアル』へと飛んでいく。


想定していた戦闘開始の合図に、冒険者とスライムはエアリアルを取り囲むべく動き始めた。

…が、「カラン」と虚しく響く音に足を止める。


ルルの放った二本の木の矢の内一本は、間違いなくエアリアルを捉え、命中するはずだった。


矢を受け怯んだ相手を冒険者とスライムで挟み込み袋叩きにする。

これがこの道中の常勝パターンであり、パーティが機能する形であったのだ。


しかし、その先の矢はエアリアルに至らず地面に転がっていた。



「そんなモノで私を倒そうだなんて。エルフでも見習いは義務教育を受けていないのかしら?」



カラン…



「私は風の精霊…半端なモノは、私の加護である風が叩き落とすんだから!」



カラン…コロン……矢が続けて転がる。



「エルフなら知っていても不思議はないのに、ニンゲンと一緒にいるとこんな事も分からなくなるのかしら……

って、喋っているんだから矢を撃つのはやめなさいよ!」



自分の個性である矢を無効化された事が信じられないのか、得意気に話すエアリアルへ向けてルルは矢を放ち続ける。



「むう、なんということだ…

だが数撃てば当たるという教えもある!続けるか?!」



ギラギラした眼差しを見ないよう背に受け、冒険者は少し様子を見てもらうようルルに指示を飛ばす。


どうやら、エアリアルは矢や投擲物に対して非常に優位に立てる魔物のようだ。

先ほどの口ぶりから、この事は魔族の一般常識らしいが…ルルは頭からすっぽ抜けている様子。

無駄と分かっている行為でルルの行動を縛る必要は無いし、なによりも誤射が怖い。


相手から目を離さぬよう臀部に突き刺さった矢を抜き捨て、剣を構える。


あの風の能力は未知数だ。矢だけでなく攻撃を逸らされ同士討ちとなる可能性もある。

スライムとの連携攻撃を選択する事は、まだ少し待った方がいいだろう。


まずは自分が…相手の力量を測る。

後ろ手に待つようサインを送ると、エアリアルへ飛びかかった。



「遅いわね」



眼前に迫っていたエアリアルの姿は唐突に消え、背後から声が聞こえた。


次の瞬間

ゴッ!と浮遊感に襲われたかと思うと、視界が回転する。

そのまま体勢を立て直す事さえできず吹き飛ばされ、雑多に積み重ねられた机や椅子の山に突っ込んでいた。


クラクラする頭を押さえつけながら、途切れそうな意識を繋ぐ。


小手調べが許されるレベルの相手では無かったのだ。

もったいぶらずに魔法の効果を発揮するアイテムを駆使しなければ全滅するだろう。

追撃が来る前に、この家具の山から這い出て次の手を打たなくては。


焦りのまま力任せに家具の山を掻き分け進む冒険者。

だが、徒労に終わる事になった。



「わぁーーーーーあ!!!!」



ベチョ、と音と共に再び家具の山が崩れる。

また押し込まれてしまった。



「えへへ…あの魔物さんに吹き飛ばされちゃった」



今しがた冒険者がされたように、スライムも吹き飛ばされて来たのだ。


ガラガラと家具が崩れ落ちるが、スライムが緩衝材となったためダメージは少ない。

しかしネトネトと絡みついてしまった彼女の身体が、這い出ようとする冒険者の行動を阻む。



前衛を二人とも欠いてしまった。

早く戦線に復帰しなくては、ルルが危ない。


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