第28話 白虎覚醒
「「リジェネ、
みんなに青魔法をかけて、街を駆け抜け白虎のいる森へと急ぐ。
さっきの貴族たちは魔道具で転移したのか、もう姿は見えなかった。
「これはすごい魔法だな! こんなに軽やかに速く動けて、まるで風になったようだ!」
シューヤさんが感激しながら、褒め称えてくれる。本当に大袈裟だ。
「僕のは独学ですし、赤魔導士の補助魔法と変わらないですよ?」
「いや、赤魔導士の補助魔法と全然違うぞ? 赤魔導士が二倍なら、クラウスの魔法はまちがいなく五倍くらい効いてる」
「えっ? まさか……あ」
そういえば、治癒魔法も効きがよかったっけ。これも魔法陣効果なんだろうな。それならいっそ魔法陣の研究をするか?
「おっ、白虎が見えてきたな」
「先ほどのアホンとかいう貴族とやり合っているみたいね」
ウルセルさんとセレナの言葉に一キロメートル先に視線を向ける。結界の中で目を赤く光らせた白虎が、暴れまくっているのが見えた。ハンターたちが魔法や弓矢で攻撃しているが、まったく効いてないようだ。
「これは、ヤバいな。結界が破れそうだ」
シューヤさんのいう通り、巨大な結界は白虎の猛攻によってヒビが入っていた。もう猶予なんてない。
そしてあれは多分、僕でないと鎮められない。
「みんな手伝ってほしいです。玄武も頼む」
『うむ、なにをすればよい?』
「セレナとふたりでハンターたちが怪我をしないように結界を張ってくれ」
《承知した》
「任せて!」
玄武は胸ポケットから顔を出してし備え、セレナは力強く頷いた。
「ウルセルさんとシューヤさんは飛び出しそうなハンターの牽制と、僕が白虎に触れるまでの攻撃を相殺してほしいです」
「ああ、任せな。起きろ、シヴァ」
「わかった! クラウスの命令なら必ずやり遂げるよ!」
シューヤさんがめちゃくちゃヤル気で、ふたりとも武器を手にして準備万端だ。いよいよ突入というタイミングで、バリバリバリッとなにかが破れる音が轟いた。
「結界が破壊された!!」
シューヤさんの叫び声を聞きながら、ハンターたちが無事か確認する。白虎が放つ雷魔法になすすべなく、わらわらと逃げ惑っていた。
アホン伯爵はほかのハンターの後ろに隠れて、弓すら握っていない。真っ青な顔でうずくまっていた。
何人か倒れているハンターもいるが、魔力感知できるので死んではいないようだ。
なんとか間に合った。これでシューヤさんが気に病まなくてすむ。だけど、のんびりもしていられない。白虎が放った雷魔法が壊れた結界から漏れでて、まわりの木々を黒く焦がしていた。
「玄武! 頼む!!」
《任せろ!》
胸ポケットから飛び出した玄武はあっという間に、もとの大きさになる。突然現れた聖獣にハンターたちは驚いていた。白虎の放つ雷魔法を玄武の凍てつく息吹でさえぎる。その隙にセレナが見事な結界を張った。
「
僕はそのまま白虎に向かって走り続ける。襲いかかる雷魔法を避けながら、両手に魔法陣を浮かばせて魔力を込めた。
「喰い尽くせ、シヴァ!!」
避けきれない雷魔法を、ウルセルさんの魔剣が吸収の魔法ドレインで喰らい尽くしていく。
「
シューヤさんの炎の矢は光の如く、冒険者たちの足元に降りそそぎ動くことを封じていた。
目の前で暴れている白虎の瞳は赤く光り、僕に全開の殺気を向けている。額には白い宝珠がついていた。純白の巨体はゆうに高さ五メートルを超える。剥き出しの牙は鋭く、大きく開いた口は咆哮をあげた。
『ガオオオオッ!!』
ビリビリと震える空気の中を、それでも走り抜け白虎の足元までやっと辿り着く。
「喰い尽くせ! シヴァ!!」
「
魔剣シヴァが雷魔法を取り込んで、炎の矢が僕の頭上に落ちてきた太い枝を燃やし尽くしてくれた。後方ではセレナと玄武がハンターたちを守ってくれている。
僕はひとりじゃここまで出来ない。みんなに助けられて、ようやく力を発揮できるんだ。
だから、みんなの協力を無駄にしないためにも全力で魔力を解放する!!
「「
両手の魔法陣から、魔力を際限なく送り込む。ここでも魔力操作を教えてくれたモリス師匠の教えが力に変わる。いろんな人に助けられて、今の僕があるんだ。だからこそ、どこまでも強くなれる。
無駄なく均一に美しく、魔力を魔法陣に流し込んだ。正気を失った白虎はピタリと動きを止める。
『グアアオオオオオォォォォ!!!!』
ひときわ大きな咆哮をあげて、地響きとともに巨体を横たえた。
さっきまで赤く光っていた眼は硬く閉じている。
「はー、よかった。一回で気絶させられた」
「クラウス……お前、なんかすごいパワーアップしてないか?」
ウルセルさんが嫌そうに声をかけてきた。でも確かに僕もそう感じた。
「多分ですけど……前の
「ああ、モリス師匠なあ。確かに間違いないな」
正気でなかったとしても聖獣白虎だ。ハンターたちが逃げ惑うしかできなかった攻撃を、魔剣シヴァの力を借りたとしても受け止めていた。
おそらくウルセルさんも、一段と強くなっているはずだ。
「アホン伯爵様」
シューヤさんは結界の一番奥で腰を抜かしていた、情けない男に声をかける。その瞳には決意がにじんでいた。
「なっ、なんだ!?」
アホン伯爵はいまだ立ち上がれないのか、座ったままだ。
「今回の件は多くのハンターを危険にさらしました。きっちりとハンターギルド本部ならびに、国王陛下に報告させていただきます」
「なぜ国王陛下まで報告がいくのだ!? ギルド本部にも報告は不要である! 私がいらんというのだからいらんのだ!!」
ダメだ、このアホン伯爵……フール団長と同じタイプだ。
僕が
僕はそっと白虎に右手を添えた。
「
白虎にそっと魔力を流し込む。艶やかな白と黒の体毛が波打つように揺れた。ゆっくりと開かれた瞳はアクアマリンのような澄んだ水色だ。
《……お前が、主人か》
「うん、クラウス・フィンレイだ。よろしく、白虎」
《ふんっ、今度の主人は随分と頼りねえなあ。まあ、オレを正気に戻したんだから実力は認めてやる》
最初の聖獣が玄武だったから、かなり上から目線の白虎に面食らった。これは、あれか? 聖獣って結構個性豊かな感じなのか?
《白虎よ、我らの主人に対する口のきき方が悪すぎるぞ!》
《ああ!? っとに玄武は頭が固いんだよな。わかったよ……おい、クラウス、お前はオレに乗れ》
「は? 乗れとは?」
《オレは主人しか乗せねえ。だから必然的にクラウスが主人だと周知できる。国王が見たらそれくらいわかるんじゃねえか?》
いや、国王様に見せる機会はないと思うけど、白虎の言いたいことはわかった。玄武はちょっと機嫌悪そうだけど、ほかのみんなを頼もう。
「玄武、白虎には僕しか乗れないみたいだし、ほかのみんなを頼めるか?」
《むぅ……主人殿がそう言うなら、いたしかたあるまい》
「ごめんな。玄武にしか頼めないんだ」
《うむ、主人殿に頼りにされるのは悪くない》
玄武の機嫌も治ったみたいで、ハンターたちも乗せてくれた。みんな驚きながらも、僕が
途中でアホン伯爵に押されて、落ちそうになったハンターを助けた。受けとめる時に思わず横抱きになってしまって、赤い瞳がキラリと光る女性は顔まで赤く染め上げていた。
「わっ、受けとめられてよかった! 大丈夫ですか?」
「ひゃっ! だ、大丈夫です! ありがとうございます!」
女性ハンターは慌てて玄武によじ登った。
なんともないならよかった。
アホン伯爵はすでになに食わぬ顔で乗っている。僕に突っかかってはこなかったけど、一番いい場所を陣取ってた。
なんていうか……こういうタイプの人たちって、なにも気にならないのかな?
白虎はもとの大きさだと流石に大きすぎるので、二回りほど小さくなってもらいその首元に乗せてもらう。
想像以上のフカフカで毛並みがよく、癖になりそうだ。僕がそのモフモフを堪能していると、白虎がドヤ顔で声をかけてきた。
《オレの毛並みは最高だろう? 触れるのはクラウスだけだからな》
ツンデレという言葉が頭に浮かんだ。口も悪いし態度も偉そうだけど、どうやら僕は特別扱いしてくれるらしい。
ちょっとだけ素直じゃないところがカリンに似ていて、思わず笑顔になる。
「うん、最高だ。じゃぁ、街に帰ろうか」
そうして僕たちは街へと戻ったのだが、そこで会ったのは予想もしなかった人物だった。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます