【書籍化】治癒魔法は使えないと追放されたのに、なぜか頼られてます~俺だけ使える治癒魔法で、聖獣と共に気づけば世界最強になっていた~

里海慧

第1話 プロローグ 色なし魔導士(1)

 

「——クラウス、お前は本日づけでクビだ」

「……そんなっ!!」

「はぁぁ、やっとだ! この五年間は長かったぞ! 魔法学園も出ておらん、治癒魔法しか使えない無能を五年も雇ってやったんだ、感謝するんだな!」


 その言葉に僕の頭の中は真っ白になった。

 魔導士団長にクビを宣告され、これからの生活をどうするのか、それだけが頭の中を駆け巡っていた。




 僕はクラウス・フィンレイ。

 ウッドヴィル王国の魔導士団に勤める魔導士だ。僕が住む国には国家の戦闘機関として騎士団と魔導士団があり、一般の戦闘っ機関としては腕に覚えのある冒険者たちが所属するギルドがあった。

 大切なものを、愛する人を、街を、国を、それぞれの想いを胸に秘めて魔物の脅威から守っている。


 僕の両親が魔物に殺されてから、たったひとりの家族である妹のカリンを養うためになんでもやってきた。ダメ元で受けた魔導士団の採用試験に通ったのは、本当に奇跡だと思う。訓練施設の魔法学園には通えなかったけど、魔力量が人よりもかなり多くて入団することができたと聞いた。


 魔導士団は危険な職業だけど、国の運営だから給料も高いし安定している。万が一僕が死んでも遺族への保障が手厚い。もしも僕がいなくなってしまっても、ここならカリンの将来に不安がなかった。

 だからこそ、この魔導士団でやっていくと心に決めていた。




 僕が魔導士団に入団した初日のことだった。


「お前がクラウス・フィンレイか! 魔力量が歴代最高らしいな、期待しているぞ!」


 フール・テイノー団長の言葉に、これからの明るい未来を想像して僕は胸を躍らせていた。

 入団した翌日にひとりひとり適性検査を受けて、黒魔導士か赤魔導士の部隊に配置されていく。花形の黒魔導士になった同期は嬉しそうにガッツポーズをして、黒いローブを受け取っていた。


「次、クラウス・フィンレイ」

「はい!」


 適性検査の魔道具である水晶にそっと手を乗せた。隣国で開発された適性判定用の魔道具だが、とても便利なものだ。

 フール団長も検査担当の赤魔導士の後ろに立って、僕の検査の様子を見ている。緊張で手に汗をかいていたけど、魔力をつつがなく流し込んだ。

 攻撃魔法に強い適性があれは黒色に、補助魔法に適性があれば赤色に光るはずだ。だけど僕が手をかざした水晶は、金色に光っていた。


 周囲がざわめきたつ。僕は流し込む魔力が足りないのかと、さらに魔力を流し込んだ。すると水晶はひときわ強く金色の光を放ち、バキッと音を立ててひび割れてしまった。


「えっ、いま……金色!? なんだ、こんな色見たことないぞ!?」

「水晶の故障か? おい! 新品を持ってくるのだ!」


 フール団長も見たことがないみたいで、すぐに新品の魔道具が用意される。言われるがまま、もう一度水晶に手をかざした。さっきとは違って、最初から大量に魔力を流し込む。

 ——バキンッ! バキバキバキッ!!

 水晶がまぶしいほど金色に光ったあと、粉々に砕け散った。


「やはり金色か……! だが魔力量は間違いなく膨大だな。よし、私が直接調べよう。ついてくるのだ」

「は、はいっ!」

「テキトン! ウカリ! お前たちも手伝え!」


 ざわつく検査会場を後にして、僕はフール団長とふたりの副団長のあとについていく。魔導士団がある西棟に入って二階にある練習場のようなフロアに入った。


「ここなら多少魔力を使っても問題ない。魔導士たちの鍛錬場だから、強力な結界が保護している」

 赤いローブのウカリ副団長が丁寧に説明してくれた。続いて声を上げたのは黒いローブのテキトン副団長だ。

「フール団長、とりあえず攻撃魔法からでいいっすか?」

「うむ、クラウスといったか、まずはファイアボールを出してみせよ」


 さも当然のようにフール団長は指示を出してくる。でも魔法学園に通えなかった僕は、基本的な魔法の使い方を知らなかった。


「あの、すみません。僕は魔法学園に通ってなくて、攻撃魔法を使ったことがないんです」

「なにっ!? 魔法学園を出ておらんのか!? そんな学歴の奴が魔力量だけで採用されるとは……ううむ」


 フール団長は途端に渋い顔になる。どうやら僕の情報は魔力量が多いことしか伝わってなかったみたいだ。


「うわー、最初から教えんの面倒くせえな。ま、テキトーでいいか。ほら、こうやって手のひらに魔力集めて、火が燃えるようにイメージすんだよ」


 テキトン副団長やフール団長に叱責されながらも、色々と試してみたけど最終的に僕に適性があるのは治癒魔法だけだとわかった。

 ウカリ副団長は冷ややかな視線を僕に向けている。テキトン副団長はすでに興味すらないみたいで、鍛錬場の壁にもたれて休憩していた。

 フール団長はこの結果に愕然としている。


「まさか……水晶を割るほど魔力があるのに、初歩的な治癒魔法しか使えんのか!? その辺の街の奴らでさえ二、三種類の属性魔法が使えるではないか!!」

「たしかに……治癒魔法だけじゃ、万が一の時に自分の身さえ守れない。赤魔導士としても、とても使えませんね。どうしますか?」

「はああ……やはり魔法学園で学んでいない奴はダメだな。まったく使えん! こいつは『色なし』魔導士だ! 雑用と治療室の手伝いでもしておけ!!」

「は、はい……」


 僕は頷くしかできなかった。


「それから、お前は『色なし』なんだから給料も見直しだ! 他の隊員の半額だ!!」


 そう言ってフール団長は足早に検査会場に戻っていく。

 僕は魔導士団員の証である黒いローブも赤いローブももらえず、自前の青いローブを羽織るしかなかった。




 このときからずっと雑用係と医療区画にある治療室の手伝いとして働いている。不満はあるけど半額とはいえ一般的な給金になので、保障のことを考えると働けるだけでありがたかった。


 先輩の話では一度入団させてしまったからには、規定によって五年間は辞めさせるとこができないらしい。以前にすぐ辞めさせてしまう団長がいて、魔導士が不足してから新しく決まりが出来たそうだ。なんにしても僕にとっては幸運なことだった。

 ここにいられるうちに認めてもえばいい。そうすればずっとここで働けるかもしれない。妹のカリンを守れるのは僕しかいない。


 やれることはある、あきらめるのはまだ早い。まだ五年もあるんだ。

 僕は業務が終わってから、自分の魔法について研究をはじめた。


 最初の半年は本当に治癒魔法しか使えないのか検証をした。やっぱりというか、僕はみんなが使うような攻撃魔法も補助魔法も使えなかった。


 ある時から、治療室の駐在赤魔導士であるタマラさんの指導も受けられるようになった。

 タマラさんは高齢のため前線から退いて、治療室に駆け込んでくる怪我人や病人に治癒魔法を使うスペシャリストだ。最初はとっつきにくかったけど、めげずに話しかけたりしていたら治癒魔法を教えてくれるようになった。


 最初は上手くいかなくて失敗もしたけど、コツを掴んでからは早かった。治癒魔法を使うと変わった模様が手のひらに浮かぶけど効果は変わらない。

 誰よりも治癒魔法が上手くなれば、認めてもらえるかもしれないと頑張った。そのうち、治療室にやってくる患者さんの対応を任されるようになった。


「私の子が助かったのはクラウス様のおかげです! ありがとうございます!」

「クラウス様、本当にありがとう! おかげでお母さん治ったよ!」

「こんな治療ができるのは、クラウスだけだな! 体が金色の光に包まれて心地よくて……騎士団の専属になればいいのに」

「クラウス様、おかげで父は安らかに眠ることができました。あなたは私の心の支えにもなってくれました。このご恩は決して忘れません」


 半人前の僕の治療で逆に申し訳ないくらいだった。

 ひとりだけ特殊な事例で治せない人もいたけど、それでも至らない僕に感謝の気持ちを伝えてくれた。

 ここまで実績を積めば、フール団長だって話くらい聞いてくれるかもしれない。


「そろそろ報告してみようかな……」


 毎朝その日の雑用の用件を聞くため、フール団長の執務室に決まった時間にいくことになっている。このタイミングで報告することにした。

 団長と接する機会はここしかない。


 でも、報告しても「そうか」で流されて終わってしまう。どんなに効率よく治癒魔法を使えるようになっても、赤魔導士に認定されなかった。

 そこで今度は治癒魔法で補助ができないか研究をはじめた。

 例えば、体の自己治癒力を高めたり、その延長で身体能力の強化をしたりできないか考えた。




 ——その結果。


「お兄ちゃーん、朝ごは……え? お兄ちゃん……だよね?」

「そうだけど? あ……もしかして見た目が変わってる!?」

「うん、なんていうか、若返った。私と同じ……十二歳くらいにみえる」


 ついにやったんだ! 昨夜の研究で実験したのが、今朝になって効果が表れたんだ。妹のカリンが見てもわかるなら、大成功だ!

 これで僕の魔法の研究に光が見えた。大きな一歩だ。


「昨日の夜に、魔法の実験したからだよ。変かな?」

「ううん! 歳の近いお兄ちゃんも新鮮でいい!」

「はは、それならよかった」


 今回の研究では細胞が若返ったけど、効果の出方や時間が実用的じゃない。もう少し調整してから次の研究に取りかかろう。



 ——三週間後。


「お兄ちゃ……えええええ!! どうしたの!? なんでそんなムッキムキなの!?」

「うーん、若返ったから老化もいけるかと思ったんだけど、違う方向にいっちゃった」


 僕の筋肉隆々になった体を見て、カリンが驚きの声を上げた。今の僕は騎士団も真っ青のたくましい体になっている。二の腕なんてカリンの太ももくらいある。

 適度に筋肉は欲しいから、調整してみよう。このままでは着れる洋服がない。


「ねぇねぇ、せっかくだからお姫様抱っこして!」

「うん? それくらいならいつでもできるよ?」

「お姫様抱っこしたうえで、ぐるぐる回って欲しいの! お願い! 実は夢だったの!」


 この日はカリンをお姫様扱いして喜ばせた。たったひとりの家族で、可愛がっている妹だからか甘やかしてしまう。

 よし、次の研究だ。



 ——さらに三カ月後。


「お兄ちゃ……え? お兄ちゃん? え? おじいちゃん?」

「ああ……すまないなぁ、やりすぎてしまったようじゃ……フガフガ」


 今度は老化の研究効果が出過ぎてしまって、老人の姿になってしまった。これでは魔導士団に行けないので、すぐに元に戻す。


「よかったああああ! 一瞬、介護が必要かと思って、めちゃくちゃ焦ったわ!」


 カリンの言葉で老化はほどほどにしようと決意した。さすがにこの歳で妹に介護されたくない。さて、次は体に巡る魔力に作用する研究だ。



 ——さらに六カ月後。


「お兄ちゃーん、もうさっきから呼ん……でぇ!? 燃えてる!! み、水——!!」

「カリン! 大丈夫だ! ただの実験だから!!」


 この日、僕は青い炎を体から発火させていた。カリンに言うと心配をかけるので、こっそり練習していたんだが見つかってしまったのだ。

 これは治癒魔法で体を巡る魔力に干渉した結果、血液の温度が上がりすぎて発火してしまったためだ。肉体の方には常に自動回復魔法のリジェネをかけ続けているので、損傷はしていない。でも今度からこの実験は外でやろうと思う。




 それからも研究を続けて、僕はさまざまな魔法の使い方を極めていった。

 今度こそとフール団長に報告してみたけど、まったく取り合ってもらえなかった。


「『色なし』のくせになにを言ってるのだ? 魔物でも討伐してから言うんだな!」


 フール団長の言葉になるほどと思う。現段階では僕が魔物を倒せるという証拠がない。そこで僕は冒険者ギルドを使うことにした。


 選んだのは完全実力主義の王都最強のギルド、『黒翼のファルコン』だった。


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