第4話 初エンカウントだお

「……タケルのレベルはいくつだ?」

「1だけど、ぼ、僕は今日召喚されたんだから」

「そうか、なら私と一緒にレベル上げに行かないか?」


 レベル上げ、ねぇ……努力じゃどうにもならないことがあるのは、僕は知っている。


 恐らくライザの『雷遁』スキルは、強いんだろうけど。

 僕のスキルは戦闘じゃあ先ず役に立ちそうにない。


「ライザと同じでさ、僕はこの世界を救う気になれない」


 だから希望も野望も、当面の僕には持てそうにないな。


「滅多なこと言うものじゃないが、確かにな。だが、私たちはそれでも生きねばならない。折角、両親から授かった命だ。大望を果たせずとも、本願を叶えられずとも、私たちは寿命を全うすべきなのだ」


 なら、と、ライザは渇いた風に黄金色の毛髪をなびかせ、言葉を継ぎ。


「せめて寿命を全うし易くするよう、レベルは上げておいても損はない」


 彼は僕に、手を差し伸べた。

 それはこの世界にやって来た時、聖女の代表と交わしたかのような絆の証だった。


 ◇ ◇ ◇


 あの後、ライザとパーティーを組んだ僕はモンスターと初エンカウントを迎える。


 ここは王都の近郊にある森で、王都の狩猟組合の狩場として有名らしく。

 鬱蒼とした森林に包まれた中、僕たちは獣道を進んでいた。


「ライザ、モンスターがいるっぽいお」

「こっちの方向か? タケルは下がってろ、先ずは俺が狩る」


 そうだな、実戦経験のある彼と、ない僕とじゃ天と地ほど差がある。

 僕に出来るのはステータスウィンドウで表示された敵の位置を彼に知らせることだった。


「ライザ、そのモンスターは囮かも知れない」


 ステータスウィンドウに表示された地図を見ると、僕らが向いている方角の草むらに赤い点が明滅を繰り返している。だが、赤い点は若干重なっており、モンスターは二匹居るのが判る。


「……剣よ、友を守る力を我に与えたまえ」


 ライザが左の腰元に携えていた刃渡り80センチほどの鉄剣を抜くと、彼の体が若干光る。

 きっと彼の魔法が発動したのだろう。


 そして、ライザは目前の草むらを横に薙ぎ払ったあと、続いて上から下に振り下ろした――ッ!


「アア゛ッ!」


 草むらに隠れていたモンスターは人間の悲鳴のような断末魔を上げる。

 その時を狙ったかのように、ライザの上空から別のモンスターが奇襲を仕掛けた。


「上だ!」


 木の枝に留まっていた巨大な蝙蝠のような形をした奴が、ライザを襲おうとしたけど、ライザは予め警戒していたため奇襲を難なく避けてみせて、カウンター気味に二体目のモンスターの脇から致命傷を負わせていた。


 すると――ステータスウィンドウからジングルが鳴る。


『竹葉タケルがレベルアップしました』


 おお! レーベールーアーップ!

 パーティーを組んでいると、戦わなくても経験値は貰えるんだな。


「レベルが2になったよライザ、ありがとう」

「お礼を言うのはこちらの方だ、よくモンスターの位置がわかったな」

「ああ、ライザに教えておくと、ステータスウィンドウの――」


 その日、僕たちは日が沈むまでその森でレベル上げを断行し。

 ライザは狩ったモンスターの素材を剥ぎ取り、王都で換金した。


 モンスターの素材が金になるのは、剣と魔法の世界らしいシステムだと思えた。


 素材を換金した後、僕とライザは出逢った酒場に戻った。


「……お帰り」

「ただいまだお」

「その様子だと、勇者のジンクスは乗り越えたみたいだな、タケル」


 酒場のマスターっぽい、口髭生やしたオールバックのおじさんが言うには。


「ジンクスって?」


「召喚された勇者の鬼門は、初日なんだよ。盗賊の追剥ぎに合うか、モンスターに殺されるかして、凄惨な目に遭ってお亡くなりになられる」


 怖いお。


 この世界に召喚した聖女たちの神経やら、この世界の死生観に胆が冷える。


「ヒュウエル、今日は私とタケルの二人分だけ、昨日と同じメニューを頼む」

「あいよ。今日は勇者タケルの誕生を祝って、俺の奢りでいいぜ」


 マスターの名前はヒュウエルと言うらしいのと。

 ヒュウエルは使える奴にはちゃんと労う性格の持ち主なのが知れた。


「ヒュウエルさん」

「なんだタケル?」

「この世界に勇者ってどのくらいいるんですか?」

「そう多くはないだろう、何せ王都の聖女による召喚の儀式は熾烈なものだ」


 熾烈……?


「勇者一人召喚する労力は、お前の想像以上ってことだな」


 そうなのか、何となく、心の中で僕を召喚した聖女たちに謝った。


 だって、僕のスキルは本当に屑スキルですからね。

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