第162話 無限の牢獄

 ―― 大宮さつき視点 ――


 神聖帝国の紋章の入った大剣が膨大な魔力をともなって、真宮様の頭上へ今まさに振り下ろされる――

 

 ――そのポーズのまま、固まってしまっている。

 

 それだけではない。弓使いの矢も、魔術士が撃ち込んだ魔法弾も、砕かれた床の破片も、耳をつんざくような大きな雄叫びすらも、全てが鳴りを潜めて痛いほどの静寂が場を支配している。

 

 あらゆるものが突然に止まってしまった。とてつもなく異常なことが起きているというのは分かるのだけど、どうしてこうなっているのかが分からない。

 

 とっさに対デバフ魔法の障壁を張ったおかげで私だけはギリギリ免れることができたけど、すぐ後ろにいた華乃ちゃんは球状に張った障壁から体半分が出てしまっており、驚いた顔のまま停止している。

 

 見れば霧ケ谷さんも剣を抜いたまま、楠様は何か爆薬のようなものを床に振り撒こうとした状態で止まっており、敵も味方も、魔法、破片も関係なく全てに影響が及んでいるようだ。これではまるで――


(時間が止まっているの?)


 もし時間が停止しているだけなら皆助かるはずだけど……全方位から暗い魔力が強く圧迫してきて私の障壁もどれだけ持つか分からない。両手で抗うように魔力を注ぎ続けているせいで身動きできず、華乃ちゃんを内側に入れる余裕もない。

 

 歯を食いしばって必死に障壁を維持していると、何もかもが静止した部屋の中を悠然と歩く者達がいる。一人はこの異常なスキルを使った張本人、真宮しんぐうすばる様だ。


「とりあえず、君。その剣は邪魔だから今すぐ死になさい」


 大剣を振り下ろそうとして固まっていた白ローブの首を、手に持った短刀で一閃。すると時が動き出したかのように血を吹き出して垂直に崩れ落ちた。多量の鮮血をものともせず、転がった首を掴むと部屋の隅まで放り投げてしまう。

 

 そしてもう一人の動ける人物――千鶴さんが白ローブ集団の中まで歩み寄り、花の咲くような笑顔で指を差す。

 

「お兄様。あちらで無駄な抵抗をしている者が一人……」

「ならば千鶴。お前も数人ほど狩ってレベルアップしておくといい」

 

 バリアのような対デバフ魔法《アストラル・ヴェール》を使ったことで千鶴さんもこの時間停止魔法から免れている。というよりも、あの魔法を張ってくれたおかげで強力なデバフ魔法が来ると気付き、私もとっさに障壁を張ることができたわけだけど。


 それは白ローブのヒーラーも同じようで、この時間停止デバフ魔法が来るのを予期し障壁を張って耐え忍んでいたのだ。しかしあの障壁は千鶴さんの使ったような動けるタイプではなく、私が使った魔法と全く同じもの。つまり両手を広げて維持するだけでも精一杯の状況となっている。そこへ千鶴さんがバリアを張ったまま悠々と近づいていくと……手に攻撃魔法の明かりを灯して微笑みかける。

 

「神聖帝国から、はるばるご苦労様。貴方の命は美味しく頂戴いたします」

『Stai, nu te grăbi……』

 

 白ローブは重い息を吐きながら何かを言うものの、白い腕を伸ばした千鶴さんにより隙だらけの胸元へ魔法弾を容赦なく撃ち込まれていく。流れるような動きですぐ隣にいた弓使いと魔術士の側頭部にも魔法弾を放ち、あっという間に数人の命を平らげてしまった。


 片や真宮様も近くにある首をき切って新たな生首を作りだしていく。まるで木になる実を収穫する作業のよう。もはや戦いにすらなっていないけど、それは至極当たり前なことだ。


 時間を止めるという神の御業みわざともいうべき絶対的な力。これがあったからこそ真宮様は神聖帝国の援軍が登場しても動揺しなかったのだろう。むしろ、もっと敵が増えることを望んでいたのではないか。

 

「あぁ……力がふつふつとみなぎってくる。さすがは神聖帝国の首ということかな」

「ついに六路木ろくろぎ様と並ばれました……レベル38おめでとうございます、お兄様」

 

 モンスターではなく、人間を倒してレベルアップを重ねる真宮兄妹。鑑定ワンドで調べていた千鶴さんによれば、真宮様は六路木様と同じ“レベル38”に到達したとのことだ。続けて千鶴さん自身も数人倒してレベル30に到達したと報告し「これ以上は学業に差し障るため辞めておきます」と辞退する始末。

 

 日本においてレベル30以上の冒険者は全体の割合で見れば極端に少なく、最高峰の大規模攻略に所属できる超一流冒険者のあかしとなっている。さらにレベル35以上ともなれば六路木様を含めて十指で数えられるほどまで減少する。

 

 冒険者のレベルランキング上位者は毎年冒険者ギルドが発表しており、様々なメディアで扱われているため学校でも定番の話題となっているのだけど……その領域に易々と入っていく真宮兄妹とは一体何者か。

 

「僕が気になるのかい?」


 障壁を必死に維持しつつ正体を見極めようと目を細めていると、真宮様が持っていた首を放り投げて私の方へ歩み寄ってきた。思考が凍り付き、恐怖で心臓が飛び跳ねそうになってしまう。

 

 たとえ戦闘技術を一切覚えていない武術の素人だとしても、レベル38まで上がってしまえば一流攻略クランメンバーと素手で殺し合うことだって可能なはず。真宮様がその気なら私と華乃ちゃんの首くらい容易に刎ねることくらい造作もなく……ここは何とかして矛先をかわさないといけない。

 

 恐怖で声が上ずりそうになりながらも必死に平静を装って話しかける。

 

「あの……し、真宮様。これは一体どういうことなのですかっ」

「見ての通り、時間を止めているんだよ。みんな動けないでしょ?」


 全方位からくる魔力圧で障壁が潰れないよう震える手で精一杯支えながら尋ねると、真宮様は手に持った短刀をひょい・・・と投げつける。すると標的の白ローブの首が跳ね飛ばされ、短刀は勢いそのままに背後の壁に刺さって大きな亀裂を作り上げる。


 今の短刀を投げる動き……投擲とうてきの達人と言われても違和感がないくらいに全く無駄がなかった。少なくとも武術の素人ではない。


 “ダンジョン嫌いの劣等貴族”と不名誉な呼ばれ方をされているけど、ダンジョンに入らずともこれほどの力と投擲技術を持ち合わせているなら、冒険者学校どころか日本中に名をとどろかせることくらい簡単なはずだ。では何故、汚名を被ったままでいるのだろうか。


 ますます得体の知れない存在となった真宮様は、落ちていた血濡れの剣を拾うととてつもない速さで剣を振り払い、血を飛ばしてから変わらぬ声で話を続ける。

 

「僕らはね、悪を懲らしめる正義の……ではないね。悪の結社なんだけど。さて、おさげのお嬢さんは僕の能力を見ちゃったわけだ、どうしたらいいと思う?」

「……安全策を取るならば、この場にいる目撃者は全て、殺すのが上策かと。ですが――」

 

 時間を止めるスキルを目撃してしまった私の処遇をどうすべきか。その本人の目の前で「殺すのが上策」と無慈悲なことを言いかけた千鶴さんだけど、チラリと華乃ちゃんの方を見るや考え込んでしまった。その態度に何かを察した真宮様は何度も満足そうに頷いてから再び優しく問いかける。

 

「そういえば、千鶴はいつもライバルがいないと言ってたね。あの子は良いライバルになりそうかい?」

「……はい」

 

 ――ライバル。冒険者学校中等部にはあらゆる科目において他を圧倒し、ダンジョン試験でも記録的な数値ばかり叩きだしている天才がいた。ゆくゆくは大規模攻略クランの幹部候補、大貴族の筆頭士族、冒険者省のエリート官僚などと、周囲だけでなくメディアにも期待の声でささやかれる冒険者界の希望の星――真宮千鶴さんのことだ。

 

 しかし本人からすれば誰も相手にならないというのはこの上なく退屈で失望する学校生活となっていたようで、全力でぶつかれるライバルが欲しいと常々願っていたそうだ。そんな天才のライバル候補というのが――そう、私の隣でびっくり顔をして固まっている華乃ちゃんである。

 

 確かにこの子も才能の塊だ。ソウタの多岐に渡る戦闘技術をスポンジのように吸収し、最近ではゴーレムマスターとして手腕を振るっている。その技量にはリサですら舌を巻くほど。類まれな戦闘センスにはますます磨きがかかり、いまだ限界が見えない。

 

 来年には冒険者学校を受験すると言ってたけど、もし華乃ちゃんが入学したらEクラス程度に収まるはずがなく、天才の名を欲しいままにしている千鶴さんでさえ首席の座は危ないのではないのか。そんなことを考えている内に真宮様は私の処遇を勝手に決めてしまう。

 

「おさげの君に何かあれば、千鶴のライバルとなる子も悲しむ……それに、成海颯太は我が陣営・・・・に是非とも欲しい逸材。彼の仲間を傷つけるわけにはいかないね」

「成海颯太……お言葉ですが、あの場で死亡したのでは……」


 もし私を傷つけでもしたら華乃ちゃんが悲しむ、という理由で見逃してくれるようだ。命を懸けて守ろうとした子に逆に救われるなんて嬉しいやら情けないやらだけど、ソウタについて聞き捨てならない発言が飛び出して再びギョッとしてしまう。

 

 どうにかしてソウタを味方にしたいと言うお兄さんに対し、昇降機前の戦いで死んだのではないかと言って眉を下げる千鶴さん。いかに実力があろうとも神聖帝国の傭兵を3人も相手にしたら生き残るすべはないと付け加える。

 

 しかし真宮様は自信たっぷりに首を振って否定する。

 

「あの程度じゃ死なないよ。天が彼の死を許さない。それにね、成海颯太ならば僕のライバルになれると思うんだよ」

「お、お兄様の……ですか?」


 成海颯太という人間は抜けてるように見えるが、頭の回転は速く、何より心の強さがある。一般的に人間というものは強大な力を持つほどに酔いしれ暴力におぼれるものだけど、成海颯太は違う。力を誇示せず大事な人達を守るためならどんな相手にも恐れず全力で立ち向える。そんな人物なら自身の良き理解者でありライバルたりえると真宮様が笑って言う。

 

 よく見ていると思う。ソウタは力によって得られる賞賛や名声などに興味はない。力を振るうのは常に家族や仲間を守るためであり、強い覚悟も持っている。私がソウタを心から信頼している理由がまさにそれなのだ。


 しかし千鶴さんはこれでもかというくらい瞳を大きくして固まってしまっていた。誰よりも強いと信じていたお兄さんがソウタをライバルと認めたことに余ほどのショックを受けた模様。そんな妹さんの反応をよそに真宮様は新たに長槍を拾うと、地を這うような低い姿勢の構えを見せて魔力を放つ。

 

「ということなら残りをさっさと片付けようか。僕のこの力もそう長くは持たないし――ね!」


 強く踏み込んでから大きく跳躍し、大きな盾を構えていた白ローブの上半身を鎧ごと斬り落としたかと思えば、遠心力を使いながら目にもとまらぬ速さでその後ろにいた数人の首を飛ばしていく。重そうな長い槍を苦も無く扱うその姿は、熟練の槍使いにしか見えない。

 

 普段は実力を隠し、周囲から“劣等貴族”と侮られても意に介すことはなく、ここぞというところで強大な力を振るう。様々な武具に精通している点も含めてソウタによく似ている気がする。


 白ローブを無慈悲に狩っていくその先を見届けたかったけど、この吹き荒れる魔力の中で障壁を張り続けるには私の魔力量が足りなすぎる。両手から放出する魔力が次第に弱まっていくのを感じつつ意識を手放すことを覚悟していると、突然外からの重苦しい圧力がふわりと軽くなった。

 

 千鶴さんがバリアを大きくし、その中に入れてくれたのだ。同時に私の隣にいた驚き顔の少女も元気よく動き出す。


「――ぎゃあああ……あ、あれ? ど、どどどうなってるの!? 何が――」


 ツインテールの頭をぶんぶんと左右に振って、驚き顔をさらに悪化させる華乃ちゃん。神聖帝国の正規軍が隊列をなして突進してきたと思ったら、気付けば一面が血の海になっていた。そんな状況なら混乱するのも無理はない。一体何がどうなっているのと周囲を交互に高速で見ながら説明を求めてくるけど、私も理解が追い付いていないので答えることが難しい。


「落ち着いてください。そしてどうか、お兄様の力のことは内密にお願いします」

「ど、どういうこと?」


 千鶴さんによれば真宮様の持つ力とは“一定範囲内の時間を止める”こと。超高位ヒーラーであれば防御魔法を張ってわずかな抵抗はできるものの、それは一時的にすぎない。何故ならヒーラー程度が、本気を出した真宮様と時間の停止した空間内で戦うことなどできるわけがなく、事実上の無敵スキルだという。

 

 無敵……今まさに目の前で世界屈指と謂われる軍隊が無慈悲に刈られているのだから、無敵と言われても否定などできようがない。時間を止める前のちゃらんぽらんな姿と、長槍を鋭く振り回して首を狩っている今の姿とのあまりの差異に戸惑うしかなく、華乃ちゃんも口を食いしばって見ているしかない。


 しかしスキルというのは強力であるほどに体への負担や縛りも大きくなる、それがリサの持論だ。もしそうなら肉体的、精神的、あるいは何か別の負担があるに違いない。もちろん千鶴さんが教えてくれるわけがないけれど。

 

「へ、へぇ……それでチーちゃんはそんな凄いスキルを持つお兄さんと、どうしてこんなところへ?」

 

 華乃ちゃんの踏み込んだ質問に一瞬だけ探るような視線を向ける千鶴さんだけど「因縁のある・・・・・金蘭会の内情を探るために来た」「すると神聖帝国がこんな事態を引き起こしたため仕方なく沈静化に動いていた」と矢継ぎ早に答えてくれる。

 

 そういえば千鶴さんの、霧ケ谷さんや九鬼様を見る目が酷く冷たかったけど、真宮家と金蘭会の間にはどんな因縁があるのかは気になる。加えて、この間もバリアを維持するために顔色一つ変えず莫大な魔力を放ち続けていることから、千鶴さんも何か強大な能力を持っている気がする。

 

 真宮家のさらなる秘密。迫りたいのは山々だけど状況がそれを許さない。

 

 今なおこの部屋は時間が止められ、神聖帝国の正規軍がたった一人に蹂躙じゅうりんされていく。首を失った白ローブが崩れ落ち、血だまりを増やしていく光景はこの目で見ていても理解し難いものがある。

 

 残るは最奥。険しい顔をしたまま固まっている真田様と、傀儡となったくノ一レッドらしき女性の死体。そこへ真宮様が長槍をぐるりと大きく回転させてゆっくりと近づいていく。

 

 たとえ日本最強クラン“カラーズ”の副リーダーであっても、時間を止められてしまえば障害になり得ない。でもこのまま真田様を殺してしまっていいものだろうか。今回の出来事に対する責任や原因を明確にするためにも生かして捕らえるべきではないのか――

  

 そんな思惑も突然の衝撃と衝突音により霧散する。衝撃の度合いがこれまでよりずっと強く、立っていられないほどに揺れる。よろめきつつ何が起こったのか周囲をうかがうと、床や壁にもいくつもひびが入っていることから衝撃の発生源がかなり近くであると分かる。

 

 間を置かず大きな衝撃が襲ってきたため、華乃ちゃんと一緒に姿勢を低くしてやり過ごそうとしていると、暗い魔力で覆われていた空間自体にも亀裂が伝播するように広がり、ガラスが割れたような音を響かせた。


 同時に空中で停止していた無数の魔法弾や床の破片が猛烈な速度で動き出し、爆発音を立てて四散する。千鶴さんがとっさに対デバフ魔法から対物理障壁に切り替えてくれたおかげで難を逃れられたものの、前方では動き出した真田様と真宮様が刃を交えて鍔迫つばぜり合いをしていた。

 

 部屋に充満している暗い魔力はまだ解除されてはいない。だけど真田様が動けていることから時間停止の効力は弱くなった、もしくは解除されたと考えるのが自然だ。

 

 

 火花を散らして何度か武器を交える真宮様は、再び鍔迫り合いに持ち込んで強引に刃を押し込み、真田様に引導を渡そうとする。

 

「これは真田様、僕も忙しいので大人しく死んでくれるとありがたいのですが」

「……この惨状……この力。なるほど、ようやくあなたの正体・・が分かりましたよ」 

 

 気になる会話も、傀儡となったくノ一レッドが真横から疾風のように襲い掛かり中断する。上体を逸らし紙一重でかわした真宮様はそのまま側転しながら槍を投げつけ、新たに拾った剣を手に取って応戦する。時を同じくして動けるようになった二人が滑り込んできた。

 

「何がっ、起きていますの……真宮様っ!?」

「察するものも疑問も色々とあるが、まずは真田の対処が先だ」


 いつの間にかドレス姿から“くノ一レッド”の忍者スーツに早変わりしていた楠様が、目の前で行われている戦いを見て目を丸くする。一振りで空気を震わし高濃度の魔力が込められた斬撃が入れ替わり立ち替わり高速で放たれる、それがカラーズ幹部と幼馴染によるものだと分かればどういったショックを受けるのか、私には想像できない。

 

 一方で、気付けば神聖帝国の軍隊が壊滅していることに驚く霧ケ谷さんだけど、素早く周囲を見渡して「何よりもまずは真田の対処が先だ」と警告する。確かに今なら数で押せそうではあるけれど――

 

 傀儡が無数のフェイントを織り交ぜて斬り込んでいき、その間に膨大な魔力を練り込んで魔法をいくつも詠唱する真田様。対して黒い残像となって猛烈な速度で傀儡を引き剥がし、そのままの勢いで拾った大剣を叩き込もうとする真宮様。障壁と斬撃がぶつかって眩しいほどの光を放ち、遅れてここまで衝撃波が届いてくる。

 

 あの超一流の戦いに入ったところで何かをできるわけではない。足手まといにならぬよう見ていることしかできない自分に歯がゆく思うものの、華乃ちゃんだけは前のめりになって目を輝かせていた。

 

「あの真田様を相手に……凄い! チーちゃんのお兄さんってこんなに強かったんだね!」

「これくらいお兄様なら当然で――また来ました」


 自身の兄を凄い凄いと褒め称える声に、鼻を膨らませて当然だと肯定しようとする千鶴さん。しかし外から三度目となる衝撃が襲い、この部屋を覆っていた暗い魔力が完全に霧散する。


 急激に色と音が戻っていくのを確認しつつ外壁に目を移せば、今の衝撃で大きな穴が開いており、強い風と一緒にデタラメな魔力が流れ込んできているのを感じ取れる。それにひとたび触れると心臓を直接握られたかのような錯覚を受けてしまい、恐怖で心が砕かれそうになってしまう。

 

 あの魔力の持ち主がこの部屋へ入って来ようとしているのだ。

 

 華乃ちゃんの頭を手繰り寄せて恐る恐る様子を見ていると、大穴から眩しい光が放たれ、かと思えばほぼ同時に千鶴さんの張った障壁に激しく着弾する。焼け付くような臭いと高温の風が吹き荒れ、その一瞬に見えたシルエットは――


 完全武装したミハイロ・マキシムと、その右手に掴まれて力なく垂れ下がる白い蜘蛛、アーサー君の姿だった。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る